第5話 止まらない欲望
健診の日から約1ヶ月が経った12月31日。
「そろそろ番号の発表があるんじゃない?」
そんな母の声で目が覚める。
「あぁ…もうそんな時間か。」
どうやら俺は父に抱きかかえられ、膝の上で寝ていたようだ。
最近は眠気を感じることは少なくなっていたが、今日みたいに気付いたら寝ていた、なんてことはまだまだあるみたいだ。
そんなことよりもどうやら今から宝くじの当選発表があるらしい。
結局あの後は、1等の当選番号が書いてあるくじを買うことにした。
母が調べた限りだと1等は7億円、前後賞がそれぞれ1億5000万円で、計10億円という感じらしい。
連番で買えば基本的に10億円だ。
例え7億円でも、あくまで今回は記憶が正しいのかの検証なんだから気にしなくても良かったんだけど…
「また投資をやってるの?適当…はダメだろうけど、良さそうなやつを選べば良いじゃない。」
「いや、それは駄目だな。ちゃんと計算してやるべきだ。特に今回は今年までの貯金全てなんだ。これで来年無くなりましたでは笑えない。」
母が父の隣りのソファに座りながらそんなこと言う。
どうやら父は投資をやっているみたいだ。
まぁ仕事が仕事だからやっててもおかしくはないか。
資産運用は前世ではよくやっていたため父がどんな投資の仕方をするのか興味が湧いた。
そして丁度今、俺は膝の上にいるためスマホの画面がよく見えた。
あれ?この会社ってこんなもんだっけ?
うーん…?そうか!30年以上前の段階だからか
…これ、もしかしてズル…じゃなくて検証出来るんじゃ…
「あっ!当選番号の発表だって!1等が最後になるような順になってるみたいね。」
「それはそうだろう。なんでも最後が1番盛り上がるように出来ているさ。」
俺が検証をすべきかうーん、うーんと唸っている間に、宝くじの発表時間となった。
「さぁ誰が1番になるかな?」
「そう当たるもんでもないんだ。誰も当たらずに同率になるのがオチだな。」
父が夢のないことを言うが実際そんなものだろう。
大きな額のものは全て天文学的な確率だ。
今回俺が選んだ連番も1枚が1等で2枚が1等前後賞、1枚が最低保証の300円、他6枚はハズレのものだ。
「じゃあ、終わり方も勝負してみる?」
「お断りだ」
母が上機嫌な様子でそんなことを提案するが、父は一刀両断する。
まぁ父さんはそういうこと嫌いだしね
そんな会話を続けながらも発表された番号と自分のくじの番号を照らし合わせる。
次は3等の発表だが今のところ当たりは無いようだ。
「低い等級なら当たる可能性もあったんだが、これはもう無理だな。」
「え〜…まだ終わってないんだし諦めるのは早いわよ。」
まぁ普通なら当たる訳ないと諦めても良さそうだけど、なんだかんだ言ってもまだテレビを見てるんだから諦めてはなさそうだよね
それよりも俺は考えるべきことがある!
この父さんの投資をどうするか…だ!
正直宝くじが当たれば検証については十分だと思うが、本当に偶然当たった可能性があるため、投資をしてみるか悩むところである。
2回連続であればそれは運で片付けられないだろう。
うーん…まぁ、やりますか…
となると、どの会社に投資するかって事だよなぁ…
欲しい条件としては、分かりやすく伸びることと伸び続けることの2つだ。
分かりやすく伸びるのであれば、記憶が正しいのかが、伸び続けるのであれば、この世界が記憶通りに進んでいるかどうかの確認がしやすい。
そしてそんな都合の良い企業があるのかと言うと――
あるんだよねぇ…
俺の前世でもよく投資していたとこが…
そうあるのだ。
株が15、6年で一気に上がり、その後も緩やかに上昇していくとこが。
前世の俺も確実に稼げる会社ということでよく投資していた。
問題は…いつやるのかということだな
今現在父はスマホをいじりながらテレビを見ている。
そのスマホを勝手にいじることは出来ないだろう。
個人証明や手続きなんかは記憶しているから問題ない
やる事は検索して投資するだけ…
単純な事だが、タイミングが難しい。
父さんがスマホを手放せば良いんだけど…
「来るわよ1等の発表!」
「あぁ、そうだな」
ついに1等の発表が来た。
父も野暮なことは言わず、じっとテレビを見つめる。
ここまで当たったくじは3人とも最低保証の300円だけ。
そんな中俺は――
ナイスタイミング!
これでスマホを弄れる!
父がテレビに集中しようと、スマホを横に置いたのを見計らってそのスマホを取りに動く。
うーん…子供の体は動きずらい…
よしっ!取れた!
え〜っと…検索検索…
「ダメね、私はハズレだわ」
「俺もだ。さて、真夜のは…」
OK〜見つけた!
後は記憶通りに進めて…
「ん?………これ…当たってないか?」
「えっ!嘘!?………ほんとだ…同じ番号ね…」
よし…任務完了!
あっヤバい…眠くなって来た…
なんでいつも良い所で…
でもまぁ、宝くじ聞いてなかった…うぅ…
心地よい達成感を感じながら俺はソファの上で寝転んだ。
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「………。」
「………。」
沈黙が場を支配する。
「……まさか、当たるとはな…。」
「……えぇ、まぁ、言ったでしょ?」
沈黙を破ったのは、未だ夢ではないかと疑っている男性だ。
「虚勢を貼るな。予想外だって顔に書いてあるぞ。」
「仕方ないじゃない…。私だって当たるとしても4等以下だと思ってたわよ。」
そう言って女性は、ソファで気持ち良さそうに眠る子を見る。
「はあ〜…。しかもこれ前後賞入るから合計で10億だぞ…。」
「10億…。現実味がないわね…。」
流石に現実を見始めた男――父は当たった額に間違いがないか調べる。
「とりあえず明日換金に行ってくる。そこで本当に間違いが無いか確かめるさ。」
「えぇ…気を付けてね。それにしても…10億円かぁ〜…何に使いましょう?」
いきなり超大金を貰ったところで、今まで一般庶民だった2人にはどう使うかのプランが立てられなかった。
「まぁ、考えるなら換金できた後だな。ところで俺のスマホがどこにあるか知らないか?」
「ふふっ…驚きすぎて記憶がとんじゃった?え〜っと……あれ?……あ!真夜ちゃんが持ってるわよ。」
いつも冷静沈着な父が驚いていることに嬉しくなり、思わず笑いが零れてしまう。
「たくっ…こいつは…こっちが混乱してるってのに気持ち良さそうに眠りやがって…。」
「ホントね…当てた張本人なのに…。…そういえば勝者は真夜ちゃんってことよね?」
今更ながら、この出来事を引き起こした我が子について考える父と母。
「そうだな。勝者には何かあるのか?」
「いえ、特に考えてなかったわ。」
引き分けに終わると考えていた父とただ楽しみたかっただけの母。
当然、勝ったときの報酬などは考えていなかった。
「ならこの金全部こいつのものにするか?」
「ふふっ…子供に与えるには大きすぎるわね。」
勝ったら総取り、と父が冗談交じりに提案する。
「とは言ってもな…、俺たちだけじゃ使い切れないぞ。少しくらい渡しても良いだろ?」
「まぁ確かに当てたのはこの子だし……ってダメダメ、押し付けるのはなし!それに教育にも悪いしね……投資に使うのはどう?」
子供に大金を渡すのは嫌だ、と母は先程話していた投資に使えば良いと新しく提案する。
「流石に額が大きすぎる……ん?」
「どうしたの?」
投資の話が出たためスマホを確認した父が怪訝な声を漏らす。
「いや、なぜか支払い済みの画面に…」
「えぇ!?どういうこと?」
今まで長い間貯金してきたお金が全て1つの会社に投資されていることに焦り、眉間に皺を寄せる父。
「スマホを乗っとられた…という訳でも無さそうだな。」
「え?じゃあ何が…あ、もしかして真夜ちゃん?」
父はスマホのセキュリティソフトを見てひとまず安心するが、何が起こったのかと思考を巡らす。
そんな中母は、スマホを持っていた我が子が何かしたのではないかと推測する。
「いや、投資するためにはそれなりに複雑な工程がいるぞ。たまたま出来たなんてありえないだろ。」
「でも真夜ちゃんはラッキーボーイじゃない?たまたまで出来るんだったら出来るかもしれないわ」
投資するまでの工程は大人には簡単だが子供には難しいだろう。ましてや生まれて半年の赤子が出来るとは思えなかった。
「うーむ…確かに、ありえないことが起こったばかりだもんな。もう一度起きても不思議では無い…か。」
「うんうん。私たちの息子だもの、これぐらい出来るに決まってるわ!そうだ!それを報酬にしましょう!」
父とは違い早く切り替えた母は、先程の勝者の報酬にすることを提案する。
「んー…、色々心配だが、まぁそれで良いか。」
「ええ、それで良いでしょ!…それにしても今日は現実味のないことだらけで楽しかったわね!」
母に遅れながら、子供のしたことと切り替えた父。
母はいつもの調子に戻ったのか、今日の濃い一日を振り返って楽しそうにしている。
そうして、天道家の激動の一日が過ぎていった。




