第2話 希望ではなく絶望
目が覚めるとそこは月明かりに照らされた暗い部屋だった。
どうやら今は夜らしい。
――そして俺はこの光景を知っている
正確には見たことがある、だろうか。
今世ではなく前世で
前世の記憶があるだけでもおかしいのに、その記憶が前世の自分ですら思い出せないような細部まで思い出せてしまう……
誰でも良いから何が起きているのか説明してくれ…
俺は何をすれば良い?この事態を引き起こした奴がいるのなら何が目的なんだ?俺にやって欲しいことでもあるのか?それともただの実験だったのか?俺は巻き込まれたのか?全部偶然なのか?なら……
なら、なんで…
なんで俺なんだ……
俺は別に人生をやり直したいなんて思ってないっ……!
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……寝てたのか…
夢、じゃないよな…
一瞬全てが夢だった、という落ちがないかと多少期待しながら目を自分の体へと向ける。しかし、見えたのは柔らかく丸まっており、明らかに小さくなった自分の姿。
これからこの姿で過ごすとなると、嫌になってくるな
近い未来ですることになるだろう食事とそれによる排泄で自分がどういう扱いを受けるかを想像して、あまりの醜態に不快感を募らせる。
今更思春期みたいにはならないが、介護が必要な歳でもないのに同じようなことをされるのは嫌だ。
まあ、どうにもならないか
母乳を吸うことになっても、裸を見られることも、進んでしたいとは思わないが必要なら抵抗はしない。
ただ、前世でもまだ40に届いていないのに老人のように世話をされるのは流石に複雑な心境になる。
問題は俺にこれからがあるのかって事だよな
いつまた埒外のことが起こって死ぬのか分からないんだし
とりあえず考え続けるだけ不快な話題は止め、改めて今起こって居ることに思考を向ける。これから俺はどうなるのか?
転生してから体感では1日が経った、お腹の中に居る時間を含めればもっと経っている。なら、突然今の俺がなくなるなんてことにはならないだろう。
前世の記憶があればある程度前世に沿った人生も歩める。
生きる、という目標であれば前世と同じように過ごせば良い。
死因は何故かよく思い出せないが、突発的な事故だったはずだ。ならば、それさえ避けられればもう簡単に死ぬこともないだろう。だが──
それは、したくないな…
前世の記憶を産まれたときから死ぬ瞬間まで、高速で辿って行く。何回も。
誰が好き好んで不幸な未来へ歩もうとするのか。
何度も自分の人生を振り返る度に思うのは、ただからっぽのまま死んで行く自分を思い出す度に考えるのは、果たしてそれは自分の人生だと言えるのかと思う程社会の歯車になっている自分を見る度に感じたのは──
「はぁ…」
呆れ、怒り、諦観、様々な感情が綯い交ぜになり吐いた溜息は
希望に満ち溢れた子供が吐いたとは考えられないほど重く、暗い。
両親に対して特に良い思い出もない、から正直自殺しても良い。しかしそれは前世での話だ。前世のように義理を果たして関係を無くすことは出来ない。
ただ前世に倣って生きていくのも嫌だ。
何故か覚えていられる記憶を使えば俺の知る世界のままにも、全く別の世界線にもなる。
変化した世界線では不幸な人間が増えるだろう。記憶を使えばいくらでも俺は幸福を享受出来るから。
俺が躊躇しているのはそれだ。
幸せを感じられない俺が、他人の幸せを奪って良いのか。
答えは出ない。
ただ、たとえ不可思議な能力だとしても、自分の力を使って幸福になろうとするのは当然のことなのではないかと思う。




