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四話 時間が経とうと変わらないものもある

 「私も話があるの。私から話させて」


 頬を桃色に染めつつも今度は目を離さずに、じっと叶の目を見つめる。

 それに免じて叶は話を聞くことにした。


「わかった。お先にどうぞ」

「……ありがと」


 照れ隠しをするように短く礼をすると、また前に向き直る。


「叶は私のことを男だと思っていたじゃない?」


 これは事実だがそれは心理的にだ。

 だからここで深く突っ込まなかった。


「まあ、そうだな」

「でも私は、昨日言った通り、君のことが好きだった」


 それは叶も同じだ。

 だからここで言うべきだと考えた。


「あのさ、めぐ───」

「言わないで!」


 恵のはっきりした声に叶の告白は遮られた。


「わかってる。君が私のことを女として見てなかったのは、でも私はやっぱり君が、叶が好きなの……!だから、だから……私に時間を下さい……」


「いや、だから俺も───」

「三年間も待たせたんだから、これぐらいは許してよ……わかったら今は黙って聞いてよ……」

「……わかった」


 今にも泣きだしそうな恵を前に叶はつい、そう言ってしまった。


 (いや、いやいやいや、たった一言『俺も好きだ』って言えばいいだけの話だろ!?)


 だが叶の性格上、一度約束してしまったことを破ることは許されなかった。

 そのためこのターンから叶は恵の話を聞くしかないのである。



「やっぱり君は優しいね。そういうところが好き」


 (だから俺もお前が好きなんだって)


「えっと、その本題になるんだけど、高校二年生になるまでは返事を考えてほしいの。もし高校二年生になっても私のことを親友だと思ってるんだったら、振ってほしい。そしたら、私も、諦めがつく、と思うから……でも、私のことを好きになってたら、三学期の終業式に、その、君……叶から告白してほしい!……駄目、かな……」


 叶が考え込もうとすると

「三年も待ったのに」

 というすねた呟きが聞こえてきたので、やむを得ず承諾してしまった。


 すると恵は初めて会った時のように目を輝かせ、

「絶対落としてあげるから」

 と自信ありげに言った。


 (いやもう八年前に落ちてるから)


 叶のツッコミは誰にも届かず、仕方なく一年間待つことにした。


「ねぇ君、これから時間ある?」

「ん?あるよ。てかなんでいつも『君』って呼ぶんだ?昨日は『叶』だったけど」

「君は君だからだよ、見たい映画があったんだ。アニメの映画なんだけど」


 恵は咄嗟に言い訳したが、本当は『叶』と呼ぶのが恥ずかしいからである。


 公園を出て、歩いて十分。 

 そこにはターミナル駅がある。

 叶が通う高校の最寄り駅。

「鶴羽大学駅」だ。


 ここには映画館、ゲームセンター、ショッピングモール、レストランなど、ありとあらゆるものが揃っている。


 今日は土曜日。

 それなりに賑わっている。


 現在時刻は11時50分。


 先に昼ご飯を食べることにした。


 フードコートに行くと、ほぼほぼ満席だった。

 昼頃だから仕方がない。


 それでも一番奥の方の隅っこ、二人用の席が空いていた。

 叶は温玉うどん。

 恵はアボカドとエビ、それとトマトが入ったクレープを注文した。


「恵、それで足りるか?クレープだし」

「クレープを(あなど)らない方がいいよ、意外とボリューミーだし……なんなら君も、食べてみる?」


 そういい恵はクレープを差し出してきた。

 だが目をそらしているのと緊張が相まって、クレープが安定せずにいた。


 叶は普通に興味があったため、食べることにしたが、どうも食べづらい。


 仕方なく叶は恵の手の付け根をみ掴み、自分側へ引寄せ少し食べた。


 恵の言ったとおりだった。

 少しかじった程度だが、細かく刻まれたアボカドとトマト、ゴロゴロに入ったエビが本当によくあう。

 そして生地が薄い分、それがぎっしり入っているのだ。


 叶もたった一口ながら、味でも量でも満足感を得て、正直感動していた。


 一方恵はというと。


 (なんか引寄せられて、食べられた……し、しかも私の食べかけのとこ……やばい間接キスじゃん!ここ食べたら間接キスじゃん!)

 恵の心臓は減速を知らず一方的に加速する。


 (大丈夫、落ち着きなさい私。叶と付き合ったらそのうちキスもするし、それ以上の……じゃない!)


 ───五分後


「あの、恵さん?さっきから手が止まってるように見えるんですけど」

 すでに食べ終わった叶はさっきから頬を染めている恵に対して言う。


「だ、だってか───」

「か?」

「か、かん───」

「かん?」

「か、勘違いしないでよね!?」

「お、おう」


 (……なぜツンデレ?)

 (なんで私ツンデレみたいになってんの!?)


「おなかいっぱいだったら、俺食うけど?」

「私を食べる!?」

「言ってない、言ってない」

「そ、そうだよね、ごめん。気が動転しちゃって」

「んじゃ食うから頂戴」


 そう言い、叶がクレープをとろうとすると

「絶対駄目」

 と、冷ややかな目で恵に払われた。


 (そ、そこまでこのクレープを大事に食べようとしてたのか。ごめん、やっぱり俺鈍感かもしれない)

 間違った心理をたたき出した叶が心の中で恵に謝る。


 せっかくの間接キスのチャンスなのだ。

 恵は絶対に無駄にはしたくなかった。


 思い切ってがぶっとクレープにかみつく。

 (意識しない、意識しない)

 恵は心の中で呪文のように唱えながらひたすらに食べ進めた。


 すると叶がニヤニヤしながらこっちを見ていることに気づいた。

「な、何?」

 不安になって恵は聞いた。

「いや、小動物みたいで可愛いなと思ってさ」

 思わぬ返答に一瞬クレープが詰まりそうになった。


「ゴホっ、ゴホっ」

「大丈夫か恵!これ水!」


 それは叶の飲みかけだった。


 あいにく自分の水は、すでに心を落ち着かせようと飲んでしまった後だった。

 まあ、効果はなかったのだが。


(意識しない!意識しない!)

 心の中で暗唱し、恵は覚悟を決める。


 一気に水を流し込み、紙コップをテーブルの上に置く。


「……本当に君はどれだけ私をドキドキさせれば気が済むんだ」

 綺麗な瞳を向けながら叶に言う。


 正直、叶は間接キスなどは気にしないタイプだ。

 それでもあんなに意識されたらこっちまで意識してしまうし、途中の『私を食べる!?』発言は軽くいなしたものの、そのあと脳から離れなかった。


「表にはあんま出してないけど、俺も意外とドキドキしてる」

「本当?私にドキドキしてる?」

「ああ、だから俺以外に今みたいな発言すんなよ」


「叶以外にこんなこと言わないよ」

 恵はボソッと何かを呟いたが叶は聞き取れなかった。


 フードコートを出た二人は映画館へ向かった。


 ふっと思い出したように叶は言う。


「そういえば一回、恵と映画館に来た時があったな。あの時も確かアニメの映画だったな」

「そうだね。君が敵キャラが怖くて私の手を握ったことを今でも覚えてる」

「それは忘れてくれ……」


 ふふふ、と恵も思い出すように笑う。


「それでどれを見るんだ?」

 映画館の券売機についたところで叶は聞く。


「これこれ、『夢で君と恋をする』」


 ───『夢で君と恋をする』


 脚本家は数々の有名な作品を作り出してる売れっ子だ。

 あらすじは田舎に住んでいる女子高生と、都会に住んでいる男子高校生が夢の中で出会い恋をするという話だ。

 

 「ああ、これな。俺も予告編見て気になってたんだ」

 「だよね。三年ぶりの作品だから私も期待してる」


 期待を胸にシアターに入る。


 何本かの広告が流れた後、照明が薄くなった。

 どうやら始まるらしい。


  と、叶は手に感触を感じた。

 叶よりも小さな手───恵の手だった。


 

 

 ───観賞後

 

 「いやぁ泣いたわ」

 「ね、最後二人が出会えてほんと良かった」

 「作画、音響、脚本、演出、全てにおいて神だった。神アニメだった」

 「最後のキスシーンもよかったよね」

 「ああ、あの朝日が上がるとともにする演出な」

 

 そこで叶は思い出した。


 「せめて何か前置きしてから手をつないでくれ、正直ちょっと焦った」

 「ごめんごめん。叶が怖いんじゃないかと思って、すぐ繋いじゃった」

 「これアクション系じゃないだろ。てかもうビビんないし」

 

 叶の不満そうな顔を見て恵は満足そうな顔をした。


 不満げな目をした叶と目が合う。


「次の作品も見に行こうね」

 ニコッと恵が笑顔になる。


 「そうだな」

 叶も笑顔をお返しした。


 
















 

昔のように笑いあう二人。

高校生活編突入!






読了ありがとうございました!

少しでも「面白い!」「続きを読みたい!」「主殿、更新ファイト!」



と思ってくださたならブックマーク、広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしてくれると嬉しいです。


皆さんの意見が作品をより良いものへと変えるので感想のほうもおまちしています。

もちろん応援も!


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