プロローグ
ちょうど中学生になる時、父親の仕事の都合で引っ越すことになった。
俺には親友と呼べる存在がいて、だいたい土曜日はその子と他愛の話をしていた。
話した内容については覚えていない。思い出せないのだ。
思い出せないとは言うけれど、うっすらとは覚えている。
例えるなら夢から覚めて少し経った後に、さっきまではっきりしていた風景がぼやけて見えるような感じだ。
でも一つだけ。
毎日忘れず鮮明に覚えていることがある。
それは──再会の約束だった。
父の転勤で引っ越すことになった日。
俺とその子は枯れるほどの涙を流して──また二人会う約束をして──泣いた分、きっと笑いあった。
約束をしたのは随分前──小学生の頃。
だから彼はもう覚えていなくて、待ち合わせ場所にいないかもしれない。
約束を覚えていたとしても、そこに来てくれるのかも分からない。
……いや、それはないか。彼は何があっても約束を守ろうとする子だった。
カーナビが目的地まであと十分程度だと教えてくれる。
数年ぶりに訪れた町は見覚えがある場所と、変わってしまった場所の変化がはっきりしている。
この春、俺は一人暮らしをすることになる。
誰よりも輝いた笑顔のあの子との約束を果たすために。
そんなこんなを考えているうちにどうやら新居に着くらしい。
小学校六年生のイメージのまんま成長していれば、彼は高身長イケメンになっているだろう。
あくまで、小学校の頃のイメージ通りならば。
そんなことがあったなら──
あの頃の俺は報われるのだろうか。