玉座
あいつは囁く、檻の中から。
僕を唆そうと、鉄格子に手を掛け。
直に顔を捻り込ませ、
相見えようとするあいつ。
口元は裂けて、尖った牙から溜るよだれ。
時にあいつは叫び暴れる。
囁くことに痺れを切らし、
鉄格子をひしゃげて檻を破ろうとする。
怯える僕は、
目をそらして耳を塞いで時を待つ。
彼女が来てから、あいつは大人しい。
歪な檻のその中で、
いつからかあった玉座で肘を着いている。
彼女と居る僕を見下しては、
鼻で笑って大股開きに座している。
僕がもっと強ければ、
あいつを檻から出してあげれるのに。
檻から出たら、
あいつは僕を閉じ込めるだろう。
また僕は、
僕等は閉じ込められてしまう。
あいつには僕が必要で、
僕にもあいつが必要で。
だからあいつは僕を葬れないし、
僕もあいつを閉じ込めた。
偶然、僕が表に近かっただけの差。
僕がもっと強かったら、
あの玉座にも座る事を許してくれるかな。
その時は、
あいつを解き放ってしまうけれどね。