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【二次審査の結果発表】


そして動画が公開されて二週間。


ポジティブともネガティブとも取れる時間を過ごし切り、とうとう投票結果が発表される日を迎えた。


日付が変わってすぐ、零時に特設サイト上で公開されるそれを三人で一緒に見ようと有希に提案されたけれど結果の読めない私は断った。


受験の合格発表を見に行くグループと一緒。確実に受かる組ときっと落ちる組に分かれていたでしょう。友達と見に行って一人だけ落ちた時の帰路の虚しさ。きっと信じられないくらい足元が冷えるんだろう。私はこれまで合格したことしかないから計り知れないけど。


十五分前くらいから部屋のいつもの定位置であるベッドに背中をもたれてテーブルでノートパソコンを起動させ、零時丁度を待つ。こんなにソワソワして何になるんだ。


前傾姿勢の自分にも二十三時五十七分頃に飽き、結果を即確認しようとする自分にも冷めてしまったので温かい飲み物を摂取すべくキッチンへ向かう。


途中トイレで用を足してから向かうとリビングにいた母に結果を尋ねられたので掛け時計に目をやると零時丁度から少し右にズレた長針。「まだ見てない」とケトルのスイッチを入れマグカップにココアの粉を入れながら返すと「あんたはいつもしれっとしてるわね」と呆れたようなジト目で返された。


内心、零時を越えたことに少し安心している。


普段通り平然を装って冷静ぶった自分でいられてよかった。少しその場に留まって虚無を演出しているとケトルがカチッと音を立てて沸騰を知らせる。ゆっくりとマグカップに熱湯を注ぐと白い湯気が立ちスプーンで軽くかき混ぜると続いて香りが立つ。


一挙手一投足に冷静な自分を込めて、ココアを片手に自室に戻ると携帯からメッセージが届いたことを知らせる音が立て続けに鳴っていた。


その音によって誘発された恐怖心が手汗を生みマグカップと私の関係性を危険なものにする。滑らせないように細心の注意を払ってなんとかテーブルに置き、携帯には触れずに避け続けていた特設サイトへアクセスした。


NEW! ランキング更新。


クリックしろと言わんばかりに主張された項目にカーソルを合わせてダブルクリックをすると少しロードに時間がかかりアクセスの集中を察する。


切り替わったページ、一番上、第一位の顔写真。……南茅乃(みなみかやの)


予期せぬ人物。以下も早く見進めたいのに予想外の衝撃で画面をまじまじと見つめてしまった。


顔写真をクリックすると運営からのコメントが見られる仕様になっているそうだけれどもう一度鳴るメッセージの受信音に突き動かされて画面をスクロールする。


二位に当確だろうと思われていたチア部の部長。


三位に一番見知った、乙部有希の顔と名前。


そこまで見て一気に諦めの境地に振り切れてランキングページの一番下まで高速でスクロールをして何位まで通過したのかを先に確認する。通過者の最低ランクは十二位。あまり印象には残っていない、確か一年の子。そこまで確認すると意識する前に鼓動が跳ねて脳に異変を知らせた。


……上に少し見切れた一個上の十一位、これ、私だ。


私の顔がしっかりと確認できるように少し上にスクロールして、見間違えではない現実を噛み締めていると画像の自分が認識より不細工で笑えてくる。


笑えるくらいにメンタルが回復した、ということは回復の幅が生まれるくらいにここ最近はメンタルがブレていたんだな。気が付かなかった。そんな思いでやっと一口含むことができたココアは少し冷めて猫舌の私には飲み頃になっていた。


気を取りなしてそれぞれの順位を下から眺めていると携帯がメッセージを受信する。


手に取り目を向けると未読が数件。有希やシラティ、デイビッドを筆頭に英会話で知り合った人。そしてそれほど仲の良いわけではない同級生がちらほら。


とりあえず有希とシラティからのものを確認して、有希には称賛と安堵を、シラティには感謝と安堵を返信する。


今まで自信を持って挑んだことに関しては一位ではなくとも全体から見るとそれなりに上位に位置できてきたのにここで下から二番目通過。諦めの境地で生きていたのにいざ通過となるとこのランクの低さに怒りに近い忸怩たる思いを抱いている。


特に関わりのあった人たちに取り急ぎ返信をしていると追撃のメッセージを何件か受信していく中に池田さんから通過者宛ての連絡が混じっていた。明日の放課後にいつもの場所へという招集連絡。初めはあれだけ窮屈だった教室内が明日でとうとう十二人だけになる。



甘いココアを順調に体内へ注ぐことでどれだけ落ち着いても画面に表示されたどこか不細工に映る私。その不細工にカーゾルを合わせると画像の縁が四角く光りクリックできるようになっているけれど、公式が私をどう見てどう評価しているのか。十一位だとしても絶賛してもらえるものか。微かに漂う恐怖をココアの香りで上塗りして、満を持してクリックする。


画面が切り替わる。




十一位 函美咲。二年。


流暢な英語を披露した彼女は海外票をひとりじめ!短期留学生に何度も選出され、英語スピーチコンテストの全国大会に進出し優秀賞が受賞した経歴を持つ美咲の実力は英語だけじゃない。試験では学年順位で一桁以外取ったことがなく勉強はもはや趣味の域という筋金入りの才女。そして存在するだけで醸し出されるミステリアスな雰囲気。ジャパニーズクールビューティ美咲、きっと世界の最先端を行く存在になるだろう。




……盛りに盛られて余計なものを削ぎ落とした綺麗な文章。


これを読む自分自身とのギャップにくらくらと眩暈を起こしながら存分に酔い、浸る。甘いココアが旨い。そして海外票と括ることが出来るくらい国外からの票を集めることができるリンク氏のアイドルオーディションの大きさに衝撃を受ける。そしてそれに救われたのはきっと私のみ。そんな優越。そんな愉悦。


通過した十二人の顔をざっと確認すると案の定なメンバーの中にどうしてこの子が、といった面子も紛れている。


自己PR動画もインパクトが薄くあまり印象に残らなかったような子。客観的に見ると私もその内の一人である可能性が高いのでそれを叩く資格なんてまず私には無いのだけど、その中でも一位の南茅乃がパっと見で圧倒的意外性。


いや、よくよく考えれば納得できるか。彼女の一位は後援力だ。


二年のギャル三人衆の唯一の生き残り、それが南茅乃。


自己PR動画は緊張からか終始どこか伏し目がちで、こんな見た目だけど特技が料理と手芸です、といったことを特に凝って何かを見せることもなく言葉だけで伝えていた。


こんな見た目とは言ってはいるが井の中の蛙というか、進学校の中のギャル。そして三人衆の中でも一番落ち着いた様子。もはや普通の子なのである。それでも、腐っても当校のギャル。スクールカースト上位。他二人の力もあれば校内票を集めるのなんて容易いはず。校内にはオーディションに興味のない生徒も多数いるわけで、取り巻きの他にその人たちにも南茅乃へ毎日投票するように促したのだろう。まあ、そもそも南茅乃も一次審査でリンク氏の基準を満たした子の一人。ここでは伝わり切らなかった個性やら魅力やらを持っているはずだ。


それにしても各通過者に対する運営からのコメントが秀逸。十二人が運営からどう見られているか全員分を確認したのだけれど、同じくらいの文字数と熱量で収められていてここで差別をさせないという確固たる意志を感じた。


気が付けば六月の終わり。暑さで思考が鈍る一番苦手な季節を例年にはない情況で迎える。





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