【隠されていた才能】
夏休みも終盤に差し掛かった頃には披露する楽曲、ステージの構成、ダンスの振り、歌のパート分けまでが決定し、現在はステージを想定した三十分を何度も熟して、録画を見て細かな動き等を詰める作業に差し掛かっている。
ギターソロをサックスに変える案も無事に通りドラマの間奏にソロを披露してもらうことになったのだけど、そのサックスの腕前もさることながらあれだけ歌って踊った後に凄まじくパワフルな旋律を即座に奏でてしまうその肺活量にも驚愕したし、赤平佳代は流石の運動神経で、初めてしっかり踊ると言っていたのに小柄な体格からは想像つかないくらいに大きくてきぱきと踊って見せるので目が惹かれるものがあり、ダンスの揃い具合やその導線を確認すべく定点で録画したものを見た時に基本的ほとんど曲のサビでのセンターを務めていた有希本人の「センターを佳代ちゃんにしたい」という提案が採用になるという一幕もあった。
構成を話し合う前に全員の共通認識で有希がセンターで当然と思われていたところがあったしきっと有希もセンターでありたかったはずなのに自我を出さず魅力的なステージを魅せる為に一番映える構成を自ら提案する。その様子もしっかりとリンク氏に繋がるカメラが捉えていた。
南茅乃は本当に全てを卒なく熟した。特に歌の面では変な癖がないから綺麗でどのパートでも使いやすいと森清香が絶賛していたし、振りを覚えるのも早くミスが少ない。
でもそれ以上に驚きの一面を見せたのは衣装決めでのこと。
白いワイシャツに学校指定のリボン、そしてそれぞれにイメージカラーを設定してそのカラーのスカートを履こうということになった時だ。赤平佳代が赤、有希が水色、森清香が黄色、上川真奈美が緑、南茅乃が紫で、私が黒。そう決まってネットでスカートを探すも同じような型で其々の色を扱うところがどこにもなく、イメージカラーのスカート案が白紙に戻りそうになった時だった。
「え、生地買って作ればよくない? 」
南茅乃が当たり前かのように呟いた。
「単色の生地なら手芸ショップに確実にあるし。スカート丈も皆の好きな丈にしたら個性出るし」
そんな提案に其々の顔が強張るのが見て取れる。振りの練度を上げたり各々が手を掛けたいと思っているものがあるのに衣装を一から作るという部分に労力を割くのはちょっと。「私に手芸させたら半年掛かるよ? 」と言った有希の声であからさまに救われたような空気に変わったのを感じたところで更に南茅乃の一言。
「いや、私が全員分作るつもりで言ったんだけど」
自己PR動画で言った料理と手芸が得意というのは確かだったらしい。シンプルなゴムスカートであれば一日一つのペースで作ることができると得意げにするわけでもなくサラッと言ってのけた。
歌もダンスも大きな課題があるわけでもなく何も負担にならないと明言し南茅乃が衣装担当に任命された。採寸も慣れた様子で行われ、それぞれの好みとイメージに合ったスカート丈も決定する。
「函さんは圧倒的にロング。くるぶし丈ね」と言いメジャーを思いっきり下まで引いたその表情は、今までで一番覇気があり生き生きとしていた。
二年はバランスの良いメンバーが残ったと思う。それでいて闘争心が透けない、良い意味で互いを利用してより良いステージを作るという同じ目標を達成しようとしている。付かず離れず。日に日に穏やかになる雰囲気で英会話スクールのような心地良さを感じてきた状態で迎えた二学期。
夏休みが明けてすぐ、不穏が急に私たちの元へ近付いた。