第9話 もっこり
「ここがオレんちだよ」
僕はシノブくんに連れられて一軒の小屋に至った。
狩人の小屋は年期が入った様子で、森と一体化しているかのようにツタやコケが木の壁を侵食している。
僕は同年代の子の家にお邪魔するなんて生まれて初めてで、ちょっと緊張しながら後に続いていったのだけれど、家に入る前にシノブくんはふと何かを思い出したように立ち止まる。
「あ、そう言えば……」
「どうしたの?」
そう聞いた時。
シノブくんの手が僕の股間をモニュっと揉んだ。
「え?……」
あまりのことに一瞬硬直する僕。
「…………きゃ、きゃあああ!」
「こ、この子供! なにを不埒を致すのです!」
これに両手をグーにしてプンスカ怒るのは、肩の上の美人妖精だった。
「ガイドであるこの私でさえ、まだお揉み申し上げられずにいるというのに!」
この人はちょっとなに言ってるかわからない。
そんなフェアルさんをよそに、シノブくんは唇を尖らせて言った。
「へえ。お前、男なんだな」
「男だよ! 見ればわかるでしょ!」
「え……そりゃ見ればわかるだろうけど、別にわざわざ見せなくてもいいよ」
なんで僕が見せたがりみたいになってるの!?
「股の間がたっぷりしているのが男で、のっぺりしているのが女だろ?」
「そ、それはそうだけど……」
そうだけど、そういうことじゃない。
「オレはどっちでもいいんだけどな。お前が男か女か、じいちゃが気にしてたんだ。まあ、入れよ」
狩人の子はそう言ってふんどしのお尻をぷりっと向けると、藁のドアを開いてくぐった。
ちょっと釈然としなかったけれど、僕とフェアルさんはシノブくんのあとに続いて敷居をまたぐ。
「お、お邪魔します……」
家の中は思ったよりも広く、そして暗かった。
入口付近は土間になっており、あがりかまちの上は囲炉裏つきの居間がある。
居間の奥にはさらにもう一部屋続いて、藁の布団で誰かが寝ているらしかった。
部屋が暗いので、床の人がまるで黒い塊のように見える。
「じいちゃ、じいちゃ。生きてるか?」
「む、むむ……シノブか」
黒い塊はかすかに動いた。
「……今日はずいぶん身体が楽じゃのう」
「そうか!」
「これだけ楽なら、ワシもようやく逝けそうじゃ」
「だから隙あらば逝こうとすんのよせって」
シノブくんはあきれたように言う。
「そんなことより、今日はオークを捕らえたんだ。じいちゃ、好物だろ?」
「な、なんじゃと」
床の老人は、ほぼ閉ざされていた目をカッと見開き言った。
「シノブ。お前には戦いの才能がある。じゃが、まだオークを倒せるほどの力はない。あれほど無理をするでないと言いつけたじゃろうに」
「お、オレひとりで倒したんじゃないよ。ほら、この前森で子供に会ったって言っただろ。そいつと一緒に倒したんだ」
シノブくんはあわてて僕の肩を抱いて、老人の前に連れた。
「ど、どうも……」
「前に話していた娘さんか。うむ、お前さんも別嬪になりそうじゃな」
「いや、僕は……」
「あ、じいちゃ。この子、男だったぜ。股間がもっこりしてた」
も、もっこりはヤメテ(汗)
「すみませぬなあ。うちのシノブは赤ん坊の時分に母親を亡くしてのう。女の所作を知らぬものでどうもガサツに育ってしまって……」
「そうなんですか」
「しかし、お前さんもずいぶん空虚な環境で育ったようじゃの。その歳で死んだ魚のような目をしておる」
言い方失礼じゃない?
「じいちゃ、死んだ魚の目ってどういうの?」
「むう、こにあたりの川では魚が採れんからの。城下町へ行けばたくさん売っとるぞ」
「また城下町の話か……」
「そこの老人、城下町を知っているのですか?」
そこで入ったのはフェアルさん。
「これは……もしや妖精様でございますか? なんとも長生きはしてみるものじゃ。ナンマイダブ、ナンマイダブ……」
「念仏はよいので城下町の話をしなさい。我が主の目的地なのです」
「そうなのか?」
とシノブくんが反応する。
「うん、城下町にに行って冒険者ギルドに登録しようと思うんだ」
「それは素晴らしい志ですのう。ええです。教えてさしあげましょう。西の城下町はフェルナンド公爵のお治めになる領地の中心街で……」
おじいさんが城下町について話し始めると、ふいにシノブくんが立ち上がる。
「シノブくん?」
「オレは鍋作ってくる。ソータはじいちゃと話てろよ」
そう言ってふんどしのお尻をぷりぷりさせて土間の方へ行ってしまった。
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