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第8話 何を遊んでおられるのです


 グオオオ!



 オークは突進し、ふんどしの子は弓を絞った。


 ひゅんひゅんひゅん……


 何本もの矢が放たれすべて命中する。


 が、オークの突進は止まない。


 グオオオ!……ブヒブヒ!


 とうとうゼロ距離にまで至ったオークは、雄たけびを上げながら弓の腕をつかんだ。


「っ! しまった……」


 狩人の子は肩をよじらせてオークのホールドを解こうと頑張るが、パワーの差は歴然だ。


「接近戦になればあの子供に勝機はありません」


 と、フェアルさんの解説。


 助けなきゃ!


 そう思って僕は走って行って叫んだ。


「おーい! ヤメロー!」


 するとオークは大きな肩ごしにのそりと振り返り、赤い瞳でギロリと僕をにらみつける。


 こ、怖い……


 勢いで行っちゃったけど失敗だったかも。


「う、うう……お前はこの前の……」


 しかし、黒髪の子が鋭い目を見開いてこちらを見ている。


 そうだ、助けないと。


「そ、そそ、その子を放せ!」



 オ?……ブッヒッヒッヒッヒッ(笑)



 オークは豚鼻を鳴らして笑っている。


 むっ、僕が弱そうな子だからってバカにしてるな?


 ちょっと頭にきたけど、でもチャンスかも。


 それはつまり、敵は油断しているってことだ。


「おおおおお!」


 僕はヤツが笑っている間に地を蹴り、木刀を袈裟懸けさがけに振るう。


「おおお……あれ?」


 しかし、なにしろ身長差があるものだから、剣は狙った頭部まで届かずオークのひじにカスっただけだった。


 メキョ……


 だが、このカス当たりでもそんな音と共にその肘を粉砕したらしく、敵の左腕はぶらーんとして使い物にならなくなる。



 グ……グオオオオオ!!!!(怒)



 すると、怒ったオークはつかんでいたあの子を放って、残った片腕で僕の首をつかみかかってきた。


 ギリ、ギリリリ……


 しまった!


 オークの丸太のような太腕に血管が走り、僕の首を締め上げる。


「うわああああ!」


「宗太さま、何を遊んでおられるのです」


 そんな切迫した状況にかかわらずフェアルさんは悠長なことを言ってそのへんをヒラヒラ飛んでいる。


「フェアルさん! そんなこと言ってないで助けてよ!」


「助けません」


 つ、冷たい!?


「拠点の『土塁』が宗太さまの守備力を高めているはずです。オーク程度のパワーでは少しもダメージを受けていらっしゃらないでしょう」


「そんなわけ……って、あれ?」


 そう言われてみれば全然苦しくない。


 首を絞められているのに普通に話せるし。


 そうだ、拠点の施設効果があるんだった。


 僕は試しにオークの手をつかんでみる。



 ブ、ブヒ!?



 すると意外にも相手の力は弱く、簡単に外せそうだ。


 いや、外すまでもないか。


 こちらにダメージが無いなら、このまま木刀で叩いてしまおう。


 幸い僕の首を絞めるために敵の頭部は下がっているし。


 今度はちゃんと当てるぞ!


 そう思ってもう一撃繰り出そうとした時だ。



 ヒュン……!



 一本の矢がオークの首を串刺しにつらぬいたのは。



 ブ、ブヒ……ブヒイイイ……



 するとそれまで何本刺さってもびくともしなかったオークが、その場に崩れ落ちてしまう。


「どうやら首が急所だったようですね」


 と解説のフェアルさん。


「おい! 大丈夫か!!」


 その後、矢の主は僕の方へ駆けよってくる。


 狩人の子だ。


「あっ。キミが弓矢で助けてくれたんだね! ありがとう!」


「いや、オレの方こそ助かった。お前がオークを引き付けてくれたから急所を狙えたんだ」


 そう言うと、僕らはどちらからともなく笑顔を合わせた。


「オレはシノブ。お前は?」


「ぼ、僕は宗太。山寺宗太だよ」


「そうか。ソータ、お前やっぱりなかなかやるな」


 シノブくんはそう言って、ガシッと僕と肩をくんだ。


 へへへ、なんか照れるな。


「それで獲物のことだが……」


 それから狩人の子はふんどしのお尻をぷりっとこちらへ向け、オークの方を見た。


「コイツ、山分けってことでいいか?」


「うーん」


 お肉か……


 先日魔物のお肉を食べたけど、調味料がなくてあんまりおいしくなかったんだよね。


「僕はいらないよ。シノブくん、ほしかったら持って帰りなよ」


「え、いいのか? オークの肉はとてもうまいんだぞ」


「そ、そうなの?」


「ああ。肉汁がたっぷりで、山菜鍋にすると最高でさ。うちのじいちゃが最近メシ食わなくなっちゃって困ってたんだけど、オーク肉なら食べるだろうと思って無理して狩りにきたってくらいだ」


 それを聞いて、僕はよだれのでるのを隠せなかった。


「アハハ。なんだ、やっぱり食いたいのか?」


「う……」


「じゃあうち来なよ。ご馳走してあげるから」


 シノブくんは男の子とは思えないほど綺麗な顔でジッと僕を見つめて言った。


「え、でもそんなの……悪いし」


「遠慮すんなよー」


「でも……」


「いいからいいから!」


 こうして僕はシノブくんに肩を抱かれて、オーク鍋へと連れて行かれるのだった。


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