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第7話 さっさと服を脱いで供をせい


 ちゃぷん……


 僕は作ったばかりの施設『お風呂』に入り、異世界の月を見上げた。


 不思議なことに、月は二つある。


 いや、不思議と思うのは僕が異世界の子だからだよね。


 この世界の人はみんな生まれた時から月は二つと思って生きているのだろう。


 そう考えると胸のしめつけられる思いがして、僕は寂しさをまぎらわすためにひとりごとをつぶやいた。


「……お風呂、気持ちいいな」


「そうですね」


 と、フェアルさんが抑揚のない声で答える。


 って……


「え?」


 ハッとして振り返ると、裸の肩を湯船に浮かべてくつろぐ美人妖精の姿があった。


 銀髪は入浴用に頭頂でうず高くまとめあげられ、むき出しにされた顔の輪郭と微細なうなじの姿が月明かりに妖しく照らされている。


「きゃ、きゃああああ!」


「どうしたのですか? お風呂は静かに入りましょう」


「どうしたじゃないよ! なんでいるのフェアルさん!!」


「なぜって……宗太さまが誘ってくださったではないですか」


「誘ってないでしょ!」


「さきほど、『どうでもいいけど、お風呂に入るよ(さっさと服を脱いで供をせい)』とおっしゃったでしょう」


 どうやら言葉の捉え違えをしてしまったようだ。


 言葉って難しいなあ。


「と、とにかく! 恥ずかしいから出てってよ!!」


イヤです」


イヤって何!?」


「第一、そのようにツルんツルんでいらっしゃるものを、どこに恥ずかしがる必要があるのです?」


 無表情だが美しい顔でそんなことを言うフェアルさん。


「ツルんツルん?」


 僕は意味がよくわからずに首をかしげる。


「……いずれにせよ、加護のガイドは常に主をサポート申し上げるのが仕事。これくらいでいちいち騒がれてはガイド妖精の役目が果たせません」


「お仕事かあ。じゃあ仕方ないのかな」


「そうです。仕方ないのです」


 それにフェアルさんと言い合いをしていたら、なんだかさっきまでの寂しい気持ちがどこかへ行ってしまった気がする。


「……ありがとね、フェアルさん」


「いいえ」


 フェアルさんは無表情なまま、お人形サイズの肩をそっと僕の肩へ寄せた。



 ◇


 次の日。


 僕たちは城下町へ向けて出発した。


 とりあえず思いついた施設は作れたしね。


 ちなみに、今まで作った施設の効果によって上昇した僕のステータスはこうなっている。


―――――――

山寺やまでら宗太そうた(13)


HP:61

MP:0

ちから:51

防御:57

スピード:23


称号:なし

魔法:なし

スキル:なし

加護:拠点建築

―――――――


 森を進むと魔物とはたくさん遭遇した。


 ゴブリン、こうもりバット、アンデッッド。


 見た目はおどろおどろしくて怖かったけれど、ほとんど一撃で倒すことができた。


 ステータスの数値だけ見ても全然ピンと来ないけど、こうして実際に魔物と戦うと『施設効果』ですごく強くなっているんだなあっていうのがわかる。


「あ、フェアルさん。スライムだよー。かわいいね」


「そうですね」


 などと言っていると、次第に日も暮れかかっていた。


「夜の森は危険ですから、このあたりに拠点を設置しましょう」


「思ったより進まなかったなあ」


「仕方ありません。森の旅は初めてなのでしょう? 急ぐ理由もありませんし、ゆっくりまいりましょう」


 というわけで、今日の旅程はここまで。


 僕は地面へ手を向け「この土地を我が物にする」と念じ、1マスの『仮拠点』を作った。


 このように、拠点は飛び地にも設置することができる。


「で、この仮拠点から本拠地へ戻ることができるんだったよね?」


「はい。元の拠点を思い浮かべて『帰還』と念じてください」


 言われた通り思い浮かべて「帰還」とつぶやくと、なんと瞬時に元の拠点へと戻ることができた。


 昨日作ったお風呂や訓練所もそのまま。


 間違いない。


「すごい! 不思議だね」


「こうして戻ることができますから、旅先で獲得した素材でいつでも拠点を強化していくことができます」


 僕とフェアルさんは昨日のようにお風呂へ入り、木の家で眠ってその夜をすごした。


 また、次の日。


 僕は仮拠点の方を思い浮かべ、「移動」と念じる。


 すると、次の瞬間には1マス分の仮拠点に立っていたのだった。


「便利だなあ」


 そう言いながら僕は土地へ手をかざし、「この土地を放棄する」と念じた。


 すると、1マス分の仮拠点は消える。


 今日の夕方にはまた進んだ先に仮拠点を設置すればいい。


「今日はもう少し進めるといいな」


「そうですね」


 そんなふうに言いながら進むと、一本の川へと行き当たった。


 川辺にりんかんの木がないかと探してみるが見当たらない。


 水だけを汲んで先に進もう。


 そう思って水面へ足を差し入れた時。


 川上の方からなにやらアイテムが流れてくるのが目に入る。


 拾ってみると、細やかな二本の棒が紐で繋がった小物であった。


「これは、おはし?」


 お箸が流れてくるということは、あちらに人が住んでいるということだ。


「ちょっと行ってみようか」


「急ぐ旅でもありません。宗太さまのお気の向くままに」


 川上は北で、目的地は西だから、遠回りになってしまうけれど、『少し様子をうかがうだけ』と思ってそちらへ進んだ。


 しかし、期待したような村や集落は見当たらない。


 やがて川は東へと蛇行し始めたので、はしの持ち主さがしはあきらめようと足を止めた。


 が、その時だった。


 ガキーン! グオオ……


 魔物の声と、武器の打撃音がどこからか聞こえてくる。


「誰かが戦ってる」


 音を頼りに木々を分け入ると、はたして魔物はいた。


 グオオオオ……


 大きい。


 寸胴ずんどうだが、ちょっとした木と同じくらいの背があり、幅広で頑丈がんじょうそうだ。


「宗太さま。あれはオークです」


「オーク?」


 今までの魔物よりずっと強そうだ。


 そして、オークの向こう側には弓をつがえる一人の子供の姿があった。


「あ! あの子だ」


 前に僕を助けてくれた黒髪のカッコいい子。


 僕が気づくのと同時に、あの子は白ふんどしのお尻をキュッと絞めて矢をはなった。


 矢はまっすぐに飛び、見事オークの肩へ命中する。


 グオオオ……


「やった!」


 と僕はバンザイするが、オークが倒れない。


 むしろ勢いづいたようにあの子の方へ突進していく。


「な、なんで??」


「オークはタフな魔物です。あの子供の弓矢では倒れないでしょう」


 とフェアルさんが解説している間にも、あの子とオークとの距離はずんずん縮まっていった。


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