第5話 城下町へ行こう
この世界で生きる。
そう決めてはみたものの、どうやって生きていくのかは全然決まっていない。
「どこか村や町へ行って仕事ができるといいんだけどなあ」
次の日の朝、僕はそんなふうにつぶやいて伸びをした。
「拠点建築の加護があれば、このまま森でのんびり暮らしていくこともできますが」
とフェアルさん。
自給自足ってことか。
でも、それはなんだか違う気がする。
僕はまだ『人の世の中』を完全に諦めたくはなかった。
「うーん、森の中に引きこもって生きていくのは最終手段かな」
「……そうですか。しかし、都市国家アンテナの方へは近づかないほうがよいでしょう」
「それはそうだね」
フェアルさんの言によると、都市国家アンテナはここから南に位置するらしいから、そちら方向はナシだな。
他に町はないのだろうか?
「私も人間の村や町には詳しくないのですが……西の川辺をさらに西へ3日ほど行くと城下町があると聞きます。仕事をお探しでしたら、まずはそちらのギルドで冒険者を始めてみたらいかがでしょう?」
「冒険者か……」
それもゲームやマンガでよく聞く職業である。
「冒険者になれば魔石やレアな鉱石を得るチャンスも増えるでしょう」
なるほど。
たしか魔石があれば『魔法研究所』を建てることができるんだったよね。
魔法、憧れるよなあ。
「決めた。当面はその城下町へ向かうのを目標にしよう」
「はい」
こうして僕は少しずつやることを決めていくのだった。
◇
目標が決まったところで、僕はそれへ向けて拠点を強化していくことにした。
拠点に作った施設の効果で僕自身の能力を上げることができるのだから、今手に入る素材でできる限りのことをしておきたい。
まずは、『木の家』を作ったことによって拠点ポイントを100pt得ているので、拠点の範囲を10マス増やすことにした。
これで、7マス×7マス……おおよそ35m×35mの拠点となった。
見た感じ、だいたい学校の体育館くらいのサイズかな。
これくらいになるとずいぶん広々として見える。
「広さはだいたいこれくらいで十分かな」
そう思った僕は、この空間に施設を建築していくために素材を集めに出かけた。
素材と言ってもまだ木や土や石くらいしか手に入れたことがないのだけれど、施設を建築するために十分な量を確保しなければならない。
「よいしょ、よいしょ」
僕は木を伐り、土を掘って、石を拾っては、木のカバンへ入れていく。
木のカバンの容量は、拠点の範囲を広げたことによって大きくなっているはずだ。
採取できるだけ採取しておこう。
ぐるる、ぐるるる……
さて、それは僕が川の付近で石を拾い集めている時。
獣の唸り声が聞こえて振り返ると、そこには巨大なイノシシ型の魔物が目をぎらつかせて立っていた。
「あ、ああ……あれは?」
「あれはファイア・ボアという魔物です。非常に獰猛でロンリー・ウルフよりはずっと手ごわいでしょう。油断なさらずに」
僕は木刀を握りしめ、目を見開いた。
ファイア・ボアは嘲るようにひとつ鼻を鳴らす。
敵はそのままこちらへ突進して来た。
「宗太さま。剣を振るうのです」
「わああああ!」
僕は木刀を振る。
ボコオオオオ……!!
すると手にずっしりと重い感触がして、次の瞬間、イノシシ型の魔獣が2、3メートル後方へすっ飛ぶのが見えた。
きゅー……
そーっとのぞいてみると、ファイア・ボアは動かなくなっている。
「や、やった!」
初めて魔物を倒したぞ。
ちゃんと目を開けて攻撃ができたし、フェアルさんに褒めてもらえるかな。
と、そう思ったのだが。
「宗太さま、まだです! 後ろ!」
「え?」
言われて振り向くと、どういうわけか再びファイアー・ボアがこちらに突進してくるのが目に入る。
そう。
敵は二匹いたのだ。
剣を振らないと!
いやダメだ、間に合わない……
その時だ。
敵は急に目の前でピタリ動きを止め、それ以上進まなくなってしまう。
「え? え?」
僕が戸惑っていると、魔獣は横向きにズシーンと倒れてしまった。
「これは……矢?」
よく見てみると、ファイア・ボアのこめかみに深々と矢が刺さっている。
僕はハッとしてあたりを見渡す。
すると、ちょうど木の上から一つの影が飛び降りるのが見えた。
「あ……」
影は人間だった。
僕と同じくらいの歳だろうか。
とても凛々しく、綺麗な子だ。
黒い髪に切れ長の目。
麻の上着に弓を背負い、白ふんどしにお尻をぷりっとさせながら、細い手足はしなやかで野性的な魅力を放っていた。
「そっちはお前が倒したのか?」
甲高いが勇ましい声。
そっちというのは僕が倒した方のファイア・ボアのことだろう。
「え、その……はい。一応」
「へえ。なかなかやるな!」
健康的な黒い瞳が、僕をジッと見つめる。
「じゃあそっちのヤツはお前の獲物だ。弓で倒した方のはオレがもらっていくぞ」
「う、うん」
そう答えると、その子は巨大なイノシシ魔獣を担いで走り去ってしまった。
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次回もお楽しみに。
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