第3話 施設効果
「よいしょ。よいしょ」
森の中なので、土や石や枝はそこらじゅうに落ちていた。
僕はせっせと石や枝を集めては土を掘り、拠点の野原へ積み上げて、また収集する。
苦労の甲斐あって、山盛りの素材を運び込むことができた。
「やれやれ、いっぱい集まったね」
と、僕は肩の上のフェアルさんへ語りかける。
けっこう大変だった。
素手で穴を掘ったりしたから手は土まみれだ。
「ええ。素材は十分集まりました。さっそく作業場を作ってみてください」
「そんな、僕は不器用なんだぞ。作ってみてって言われても……」
と言いかけた時。
頭の中に『作業場』のイメージが浮かんでくる。
「あれ、なんか作れる気がする」
僕はつぶやくと、拠点の範囲に土を盛っていった。
どうしてこんなことができるのか自分でもわからないが、これを四角く固めていくと台のようになる。
名付けて『土の作業台』だ。
それからそこを囲むように大きな枝を四本立てると、上には細かい枝をたくさん束ねて葺いて庇とした。
最後に、ここで素材を加工するため、鋭利な石で『石のナイフ』を、ザラついた石で『石のヤスリ』を作って作業台に添える。
「……で、できたぞ!」
「おみごとです。宗太さま」
とフェアルさん。
「でも、これ僕の力じゃないよね。加護ってやつの力なんでしょ?」
なにせ僕の技術や美術の成績はよくない。
一学期では棚ひとつ満足に作ることができなかったのだから。
「いいえ。加護の力ではありますが、宗太さまのお力です」
「……?? どういうこと?」
「神々の加護はすでに宗太さまの内に備わったものであり、宗太さまの一部ということです。背が高い、足が早い、記憶力がある……加護とはそういった神々からのギフトと同列なものなのです。どうか自信をお持ちになってください」
そう言ってフェアルさんはまた無表情のまま僕の頬にチュッと接吻してくれた。
えへへ♪
「じゃあ、次はなにをすればいいかな?」
「おそれながら、それは宗太さまがご自分でお考えください。私の役割は、きっかけを与え、加護の運用をサポートするガイドなのですから」
「そうかあ。うーん」
僕はしばらく考える。
それで、『小屋』と『防壁』を作ろうと思い立ったんだ。
夜の森には魔物が出るって言ってたし。
寝ている間に魔物が入って来れないような設備が必要だと考えたのである。
「ちょっと聞きたいんだけどいい?」
「はい。なんでしょう」
「拠点に指定した範囲の外では建築することはできないの?」
「そうですね。できないことはありませんが、加護は発動されません」
「そうかあ」
そう尋ねたのは、さっき拠点にした5m×5mの範囲が、作業場で半分以上埋まってしまっているからである。
これでは家や防壁を築くにはせますぎるので、それでイメージがわかないのかなと思ったのだ。
「宗太さま。ひょっとして拠点スペースのことをお考えですか?」
「うん、実はそう」
「それならば心配ありません。現在、宗太さまは30拠点ポイントを獲得していますから、あと3マス拠点を拡張することができます」
「拠点ポイント?」
「拠点に施設を建築すると付与されるポイントです。ポイントを使えば拠点を拡張することができます」
「へえ」
そこで僕はさっそく地面へ右手をかざし、また『この土地を我が物にする』と念じた。
すると地面が光り、さっきのようなマス目が描かれ、そこは僕の土地となる。
これをあと二回繰り返し、5m×5mの土地が四つ。
10m×10mの大きな拠点へと拡張されたのだ。
「わあ、だいぶ広くなったね!」
だが、まだ『小屋』や『防壁』のイメージは思い浮かばない。
「思ったように施設イメージが浮かばない時は、作業場でアイテムを作ってみるとよいですよ」
「アイテムかぁ」
と言うので、僕は残りの枝や石や土を作業場へ持ち運んでいった。
すると、ふいに頭にイメージが浮かぶ。
僕は素材の中から『じょうぶな木の枝』と『頑丈な石』を選び始めた。
それから別の枝の木の樹皮をはがしてひも状にしたものを作る。
最後に、『じょうぶな木の枝』の先端へ『頑丈な石』をくくりつけるのだ。
そう。
斧である。
「これで木を倒してみよう」
僕はそう言ってあたりの森で手ごろな木を選び、『石の斧』を振ってみた。
すると、思ったよりもはるかに簡単に木を切り倒すことができてしまう。
重いはずの石の斧も楽々振れてしまうのだ。
「作業系施設で宗太さまが作ったアイテムは、その目的に応じて能力に補正がかかるのですよ」
そりゃ便利だなあ。
手にマメもできないし。
例えばさっき土を集めるのに苦労したけど、スコップでも作っておけば楽チンに集めることができたのかもしれない。
「よいしょ。よいしょ。ふう、木はいっぱい集まったぞ」
ちなみに、石の斧を持っていると、倒した木を運ぶのもとても軽く感じる。
拠点にはすでに10本の木が集まっていた。
僕はこの木たちの枝葉を落とし、丸太にしていく。
1本、2本、3本と丸太ができていくと、次第に『木の小屋』のイメージが固まっていった。
「よし、木の小屋を作ってみよう!」
僕は作業場で木を木材へ加工しては柱を立て、梁を通していく。
木材と木材には凹凸をこしらえて、これを嵌め込むことで組み立てていった。
工作は苦手な僕が、こんな細やかな作業ができてしまっているのはとても不思議な感覚である。
コンコンコン……
嵌めこみに木槌が必要だと思えばそのつど作り、木材が足りなくなればまた木を伐りに行った。
「やった! できたぞ!」
やがて1マス分(5m×5m)ほどの小屋ができあがる。
これでも家のつもりだ。
とても小さな家だけれど、僕とフェアルさんが寝るだけなら十分だよね。
≪拠点図≫
__
○△
 ̄ ̄
※○=土の作業場 △=木の小屋
「すばらしい家です。このあたりの弱い魔物であればこれで防ぐことができるでしょう」
「そっかあ」
僕はホッと息をつく。
「それより、『木の小屋』を作ったことで何か気づいたことはありませんか?」
うーん。
そう言われてみると、ちょっと身体が元気になった気がするかも。
「では、ステータスをご確認ください。神々の加護を受けた者はいつでも確認することができるはずです」
そう言われると、僕の目の前に文字列が浮かぶ。
―――――――
山寺宗太(13)
HP:32
MP:0
ちから:2
防御:3
スピード:4
称号:なし
魔法:なし
スキル:なし
加護:拠点建築
―――――――
「本当だ」
魔術師たちが三日三晩で解析したというステータスと同じ形式である。
でも、ちょっと数値が違うような……
「あれ、僕のHP、増えてる?」
「はい。拠点に作った施設は、宗太さまの能力を向上させるものもあります。例えば『家』系統の施設はHPを高め、『防壁』系統の施設は防御を高めます」
また、ちからやスピードを高めるには『訓練所』系統を、魔法やスキルを高めるには『研究所』系統の施設を作ればいいらしい。
「へえ! 僕も魔法が使えるようになるの?」
「もちろんです。しかし、魔法研究所を作るためには『魔石』が必要になりますので、今はまだ難しいでしょう」
魔法かあ。
いつかできるようになるといいなあ。
と、そんなふうに夢見心地になっているときであった。
ぐう……
とお腹が鳴る。
「えへへ、お腹減っちゃった」
「少し南へ行った川辺に『りんかん』という桃色の果実が成る木があります。とても甘くておいしいですが……」
肩のフェアルさんは少しためらいがちに髪へ手櫛を入れると続ける。
「川辺には昼でも魔物が出ます。もう少し拠点を強化したり、作業小屋でアイテムを作ったりなどして行った方がよいでしょう」
魔物か。
この世界へ来てからもまだ見たこともなかったけど、怖いんだろうなあ。
でも、川辺へは行かなきゃいけない。
食べ物がないと死んじゃうもんね。
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