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第2話 加護と妖精



「はぁ……なんて夢だろう」


 僕はひとり取り残された森で、そうつぶやいてみる。


 でも、実を言うと『これが夢ではない』ってことくらい薄々気づいていたんだ。


 なにしろ召喚されてもう10日ほどたっているし。


 夢にしてはあまりに脈絡が連続していてリアルすぎる。


 これはもう本当に異世界に来たと考えるしか……


 と、そんなふうに考えていた時だ。


宗太そうたさま。山寺宗太さま……」


 ふと、どこからか僕を呼ぶ声がする。


「え? だ、誰? 誰かいるの」


 とあたりを見渡すが、誰もいない。


 気のせいかな。


 あまり心細くて幻聴までしたのだろうか。


「宗太さま、所有者のない土地があります。【拠点】を設定なさいますか?」


 でも、まだ聞こえるぞ。


 気のせいじゃない。


 どこだ?


 そう思ってふと視線を落とすと、僕の肩に小さな女の子が座っているのが目に入ってきもを潰す。


「わ! わあ!」


 僕はあまりのことに尻もちをついてしまった。


 そう。


 小さな女の子と言ったが、それは年齢的なことではなく、あるいは常識の範囲内で身長が低いというレベルではない。


 物理的に、それも異様に小さいのだ。


 なにせ、僕の肩に乗れるほどのサイズなんだから。


 例えて言えば、妹が遊んでいたお人形セットのような感じ。


 だけど、人形というにはあまりに精緻せいちで、あまりに動きのなめらかな手足、そして、背中には透き通るような羽を持っているのだった。


 しゅるるるる……キラキラキラ☆


 彼女は羽をはばたかせ空中で二三宙返りをすると、くてんと首をかしげるような会釈をする。


 そんな可愛らしいしぐさに反して表情はニコリともしない。


「拠点の設定が可能です。範囲を指定しますか?」


 そして、抑揚よくようのない声でまた同じようなことを繰り返すのだ。


 拠点……か。


 たしか魔術師たちが出したステータスにそんなのがあったな。


「拠点建築、だっけ?」


「そうです。神々から異世界召喚者へ特別に与えられる加護【拠点建築】です」


 あ、答えてくれた。


「ひょっとして、キミはそれと関係があるの?」


「はい。わたくしは加護のガイド妖精、フェアルと申します」


 ガイド妖精?


「神々の加護は人間を超越した力ですから、人間の理性でも理解可能な言語の次元へ落としてガイドする必要があるのです。このたび宗太さまがこの森……所有者のない土地に降り立ったことで、ガイド妖精であるわたくしが自動召喚されたのでした」


 なるほど、よくわかんないや。


「で、僕これからどうすればいいのかな?」


「それは宗太そうたさまがご自分でお決めになることです」


「えー」


「神々の加護は超越的ではあるものの単なる力にすぎません。そこには使命もなければレールもない。『意思』を持つのは人間の役目なのです」


 ずいぶん難しいことを言うんだなあ。


「あれ? そう言えばキミ、なんで僕の名前を知っているの」


「ガイドにく前に主のプロフィールを予習してまいるのは当然のことです」


「へえ、えらいんだね!」


「……し、仕事ですから(照)」


 そんな大人みたいなセリフでハッとしたのだけれど、フェアルさんは僕よりもずっと年上っぽいことに気づいた。


 あまりに小さいから『女の子』って思ったけれど、よくよく眺めるとルックス的には20歳近くのおねえさんに見える。


 そのポニーテールにまとめられた銀髪は手入れの行き届いた感じがするし、金のイヤリングに端正な目元には泣きボクロ、水着のようなドレスにはおっぱいの形がまざまざと映っていた。


 学校の水泳の時間で見たクラスの女子たちの胸とは比較にならない。


「しかし、宗太さま」


 ボーっとしていると、フェアルさんはまた僕の肩へお尻を乗せ、耳元でささやく。


「まだお生きになりたいのであれば、すぐにでも拠点をお築きになられることを推奨いたします」


「どういうこと?」


「現在地から近くに村や町はありません。つまり、この付近で夜を明かさねばならないことになりますが、森の夜には魔物がたくさん出るのです」


「魔物!?」


「はい。このまま夜をむかえれば、宗太さまは魔物に食べられてしまうでしょう」


 そ、それは嫌だなあ。


「では、さしあたって拠点の範囲を決め、森の夜を越えるのに必要最低限の施設を建築してみましょう。宗太さま。そこの野原へ向かって右手をかざしてみてください」


「え? こう?」


 僕は言われた通り木々の合間にぽっかりと空いた野原へ右手をかざした。


「そうです。そして、『その土地は我が物である』と強く念じるのです」


 それも言われた通り、強く念じてみる。


「む、むむむ……」


 すると瞬間、野原の一部が強く光り、光の線に仕切られた正方形のマス目ができた。


 広さにしてだいたい5m×5mくらいだろうか。


「わー、魔法みたいだね。これでいいの?」


「すばらしいです。宗太さま」


 フェアルさんは無表情ながらそう褒めると、僕のほおにチュッと接吻キスをした。


「えへ、えへへ♪」


 僕は美人な女性からの接吻キスで気分がふわふわしていたけれど、彼女の方はやっぱり無表情に続ける。


「これでこの土地は神々の加護を得て完全に『山寺宗太の土地』となりました。続いてこの土地に施設を建ててみてください」


「ええ、そんなの無理だよー」


「大丈夫です。指定した範囲では素材さえあればイメージ通りに建築を行うことができる……それが【拠点建築】の加護なのですよ。まずは石や土、木の枝などの素材を集めて『作業場』を作ってみましょう」


 そんなの無理だとは思ったけど、異世界召喚者が得る『特別な力』っていうのがこれ以外見当たらない以上、とにかくやってみることにした。


 何もせずに魔物に食べられちゃうのも嫌だしね。



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