表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アソビモノ  作者: PEPE
4/4

アソビモノ 間話 その1

暗い場所

8月24日 21時03分29秒ー


「あっー。やっぱりバズレだった…。」

女子高生が暗闇の中で呟く。


少女は永遠と思える刹那の中にいた。

風もなく、虫は鳴き止み、暗闇の中に佇む制服姿の女の子が月に照らされ、そこに立っていた。


男はもうすぐ死ぬ身であるが、意識はハッキリしていた。先程まで肺に空気が行かず、泡を吹き、悶え苦しんでいたが、今はその感覚すら薄れていっている。


警官姿の男が銃を腰に収め、少女へ向かってふざけた言動を撒き散らす。

「こんな所で、何をしてるでありますか?!ここは危ないであります!今、婦女暴行犯がそこに倒れていますが、いつ襲ってくるか分かりません!早く逃げるであります!」


少女は吹き出し、大声でケラケラと笑い出した。

「お兄さん面白いね!何!?その喋り方!」


「こんな時に、笑っている場合ではないです!早く逃げるでありますよ!」

警官は、ふざけた口調のまま、相手を促す。


女子高生は散々笑った後、深い溜息をしてから答える。

「はぁー。面白かった。お兄さん。嘘下手だね。そんなの子どもだって騙されないよ。お兄さん、頭良いのに何でそんな下手な事するの?てか、私、最初から見てるから意味ないよ。」


「………。」

警官は黙り込んだ。


すかさず、少女はツッコミを入れる。

「あれ!?どうしたの?さっきの作戦やめるの?あれ面白かったのに!」


男の感覚は、もう機能していない筈なのに、警官の背中を見て寒気がした。

この警官は、殺す気だ…。


「ニ…ゲ……………。」

男は潰れた喉を震わせながら、少女に促す。


「あっ。まだ生きてたの?久しぶり!綺麗な顔して結構しぶといんだね!大丈夫だよ!お兄さん!ありがと!」


何を言っている?状況が分かっていて言うセリフじゃない…。男はそう思いながら、少女に向かって声なき訴えを続けている。


警官は、静かに、ゆっくりと、少女に近づいていく。少女から3歩ほど離れた距離で立ち止まる。


ボゥッ!

火の出るような空気の摩擦音が林に響く。

警官の腕が少女の顔めがけて、鋭く突き出る。

しかし、届かない。

間髪入れずに、もう片方の腕をしならせ、溝うち目掛けて手刀を突き立てる。

届かない。

一歩下がり体勢を低く整え、肩を少女に向けて勢いよく体当たりする。

届かない。


「あははっ!もっと!もっと!」

少女は曲芸でも見るかのように、両手を大きく鳴らし喜び弾けている。


ふっー、と大きく溜息を吐いた警官は、再び拳銃に手を伸ばす。


「なーんだ。つまんない。」

少女はそう呟くと、手を警官に向けてかざした。


警官の身体は、石のように動かなくなった。


少女が男に近づくと、しゃがみこみ、男を見下ろす。

「このおもちゃ、楽しかった?色々発散できて良かったね!」

もう死ぬであろう男に向かって、笑みをこぼす。


「なっ…ん………。」


「えっ?何でって?」

「だってほら!このおもちゃは、そういう人に向いてるやつだから!」


「見てて楽しかったよー!」

少女はケラケラと笑いながら、男を見下す。


「んぐっ…………。」

男の止まっていた時間が進み始めた。


「あー。もう死んじゃうもんね。残念。もっと使いこなしたら、色々すごいこと出来たのに。やっぱバズレたがら仕方がないか…。」


「調子に乗って、この警官に手を出したのが運の尽きだったねー。」


「この人のこと、馬鹿だと思ってたでしょ?」


「ぎっ………ぐ。」

口から泡が溢れ出る。


「もう。浅はかだなぁ。ちゃんとヒトの事は見ましょう!って親に教わらなかったの?」


「この人はね。バカのふりをして面倒事を優秀なお兄さんに押し付けて、楽をしようとしてたんだよ。あと、この人は、今でいうサイコパスかな?」

「道徳とか分かんないでしょ?」

少女は警官の方を向き、質問をするが、警官は微動だにしない。


「お兄さんの計画なんて一瞬で見透かされて、結果的にボコボコにされて今に至るから、マジ無慈悲だよね。」


「運悪いね。お兄さん。」


少女の一言にトドメを刺されたかのように、痛みはぶり返し、悶え苦しむ。


くそ!どうして!なんだよ!お前らは!お前がこんなモノを俺に渡さなかったら、こんな事にはならなかった…父さんごめん…。なんで。どうして。


男の中で感情が駆け巡るが、身体は微動だにしない。

男の視界が暗闇に包まれていく。

少女の無機質な笑みに包まれていく。


あぁ…訳が分からない…いやだいやだいやだ…。こんな死にかた嫌だ。


雉無雉無雉無雉無雉無雉無雉無雉無雉無雉無雉無雉無きじ…な…………………。


男の瞳孔は開き切った。


「さてと。」

パンパンと膝を払う仕草をしてから、石のように固まった警官の方へ向かう。


少女は警官の正面に立つと、背伸びをして警官の顔を覗き込む。

「綺麗な顔してるね。さっき死んだお兄さんよりタイプだわ。でも…中身は欠けてるね。」


「欲望剥き出しの中身の方が良かったな…。」


指一本、眼球ひとつ動かせない警官は眼光鋭く、少女を見つめている。


「そうだ!いいモノあげるね!これはアタリだと思うよ!中身のない人には、よく合うと思うよ!」


「ほら!これ!」

と、少女は手のひらを警官に見せた。

そこには何もない。


「あっ!見えてない!?」

「これはねぇ。欠けてる人には見えないんだな!」

「あれ?こんな童話なかったっけか?」

少女は首を傾げながら、こちらを見つめる。


「まぁ。いっか。じゃあ。あげるね。」

空の手のひらを警官の胸に押し当てた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ