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アソビモノ  作者: PEPE
3/4

第三話 かくしんぼ その3

8/26 午後18時58分ー

木々須警察病院 5階 502号室


「分かったわ。降参よ。」


白旗を振った大日を見て、子供のような笑顔をのぞかせた。

「ありがとうございます。何から話せばいいでしょうか?」

大日はソファを座り直した。

「油取が婦女暴行犯だと知っていたの?」


須賀はスラスラと答え始める。

「はい。2日前の勤務中に、雉無さんがPCで捜査資料を説明されていた時に気付きました。」


「どう言う事?」


「えーと、事件発生日時と油取さんの夜間巡回の日時がちょうど重なっていました。」


「それだけ?」


「あと、瞳孔が開いていました。」


「はっ?」


「油取さんが雉無さんを見つめていた時、眼球の瞳孔が開いていました。瞳孔が開いているという事は、興奮状態ですから…性的に…。ははっ。」

須賀は笑ってごまかす。


「ちょっと待って。まだ分からないわ。たとえ女性を見る目が性的な興奮状態だったとしても、それが犯人だと確信する事にはならないわ。」


「そうですね。これだけだと、何らかの病気の症状で終わってしまいます。」

「署長は少しお忘れかもしれませんが、被害者の共通点は何だったでしょうか?」


「ボブときょ…」

共通点の2つ目をあげようとした際に、大日は理解した。


「そうですね。雉無さんの背格好と似ていますよね。」

先生が子供を諭すような話し方で須賀は続ける。

「これは僕の想像ですが、油取さんは雉無さんに恋をしていたのだと思います。キャリアとしてのプライドなのか、親からの圧力なのか、ただ勇気がなかったのかは分かりませんが、雉無さんへの想いを成就出来ずに、欲求を被害者の皆様で発散していたのだと思います。」


「それが動機…」

と、呟いたところで須賀の顔を睨みつける。

「それをもっと早く私のところへ伝えていれば、事件を未然に防げたはずよ!」


「無理ですね。」

須賀は即座に否定する。

「今のあなたと同じ状況になります。証拠はなく、問い詰めた所で戯言しか出てこない。あとは官僚のパパに泣きつかれたら、終わりです。」


「…その通りね。」

大日は悔しそうな表情を覗かせた後、冷房で冷えた手で頭をおさえ、冷静さを取り戻そうとしていた。

「でも、銃で撃つ必要はなかったはずよ。あなたなら彼を警棒で無力化できたと思うわ…なぜなの?」

冷静さを取り戻した大日は、まっすぐ須賀の顔を見つめ、質問を再開する。


「えーと」と口を開き、須賀は回答を続ける。

「先に言っておきますが、怒らないで下さいね。見たモノをそのままお伝えするので。」


「何なの?」

須賀は大日の苛立ちを感じているが、ゆっくり話を続ける。


「まず、僕が襲われた時、油取さんの姿を視認出来ませんでした。消灯前に、目を閉じて夜目が効くように事前に準備していたにもかかわらず…。」

「暴行を受けた被害者たちと同じ感想です。」


「…………………………………透明人間…。」

頭の中で、何かと照らし合わせているのか。長い沈黙の後、大日はそう呟くと、そうだねと言いそうな顔で須賀が頷く。


「びっくりしましたが、そのまま何もしないで立っている訳にもいかないので、事前に想定していた相手の動きに合わせて、警棒を突き立てました。」

「先程もお伝えしましたが、油取さんに警棒が当たったのは偶然と言えば偶然です。」


「でも、あなたはトドメを刺し…」


「はい。」

須賀は、大日が最後まで言い切る前に答えた。

「あの状況下だと仕方がないと思います。油取さんがいつ透明人間になって、襲ってくるか分かりませんし。視認できているうちに動かないようにしないと、死んでいたのは僕の方でした。」


須賀の晴れやかな顔を目にした大日は嗚咽を抑えている。

「あなた、油取巡査部長を殺した自覚があるのね。」


「はい。あの状態では助からないと思います。」

須賀は変わらない口調と表情で答える。


8/26 午後19時23分ー

木々須警察病院 5階 502号室


大日は、自分の選択が誤りであると認識し、後悔が顔に滲み出ており、晴れやかな青年の笑顔が精神を蝕む。


「最後の質問よ。」


大日は何とか持ち直し、最期の質問を須賀にぶつける。

「どうして倒れていたの?2日間も眠り続ける外傷は無かったはずよ。今更、相手を殺したショックで昏倒したなんて言わないわよね?」


須賀は、うーんと考え込んだポーズを取った。

「それが分からないんですよね…。気づいたらここに居ました。」


「………。」

「誰かに襲われたという認識も無いのね。」


「はい。」


ふっーと、溜まっていたものを吐き出すように大日は天井の照明を見つめた。


「分かった。もういいわ。」

組んでいた長い足に力を入れて立ち上がった。


須賀の顔を見ずに去ろうとした大日は、扉の方を向いたまま、須賀に命令する。

「あなたは無期限の謹慎処分とします。沙汰が出るまで自宅待機です。明日の朝には、ここを引き払いなさい。」


「承知したであります!」

いつものふざけた口調で須賀は敬礼のポーズをとる。


大日はその言葉を無視し、扉に手をかけたが、口から漏れ出る言葉を抑えきれなかった。

「あなたの行動原理は何?」


「平穏です。」


今までやり取りから逸脱した答えに、大日は背筋が凍るのを感じた。振り向けない…。


「あっ、そうそう。」

凍える背中に向かって、須賀が呼び止める。

「あのお面は、調べた方がいいですよ。」


大日は無言のまま病室を退室した。


8月26日 午前9時29分ー

木々須警察署 2階 鑑識係


一室の中で男が三人、帰り自宅を済まそうとしていた。

今朝、当直についたばかりの鑑識官とは違い、2日間泊まり込みで現場保存と現場写真の撮影、遺留品と指紋の採取、現場の観察内容も踏まえ資料を作成し、データベース化。1時間半前まであった鬼気迫る捜査会議に3人は参加していたため、憔悴しきっていた。


そのうちの一人である百木春郎(ももきはるお)警部補は、運悪く内線を取ってしまい、通話相手の攻撃を一心に受けている。


防戦一方…。

警部補を眺めていた二人は、そう連想した。


当直についたばかりの犬飼恭子(いぬかいきょうこ)巡査は、黙々と証拠品整理を行う。


勝生が力なく受話器を置いた瞬間、二人は逃げるように扉に向かった。


「ちょっと待って。」

勝生は二人を呼び止めた。逃すものか。お前達も道連れだ。と、聞こえるはずのない心の声が漏れる。


ドアノブまで、あと数ミリというところまで手が伸びていたが、一歩及ばなかった…。


鳥目(とりめ)くん、猿江(さるえ)くん。」

百木は、完全に二人を沼の底に道連れにする事に成功した。


「はい。」「はい。」

二人は項垂れながら返事をした。


「どちらか一方はDNA採取と照合。もう一方は科警研に連絡を入れてくれるかな?」


「私が連絡いたします!」

猿江翔太(さるえしょうた)は最後の力を振り絞り、大きく手を挙げた。また一歩及ばず、鳥目崇(とりめたかし)は膝から崩れ落ちた。


「じゃあ、鳥目くん。木々須公園警官銃殺事件の遺体と木々須市婦女暴行事件のDNAの照合をお願いします。」百木は、さらりと耳を疑うような指令を下した後、扉の方へ向かう。


「待って下さい!それって本当にやって良いんですか?!」疲れ切った男の妄言かどうか確認を行う鳥目巡査部長。


「責任は大日署長に取っていただく。安心しろ。照合を終わらせたら帰宅していい。」


「承知いたしました。ところで、警部補は今からどこへ向かわれるのですか?」

この期に及んで、逃げるんじゃないだろうな?と鳥目はテレパシーを送る。


テレパシーを受け取った百木は鳥目に返事を返す。

「安心しろ。逃げないよ。念のため、保険として違う部署に報告に行くだけだ。言っておくが、俺が代わって欲しいくらいだ。」


百木は扉のノブに手をかけたところで、振り返る。

「ところで、犬飼くんはどこに行った?」


8月26日 午前9時29分ー

木々須警察署 2階 鑑識係


犬飼恭子は黙々と作業をこなしている。

2日間の集大成である証拠品群を番号別に振られたジッパー付きポリ袋へホイホイと放り込み、まとめていく。


ふと、手に取った証拠品に目が止まった。

血がこびり付いている。


「何これ?お面?マスク?おもちゃ?何で現場に?」

犬飼はお面を観察し始める。


素材はゴム。厚さは2〜3ミリ。顔全体を隠す大きさであるが、頭部まで覆えるほどの面積はない。血飛沫が付着しており、乾いて黒ずみ始めている。犬飼はそれよりもお面の形状が気になって仕方がない。


「ヘビ?カメレオン?カエル?トカゲ?」

爬虫類を模しているのは分かるが、見る角度によってカタチがコロコロ変わる。よく出来たおもちゃだ。


ひっくり返してみると、裏にも血飛沫が付着しており、表面よりも血飛沫の量が多い。

裏面の中央に何か書かれている…。

小さすぎてよく見えない…………。

犬飼は顔を近づけた。


ヤメロ


犬飼の顔に、お面がへばりつく。


8月26日 午前9時40分ー

木々須警察署 2階 鑑識係


三人は10畳ほどの室内で、行方不明の犬飼を捜索している。三人はキョロキョロとあたりを見渡し、不思議がる。次第に慌ただしくなり、机の下や棚の裏、ロッカーの中など人が入れそうな場所を手当たり次第に顔を突っ込み始めた。先程まで黙々と作業していた人間が忽然と消える筈がない…。


「本当に部屋を出ていないんだよな。」


「俺らドアの前にいたじゃん…。」


階級は違うが、同年代の猿江と鳥目は、タメ口で会話をしている。


「こんな時に何してんだ犬飼くん…。」

百木は眼球を手のひらでおさえ、天を仰いでいる。


「ぶはっ!!!!!」

当然、海面に顔を上げたような息継ぎが聞こえた。

「うわっ!」

鳥目が驚きの声を発する。


空席だったはずのパイプ椅子から犬飼が突如として現れたのだ。


「お前どこにいたんだよ?俺らずっと探してたんだぞ!」

猿江はその光景を目にしていない。目撃した鳥目は、犬飼を指差し、口を大きく開けたまま、時間が停止している。


「私、ずっとここに居ました。このお面が外れなくて、助けてって叫んでましたけど、どうして助けてくれなかったんですか?」

逆に猿江が問い詰められる事になった。


「お前、何言ってるんだ?」

猿江は首を傾げる。


「お前こそ何を言ってるんだ!?見てなかったのか!突然何もない所から犬飼が出てきたんだぞ!!」

鳥目は、取り乱しながら叫ぶ。


犬飼も首を傾げている。


それを俯瞰していた百木は、顔を両手で覆い、壁にもたれかかっている。どうやらその光景を目にしていたようだ。


手を覆ったまま、百木は口を開く。

「報告は後回しだ…。先に署長室に向かうから…犬飼くん!それ持って着いて来なさい!」

百木は大きく深呼吸をした。


8月26日 午前11時36分ー

木々須警察署 3階 署長室


大日はデスクで捜査資料を見返しながら、茶色い汁を喉に流し込んでいた。


コンコン。


今度はまともな客が来たようだ。

「どうぞ…。」


目の下に黒いクマを作った男と肌艶の良い女の子が署長室に入ってきた。


「あら。もうできたんですか?早いですね。」

大日は背の高い容器を片手に男へ労りの言葉をかけた。


そんなわけないだろう…。と思いながら、百木は口を開いた。

「申し訳ありません。現在、照合中です。別件でこちらに参りました。」


「何でしょう?」


「犬飼くん。よろしくお願いします。」

と百木は言い、犬飼を見下ろす。


「今度はちゃんと助けて下さいね!」

そう言い、犬飼は手袋をはめた手で持っているモノを顔に近づけた。


ガタン!

大日は、勢いよく立ち上がり、椅子を倒してしまった。そこに居たはずの犬飼が忽然と消えたのだ。


「これはどういう事!彼女はどこに行ったの!?」


百木は、こんなに取り乱している女署長を見た事がなく、先程の鬼気迫る会議での対応とは程遠い姿を眺めていた。


「えーと。ここら辺かな?」

百木は空中に手をやると、何かを掴む素振りを見せた。


「イタタタタッ!」

何もない空中から女性の悲鳴が聞こえる。

「鼻掴んでます!掴んでますって!」


ごめんごめんと言いながら、力強く何かを引き離す。


すると、何もなかった空間から鼻を真っ赤にした犬飼が現れた。大日は呆然と立ち尽くしている。


「これは何?」

咄嗟に呟く。


「これは、現場の被害者付近に落ちていたマスクです。どのようなカラクリかは分かりませんが、これでヒトの認識を阻害できるようです。」


「透明人間…。」

大日はそう呟くと、ノートPCをおもむろに捜査し始めた。


「署長のお考え通りかと思います…。」

百木は一言添えるとPC操作をやめ、大日は二人を見つめた。


「この事は、他に誰が知っていますか?」


「猿江巡査部長と鳥目巡査です。」


「分かりました。この事は内密にお願いします。混乱を招きたくないので。」


「承知いたしました。」


「それと…」

と言い、大日は百木に向かって手を伸ばした。

「そのマスクを私に渡して下さい。これは上層部にも確認してもらう必要があります。」


お面を受け取ると、大日は続ける。

「あと、本日中にDNA照合を終わらせて下さい。資料の作成と照合の際に残った記録データも提出願います。今日は、先に口頭で結果を伝えるだけで構いません。」


「はい…。ですが…」


「この事件は複雑怪奇。下手を打てば、警視庁が機能不全を起こす可能性が高いですが、真実は見つけ出さなければなりません。」


「承知いたしました…。」


犬飼は心配そうに百木の横顔を見つめている。



???????

8月27日 午前9時00分ー


遠くで始業の鐘が鳴っている。

30人は入れるであろう会議室に初老の男性陣が集まっている。Uの字に組まれたテーブルと椅子に腰掛ける男達は、主役の登場を待っている。

男性達の視線は中央に設けられたデスクチェアに集中している。


この集まりのトップであろう男は静かに佇み、隣の白髪の紳士は、黙ってデスクチェアを見つめている。


一人の男性が、小間使いであろう腰の低い男に声をかける。

「大日はまだ来ないのか。呼び出しておいて、このザマはなんだ。電話で怒鳴りつけて、来るように促せ。」


「ここにいます。」

こもった声が虚空から響いてくる。

男達の視線が右往左往するが、白髪の紳士だけは視線をズラさなかった。


すると、誰も居なかったはずのデスクチェアにスレンダーな女性が座っている。男達は度肝を抜かれた。小間使いは椅子から転げ落ちている。


「失礼いたしました。少しばかり、実験を行いたかったもので…。」


「実験とは何だ。」

トップの男が質問をする。


「はい。皆様も実際に体験したように、このマスクにはヒトの認識を阻害する。被った者を見えなくする効果があります。」


「まさか。そんなモノがあってたまるか!」


「では、お使いになってみますか?」

大日は、サッと立ち上がると熊のような体格の男の前に向かった。


「何を言っている!こんな茶番に付き合うほど暇ではない!」

ドン!

熊のような巨躯から生み出される怒りを机に叩きつけた。


「こわいのですか?」

大日は蔑むような目で男を見つめる。


「では、お隣の方へ」

大日は小間使いにマスクを渡そうとした。


「いい!よこせ!」

熊男は、大日からマスクを奪うと、恐る恐るマスクを顔に近づける。


「おおっ。」

皆が一斉にどよめく。


「順番にマスクを回しますので、お試しください。一応、証拠品ですので、キズをつけないように願います。」


男達は、女帝の言う通りに順番にお面をつけ、その度にどよめいた。白髪の紳士に順番がまわる。


紳士は質問をする。

「これは何の証拠品かな?」


「はい。これは木々須公園警官銃殺事件現場に残された証拠品です。被害者がその場に持ってきた。いえ、装着していたモノと思われます。」


「これが被害者のモノという証拠は?」


「被害者の指紋が多数付着。装着していた時の皮膚片。血痕。そして、裏面中央に書かれた文字の筆跡です。」


紳士の男は目を凝らし、文字を読む。

「やめろ…と書いてあるね。」


「その言葉が何を指しているのかは、分かりかねます。」

大日は素直に答えた。


「分かった。」

紳士は眼鏡を外し、マスクに顔を埋めた。

その場にいる誰しもが黙って、その光景を目にしていた。


紳士はマスクを外し、質問を続ける。

「どうして、これを被害者が持っていた?」


「これから先、ご家族にとって辛い内容を話さなければなりません。それでもお聞きになりますか?」


「構わない。ここに座っている男は、被害者とは何の関係も持ち合わせない。続けたまえ。」


「承知いたしました。」

スラリと伸びた手脚を整え、副総監に向かって敬礼した。


「では、現場の状況と証拠。銃を発砲した者の証言。また、別の事件との繋がりも判明しましたので、それについても報告いたします。」


大日はゆっくりと説明を始めた。

須賀という男の本質を抜きにした内容で…。


???????

8月27日 午前10時18分ー


大日は木々須公園警官銃殺事件の全容を伝え終えた。

要約するとこうだ。

1.木々須市婦女暴行犯は油取宗介である。

2.動機は不明であるが、犯行日時と巡回時間が一致する事。被害者から採取したDNAと油取のDNAが合致。被害者の証言と油取が所持していたマスクの能力と合致。

3.木々須商店街前交番勤務の他2名は暴行犯とは知らない。

4.雉無巡査は独自に計画を立て、暴行犯を捕まえようとした。

5.その計画を利用して、油取は須賀巡査を殺害しようとした。

6.動機は不明である。

7.油取は襲おうとしたが失敗。揉み合いの最中、須賀巡査が銃で発砲。

8.発砲した須賀巡査は気が動転して、失神。

9.油取は胸に被弾し、出血多量で死亡。

10.雉無巡査は減俸と2週間の自宅謹慎。須賀巡査は、精神の回復を待って、自身の進退を委ねる処置を設ける。

以上の事を踏まえて、被害者(容疑者)死亡で書類送検し、警察官の発砲はやむ終えなかったとマスコミに公表すべきと、大日は進言した。


油取副総監は、マスクをじっと見つめたまま無言を貫いている。他の会議参加者は頭を抱え、黙り込み。トップの回答を待つ。


男が口を開ける。

「なるほど。よく分かった。報告ご苦労。大日君。」

ただ、と付け加え、男の話は続く。

「君の進言は否だ。君の報告をそのまま公表すれば、組織の存在意義が無くなる。それは君も望む事ではないだろう。」


「ですが!」

大日は、真正面から立ち向かう。


「わかっている。ストーリーが必要だな。おっ、そうだ。こういうのはどうだろう。」

パン!と音を立て、手を合掌させたまま、男はストーリーを編み始めた。


「事件当夜、公園内にて2人の警察官が怪しい人物と遭遇。職質をかけようとしたが抵抗せれ、犯人に拳銃を奪われ、発砲。一人の警察官の尊い命が奪われた。もう一人の警察官は暴行を受け、重症。」

と、まで続けたところで大日は反論する。


「偽りの、存在もしない犯人を仕立て上げるのですか!」


「そうだな…。」

と、男は考え込んだが、すぐに閃いたようなポーズを取る。


「そういえば昨日、別の管轄で2名を殺傷した犯人を逮捕したという報告を受けている。そいつに今回の事件の犯人、そして、婦女暴行犯の容疑を持たせるとしよう。それで、そいつを送検してくれ。」


「ちょっと待ってくださ…」


「よし!決まりだ!その内容で進めるとしよう!手続きと諸々は任せたよ。」

男は、そう言いながら熊男の横にいる小間使いを見つめた。


「承知いたしました。」

小間使いは、座った状態で深々と頭を下げた。


「これでよろしいかな?副総監。」


「感謝いたします。」

油取副総監は礼を言いつつ、マスクの裏面の一点を見つめていた。


「今回もご苦労だったね大日君。本当にご苦労。では、これにて会議は終了する!」

黙りこんでいた者達は、一斉に立ち上がり、男に向かって深々と頭を下げた。


「では、失礼する。」

男はそう言うと扉に向かって歩み出した。

大日は、歯を食いしばり、拳に怒りを込めている。一点を睨みつけ、男の顔を見ようともしない。


「あっそうそう。そのお面、調べといて。」

男は、そう言い残し、会議室から去っていった。


男がその場から消えると、ゾロゾロと他の参加者達も扉に向かい、去っていく。


会議室には、お面を見つめる紳士と怒りを滲ませる女の二人になった。


木々須公園

9月10日 午後14時15分ー。


二人の警察官が花束を携え、公園を訪れていた。

雉無と須賀である。


雉無が前を歩き、須賀は黙ったまま後をついていく。


「あんたは悪くないんだからね。全部、私のせい。」

雉無は珍しく須賀に弱音を吐いた。事件の断片を知る雉無は、須賀に何も伝えていないようだった。


須賀は何も言わない。


事件現場付近にたどり着いた。熱気と紫外線を浴びる二人は、黙ったまま薄暗い林を見つめている。


雉無は草むらに花束を置き、手を合わせる。

「あなたがなぜ、あんな事をしたのか。何か理由があるはず…。全部調べるのは難しいかもですけど、ひと段落ついたら、また、ここへ報告に来ます。安らかに。」


須賀は、一言も発しない。


全部、あなたのせいです。あなたが真実です…。



-----------------隠し神編 終


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