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第62話 ブレスト村の家庭料理

「いやあ助かったよ。食事を提供してもらってありがとうね」


 病人達が集まって療養していたヴァジムさんの家に招待された。みんな元気になって良かったよ。


「王都から来たんだって?」

「この辺りはきれいだね、緑がいっぱいで川とか湖もお水が澄んでてきれいだったよ」

「なんにもない田舎だけど、そんな風に言ってもらって嬉しいよ」


 私が感想を伝えるとオリガさんが笑う。オリガさんはヴァジムさんの奥さんだ。

 お世辞じゃなくて本当にきれいだった、絵本の挿絵みたいな風景に野生動物。もちろんルイスとモニカがヒャッハーした。食べる分しか狩らない理性ある狼で良かった。


「今日は家庭料理を教えてくれると聞いて楽しみにしてきたんだ」

ウィルコったら社交的になっちゃって…。


「今日は僕が代表して習いたいんだ」

「孫みたいで嬉しいね、うちの孫は女の子ばかりなんだよ。3歳と1歳、女の子は可愛いね。下の息子が結婚したから次は男の子が生まれるかもしれないね、どっちでも孫は可愛いよ」

 食中毒を出した酒盛りには息子さんたちも参加していたらしい。


「今日はドラニキとマチャンカとピロシキとビーツのサラダを作るよ」

 この村の名前はブレスト。麦や麻の栽培が盛んだし地球のベラルーシに似てるなって思ってたら食べ物も似てる。ドラニキとかマチャンカって、そのままだ。


「まずはサラダ。ジャガイモとニンジンを皮ごと茹でる。茹で上がったら皮を剥く。ビーツは別のお鍋で茹でるよ」

「熱いね!」

 ウィルコがアチアチ言いながら剥いた。ウィルコは頑張ったよ。


「ニンジンとジャガイモとビーツとピクルスはサイコロ状にカットする。全部の大きさを揃えるのがコツだよ。上手だね、タマネギはあら微塵に刻んで水に晒す」

 ウィルコの包丁使いがすごい。大根の皮むきを初めてやらせた時とは比べものにならない。


「全部の材料を混ぜて塩で味を整えたらピクルスのつけ汁を加えて味を引き締める。酸味を効かせると美味しいよ。少し置いておくと味が馴染むから、次はピロシキを作ろう」

 ウィルコが手を洗っている間にオリガさんがパン生地と具材を出してきた。


「これはもう包むだけにしてあるんだ。キャベツ入りの具、鶏肉、ポテトとベーコンの3種類だよ。めん棒で生地を伸ばしたら、その上に具をのせてしっかり包む。中身が分かるように包み方を変えようか」

 オリガさんが手を洗って包むのをウィルコが真似する。包み終わったら焼くだけだ。焼くのはルイスとモニカが担当している。


「次はマチャンカ。豚肉をサワークリームで煮た料理だよ」

 そう、この辺りの地域でも乳製品は食べられている。牛乳をそのまま飲むのではなくサワークリームだけど。乳製品をタブーとする文化は思ったよりも早く過去のものになるかもしれない。だってこの国の北半分では普通に食べたりしているんだから。


「厚切りの豚肉をフライパンで焼く。美味しそうな焼き色がついたら、みじん切りのタマネギを加えてさらに炒める。水で溶いた小麦粉を加えてよく混ぜたらローリエの葉とサワークリームを加えて煮込む。最後に塩で味を整えたら完成」

 これはルイスとモニカが好きそう。作り方は覚えたから結界で再現できるかな。


「最後にドラニキを焼くよ。ジャガイモをおろして水けを切ったらスプーン一杯の小麦粉、玉ねぎのみじん切り、卵、ニンニク、ディル、塩を入れて混ぜる。よく混ざったら油をひいたフライパンで美味しそうな焼き色がつくまで焼く。食べる時はサワークリームをつけていただくよ」


「ちょうど良くピロシキも焼けたぞ」

 ルイスとモニカがピロシキを取り出す。


「それじゃあ食べようか!」

 オリガさんの誘導で席に着く。ヴァジムさんは少し前に帰ってきた。農家のヴァジムさんは病み上がりなのに朝早くから働いていたらしい。ウィルコが手洗い指導をしてて笑った。孫もいるヴァジムさんを息子のように暖かく見守っちゃって。


 オリガさんがドラニキを添えたマチャンカをサーブしてくれる。ベラルーシだとクレープを添えるけど、ちょっと違った。ピロシキとサラダは自由に取る形式だ。


「カレンちゃんくらいの年齢だと、どのくらい食べられるかねえ、息子たちがカレンちゃんくらいだった頃を思い出せなくて…」

「大人の半分くらいでお願いします」

 オリガさんが控えめによそってくれた。


「この豚肉の煮込みは美味いな!」

「本当に!サワークリームが合うわね。やっぱり乳製品は美味しいわ」

「サワークリームが何から出来ているか知ってたのかい?」

オリガさんとヴァジムさんが驚いている。

「俺たちは王都でチーズを広めてるんだ」

「ひっそりとチーズを作っている村は多いのよ。みんながオープンにしたら国のかなりの地域で乳製品を食べてるって明らかになるわよ」

「隠すなんてもったいないよね!」


「騙すようで悪いなって思っていたんだよ、知らなければ美味しく食べられると思って」

「…始めからうち明ければ良かったな」

オリガさんとヴァジムさんが下を向く。


「隠す気持ちは分かる。俺たちが王都でチーズ料理を初めて売り出した時は奇妙な目で見られたからな」

「今も絶対に食べないって人は多いわね」


「この村でチーズ、売れるかなあ」

「後で出すから試してみてくれ」

「2人が抵抗無いようなら、この村でも販売するわ」

オリガさんとヴァジムさんが肯いてくれた。


「サラダも美味しいね!酸味が効いてる」

 ルイスとモニカも渋々サラダを取った。この2人は野菜も酸味も苦手なのだ。


…信じられない光景を見た。


 ウィルコが空気を読んでルイスとモニカの分までサラダをもりもり食べたよ!あのウィルコが空気を読んだ!シモンさんを呼んでお赤飯を炊かないと!

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『飼い主を召喚しました ⋃ ╹ᗊ╹ ⋃』


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