第56話 チーズの試食会
あの後、もう一度チーズを仕入れて回った。今回も転移で回って時短。王都で地道にファンが増えていることも伝えた。貧しかったチーズの産地が今後は交易で豊かになる未来を感じてもらえたと思う。
牛の乳を人間が飲んだり食べたりするのに禁忌を感じる文化の中でチーズが発達するくらいには厳しい生活だったのだ。産地の皆さんの喜ぶ顔を見るのは嬉しかった。
追加で仕入れて在庫は充分、王都で試食会をやるよ!
「今回は業者向けの試食会か?」
「うん、今回もトーマスさんが希望者を集めてくれるって」
トーマスさんはダッチオーブンの試食会で居酒屋の店主たちを集めてくれた小売商だ。居酒屋で定番メニュー入りしたら産地の村の定期的な収入になる。
「参加する人たちは全員ピッツアを食べに来てくれたことがあるらしいよ。商品を渡す時に目が光ってた人たち」
ウィルコが時々怯えていたのはそれが原因か。
「試食会では何を作るの?」
「これから夏を迎えるからサラダっぽいメニューも必要だからモッツァレラでカプレーゼは絶対ね!居酒屋メニューだからラクレットとチーズフォンデュもやろう。これでハード系のチーズを使うよね」
「ブリーチーズ、モン・ドール、カマンベールは?」
そのままパンに塗って食べるだけで美味しいよね、上からガリガリとブラックペッパーを引いて食べたら最高なんだけどブラックペッパーはまだ無い。
「ブリーとカマンベールはそのまま出したりガーリックハーブと混ぜよう」
温めてとろとろにすれば混ざりやすいからね。
「モンドールは?」
「モンドールは、とろとろだからスプーンですくって食べるのが1番美味しいんだよね。カプレーゼとかと一緒に出そう」
トマトとフレッシュバジルとモッツァレラのスライスを重ねて塩を振った上に美味しいオリーブオイルを回し掛けてカプレーゼは完成。ああ胡椒を振りたい。
ほんのり温めたブリーに塩、おろしニンニク、パセリ、チャービル、タラゴン、チャイブ(シヴレットとも呼ぶよね)、エストラゴンを刻んで混ぜたらガーリックハーブチーズの完成。
ここまでは予め作っておいたので試食会の参加者が揃ったら、すぐに始められた。
「上から時計回りにカットしたブリー、カマンベール、スプーンですくったモン・ドール、ガーリックハーブチーズ、カプレーゼを盛り付けてある。ワインは何種類かトーマスが用意してくれたから、それぞれ合う組み合わせを探しながら試してくれ」
── いいなあ、ワインとチーズ。
ため息まじりに見守るしかない。みんなピッツアで免疫があるから乳製品だけど躊躇わずに試食してるね。
「これは美味いな…」
「ガーリックハーブのやつはエールも合うんじゃないか?」
意見の交換も活発だ。
「次はラクレットだ」
ウィルコが前のお皿を下げて、モニカが新しいお皿を配る。
「肉や野菜を溶かしたチーズで食べる料理だ」
ルイスとモニカとウィルコがチーズを炙っては肉の上に落としていく。
「これは赤ワインが合うな」
「重めのワインに負けないパンチがあるな」
「次にチーズフォンデュだ。今日はエメンタールとグリュイエールを使っている。パン、肉、野菜、好きなもので食ってくれ」
「これは白ワインが進むな!」
「もしかしてチーズも白ワインで伸ばしているんじゃないか?」
「正解だ」
「試食会なのが残念だな…」
そう、試食だから全部が少量なのです。
「最後は燻製だ」
ルイスとモニカとウィルコがダッチオーブンのフタを開けると燻製の香ばしい香りが漂う。3人が手際良く取り出したスモークチーズを並べたお皿を配る。
「上から時計回りにエメンタール、グリュイエール、エダム、ゴーダ、チェダーだ。最初の皿で出したカマンベールでやっても美味いぞ」
これは私も一欠片もらった。出来立てのスモークチーズはトロトロで美味しいんだよねえ。
「これは蒸留酒も合うな」
「うちの店は定番入りで決まりだ」
「うちもだ」
「うちも全部だ」
試食会に参加した4店舗はチーズのメニューが定番入り決定した。アンリさんとメラニーさんの赤ちゃんは豊かさの中で成長出来るよね。




