第37話 カンパニア
いよいよカンパニアに着いた。
街に入る時はパオロさんたちの口添えもあってスムーズだった。今回も親切な門番さんがオススメの宿を教えてくれた。幼女連れだと薦められる宿も限られるようだ。
「助かる」
「いえいえ、では頼むよステファン」
ステファンが宿まで案内してくれる事になった。道を知っているステファンが御者だ。私はちゃっかり隣に座っている。
カッポカッポと進みながらキョロキョロと視線が落ち着かない。南欧の港町って感じの街並みだ。
「落ちるなよ」
「うん。きれいな街だね!」
「そうか?」
「うん、ご飯が美味しいお店があったら教えて」
「モニカさんたちの料理より美味い店は無いぞ」
「ええ〜」
不満顔になってしまう。
「他の街でもそうだっただろ?」
「そんな事ないよ、ルイスとモニカはこってりした肉料理以外は認めないけど私はヘルシーな料理も好きだし!ウィルコだってシーフードは大好物だし!」
狼とは違うのですよ!私は繊細な舌の持ち主ですから!ウィルコは知らんけど。
「うーん、人口は多いけど栄えてる街じゃないからなあ。漁師の他にはレモン農家が多いくらいしか特徴がないんだ。焼いた魚に塩を振ってレモンを絞って食べるのが1番美味いし名物っちゃ名物なんだけどモニカさんもルイスさんも満足しないだろ?」
「ああ〜、それはあの2人にはダメかも…」
シャウエンでの荒ぶる狼を思い出す。
3人にコシードについて熱く語った翌日、張り切って鍋いっぱいにコシードを作ったルイスとモニカ。私はウィルコに頼んであっさりしたものを作ってもらって食べた。というかコシードをモリモリ食べてたのはルイスとモニカだけだった。3人も味見してたけど肉よりシーフードが好きみたい。
「この街はルイスとモニカが好きな肉料理って少ないのかな?」
── ヤバい。狼たちが荒ぶってしまう。
「逆にルイスさんやモニカさんが得意料理を教えてくれたら流行るかもしれないな」
「受け入れられるかなあ」
「魚を食べない地域から来た旅人に不評なんだよ、宿で出す料理なら肉が人気出ると思うぜ。さあ着いた」
タコの絵が描かれた看板が可愛い蛸足亭。ダニエレさんとイラリーさんがご夫婦で経営している宿だって。
ステファンがヒョイっと下ろしてくれる。
もともと172cmで大きい方だったので、こういうことされるとビックリしちゃうよ。
「ありがと」
お礼は忘れずに言うけどね。
「ちょっと待ってろ」
私の頭を撫でてから先に宿に入って行ったステファンがダニエレさんとイラリーさんを連れて出てきた。
ダニエレさんとイラリーさんはまだ若いご夫婦だね、初々しい〜!
「いらっしゃいませ!ステファンから伺いましたよ」
「カンパニアへようこそ」
すごい好印象のご夫婦、ルイスとモニカもウィルコもニコニコだよ。
「それで勝手に話しちまって悪かったんだけど、俺から一つ提案があるんだ。この街の食事はたぶんルイスさんとモニカさんに合わなそうなんだ。他所から来た旅人で食事が合わないって客も少なくないらしくて」
ヤバい。ルイスとモニカの顔が曇った。
「ルイスさんとモニカさんは料理上手だし、他所の地域の肉料理をダニエレとイラリーに教えてやってくれないか?その代わり素泊まりの料金で食事をつけるって」
「宿泊は割引けませんが食事はサービスさせてもらいますので是非!」
「お願いします!」
ダニエレさんとイラリーさんが頭を下げる。
「いいじゃん!お肉を食べないとルイスとモニカはイライラしちゃうもん!私はシーフードが好きだから、この街のご飯を食べたいけど2人も好きな肉料理を食べられるよ!」
ルイスとモニカの表情がぱあ〜っと明るくなった。
「願ってもないわね!」
「よろしく頼む」
良かった…この街でシーフードを堪能出来そうだよ!
いつも通り4人で一部屋で…という手続きの間「私はお魚ね!」と纏わりついてアピールした。




