第161話 スパイスド・ビーフ
今日はウィルコと定例会議の後、王都の家で世界を見守った。
夜は結界に戻って4人でご飯。今日はなににしようかな…とアイテムボックスの在庫を調べている。
── 年末に収納したご馳走は、まだけっこう残っているな。普段から多めに作って収納しているし在庫状況は充分。あれ…そうだ年末に買ったけど他にも食べたいものが多くて収納したままだった。
「モニカー、ルイスー、ウィルコー」
呼んだら直ぐに来てくれた。モニカ狼とルイス狼の小走りはドスドスしてて可愛いな。
「どうしたの?」
「年末に食べたくて買ったんだけどアイテムボックスに入れたまま忘れていたの。今日はこれを食べたいなって」
アイテムボックスから肉の塊を出すとモニカ狼とルイス狼の耳がピコン!と立ち上がった。
「牛肉ね!」
「香辛料が効いてて美味そうだな」
「地球のアイルランド、中でも南部の地域でクリスマスの翌日、セント・スティーヴンス・デー… 聖ステファノの日とも呼ばれる日に食べるスパイスド・ビーフだよ」
「いいわね!」
「でっかい牛肉はいいな」
「じゃあ、あとはアイルランド繋がりでアイリッシュシチューも作ろうか。マトンと野菜を煮込んだシチューだよ」
「今日の晩飯は牛肉と羊か!」
「賛成よ!」
「僕も賛成、寒い日にシチューは嬉しいね」
脂肪を丁寧に取り除いたマトンは角切り、タマネギは輪切り、皮をむいたジャガイモは8等分にカット。
大きめのお鍋にマトンを入れて平らにならしたら、ジャガイモ、その上にタマネギを重ねる。
一番上のタマネギまで水を入れたらローリエとタイムを加えて強火にかける。
「煮込む前に炒めないの?」
ウィルコの疑問はもっともだ。
「アイリッシュシチューは炒めずに重ねて煮込むんだよ」
ネットの投稿レシピでは炒めると書いてあることが多いが、本場では炒めないので今回は本場に従って炒めていない。
「それにシチューなのにニンジンが入っていないよ」
「本場でもニンジンを入れる、入れない論争があるんだって。今日はお肉を味わうためにニンジン無しで作ってみたよ」
「面白いねえ」
灰汁が出てきたらすくう。煮立ってきたら塩胡椒で軽く味つけをしてさらに中火で煮込む。1時間くらい煮込んだら味をみて足りなければ塩胡椒で整える。
味が整ったら鍋からスープを1カップくらい取っておく。このスープを少しずつ薄力粉に加えてよく混ぜ合わせてから鍋に戻す。溶いた小麦粉でシチューにとろみをつけて完成!
「ご飯にしよう!」
野菜少なめ、肉マシマシと聞いたルイス狼とモニカ狼の尻尾が忙しく振られている。
ウィルコがシチューを配り、ルイスとモニカがスパイスド・ビーフを切り分ける。
今日の副菜は、ほうれん草の白和えとニンジンしりしり。ジャンル破壊の食卓だけど私が日本人だから仕方ない。
「この肉は美味いな」
「スパイスが効いているわね!」
「ルイスもモニカも気に入った?」
「旨味がすごいね、ゆっくり食べたいお肉だな」
「ウィルコの食レポを聞くと、もっと食べたくなるよね」
スパイスド・ビーフは好評だ、シチューはどうかな。…うん美味しい。
「じっくり煮込んだだけあるな!」
「タマネギとジャガイモまでお肉の味が染みているわ」
「塩胡椒だけのシンプルな味付けがいいね。シチューって他にも種類があるの?」
「アイルランドのギネスっていう黒ビールで牛肉を煮込む料理もあるよ」
「それ興味ある!」
「じゃあ今度作ろうか」
「うん!」
アイリッシュ・シチューも好評だった。
今日もみんなでお腹いっぱい食べた。




