日直
今日は朝早くから学校に登校した。
教室の黒板の右隅に書かれた松井翔太と武井メグミの名前。
そう日直だ。
もちろん教室には誰も居ない。
だから2人きりというのを意識して少しドキドキする。
加えて窓から入る風でメグミのブラウン色の髪が靡いて、鼻にシャンプーの匂いが香ってきた。
「っ!」
「んっ、どうかしましたか?」
「い、いや、なんでもない」
「またまたお見通しです。2人の名前が並んでいると、なんだかドキドキしますね」
「しねーよ……ていうか、あれ書いたのメグミか?」
「いえ、私では……クラスメイトの皆が祝福してくれているようで嬉しいですね」
「……俺は恥ずかしいよ!」
昨日の放課後に書いた日直欄の2人の名前を一瞥するとうんうんと満足げに頷く。
知らないうちに名前の周りにはハートマークが書かれていた。
「今日は日直なので、朝シャンをしてきました。あっ、想像してますか?」
「……それ、いつもだよね? 卑怯な」
「楽しい」
「それで、こんなに早く来ちゃってどうするんだよ? まだ日誌取りに行くには早すぎるぞ」
「そうですね……ノープランでしたけど、部室棟を回ってみるのはどうでしょう?」
「いいけど……」
うちの学校は部活に入ることを強制はしていない。
だから俺もメグミもまだどの部にも所属はしていなかった。
部室棟に赴くと、なにやら演奏が聞こえてくる。
そういえば、うちの学校の吹奏楽部は有名らしい。
「どこか人数が少なくてノルマとかない、そんな部ありませんかね?」
「……まあ人数少ない部はあるだろうけど……って部活で何するの?」
「翔太君を完膚なきまでに揶揄います」
「……やめてくれ。これ以上何するんだよ?」
俺は大げさに頭を抱える。
「わかってませんね。部室で揶揄うのとでは状況が違うじゃないですか。2人で恋愛相談を受けるというのもいいですね。思い出作りにもなりますし」
「まあ部活は高校生活にとって大事だとは思うけど……一緒に入ることも異論はないし」
「そうでしょう!」
どうやら本当に部活に興味があるらしい。
朝練が開始されている中、メグミは鼻歌を口ずさみながら部の張り紙を1枚1枚眺めていく。
どれも興味を引くキャッチフレーズが溢れるポスターだ。
でも残念ながらメグミが期待している部はなかった。
その結果にメグミは愕然として大げさに肩を落とす。
「まあないというのがわかっただけでも……そろそろ日誌取りに行くか」
「はい……」
職員室に向かいながらメグミは閃いたとでもいいたげにポンっと手を叩く。
「ど、どうした?」
「ないのなら作ってしまうのがいいのでは……ちょっと部の申請について担任の先生に訊いてみましょう」
「……ほんきか!」
本気だった。
ちょうど職員室にやってきた担任にメグミは部を申請するにはどうすればいいのか……。
具体的には部員数や顧問の有無、活動場所などをときどきフランス語が混じりながら、口調もフランクになりつつ尋ねていく。
メグミの様子に呆気にとられながらも担任は丁寧に説明してくれた。
「先生、俺たち日直なので日誌を……」
「あっ、忘れていました。翔太君ありがとうございます」
「部活考えるのもいいけど、まず日直ということを忘れないようにな」
「ううっ、正論ですけど翔太君が言うと卑怯な感じがしますね」
「なんでだよ!」
この日、メグミとの話は部活のことが大半になった。
それでも油断すると揶揄われ、互いに卑怯と口にすることだけは変わらない。
お読みくださりありがとうございます。
新作の方も書いているので、覗いてくださると嬉しいです。




