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高鳴る鼓動

「昨日も一昨日もマンションに行きましたか?」


 廊下に出て、通話ボタンを押したら第一声がそれだった。

 見られていたのかと少し慌ててしまう。


「なっ、なんでそれを……」

「やだもう、ほんとに期待通り……おほん、お嬢様に会いたいですか?」

「そりゃあ、会いたいですけど……いま、どこに?」

「……その気持ちがあるのでしたら――病院まで来ていただけませんか?」

「病院、ですか……」


 思わず手からスマホがすり抜けそうになる。


「……翔太様ならきっと力になってくれると思います」

「……俺が行っても……」

「お嬢様が喜びます!」


 通話を終えると、迷ったりしないようにだろうか、すぐに病院までの案内を丁寧に記したメッセージが届いた。


 鎧塚さんに俺の心境を読まれている気がする。

 その上で背中を押してくれているのかもしれない。

 教室へ戻り、そのまま鞄をもったところで白石と目が合う。


「どうしたよ?」

「……武井さんがどこにいるのか教えてくれた。俺……」


 行ったところで何かが変わるわけじゃないかもしれない。

 でも、行かないと――

 武井さんにこのまま会えないんじゃないかと昔の後悔が頭をよぎった。


「なら、担任には適当に誤魔化しておいてやるよ、はやく行けっ! 今すぐに行けっ!」

「お、おおっ!」



 鞄を持って勢いよく廊下に飛び出した俺をクラスメイトのざわめきが見送った。

 たった2日会えないだけだったのに、こんなにも不安になるものか。

 まさか、武井さん重い病気なのか?

 色んなことが頭をめぐりながらも駅まで全力で走った。



 ☆☆☆



 新幹線に揺られ1時間、そこから在来線でさらに20分、さらにそこからタクシーに乗って15分。

 ときどき外の風景を見て気持ちを落ち着かせながらも、車内にいる間もずっと武井さんのことを心配し、彼女のことだけを考えていた。

 とにかく武井さんに今は会いたい――

 その気持ちの根底にあるのは――

 小学校の高学年に上がった時には、それが何なのかには気づいてたんだ――




 病院に着いた時には夕方になっていた。

 この時間でも院内の待合室には人が大勢いて、診察を待っているようだ。


「すいません、武井メグミさんの病室はどこですか?」


 受付に出向き、事務員の人に聞いてみた。


「お待ちください……武井メグミさん、ここには入院していませんね。救急での搬送ですか?」

「えっ……いえ、違うと思います……」


 いないという言葉を聞いての動揺は計り知れないもので、鞄を床に落としてしまった。

 鎧塚さんからのメッセージを思わずみて、場所が間違っていないか確認する。


「翔太様、来てくださると思ってました」


 振り返ると、そこには武井さん担当の支援係が笑顔を浮かべていた。


「よ、よかった。病院間違えたのかと……武井さんは?」

「その前にちょっとこちらへ」


 鎧塚さんに連れられ、院内にあるカフェへと入った。

 チェーン店だが、店内には診察番号が表示できるモニターがあり、診察した人が安心して利用できるようになっているみたいだ。


「説明してください。武井さんが入院してるんじゃないんですか?」

「入院しているのはお嬢様じゃありません」


 その言葉を聞いて、大きく息を吐き安心してしまう。


「だったら、なんで俺を……」

「お嬢様はああ見えて、ものすごく心配性です。今までならわたしや奥様が傍にいて支えられましたけど、今までとは違いますから」

「ど、どういう意味ですか?」

「わたしが願っているのはお嬢様の幸せです。とにかくお嬢様をお呼びしますので……」


 鎧塚さんは素早くメッセージを打つ。

 意味が解らなかったけど、武井さんを呼ぶと言われて心臓が高鳴ってしまった。

 そして、それは本人が現れるとさらにさらに高まる。


「早苗、買い物を頼まれたわ。さあ、いく……わ…………よ」


 振り返ると、武井さんはヘーゼル色の瞳を大きく見開いて瞬きしていた。


「……」

「……」


 俺の方も3日ぶりのはずなのに、何年振りかの気持ちで対面できた喜びとドキドキですぐに言葉が出てこない。


「Pourquoi?……」


 どうして? と武井さんがフランス語で喋ったのが耳に届いた。

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