目覚める者
翌日、再びデビルラビットの生息地へ向かった
今度は大丈夫だ、罠も用意してきた
後はウサギを探すだけ
「さあ、何処にいるんだ?」
辺りを見回す
見当たらない、群れが移動したのだろうか
更に森の奥へ進む
「…止まってください」
メイが何かに気付いた様だ
「いたのか?じゃあこの前と同じ様に…」
「まずいですね、ツノ付きが一体混じってますね」
「ツノ付き?なんだそれは?」
群れを見てみると中心に鋭い一本の角が生えたウサギが一匹いる
他のウサギより10倍ぐらい大きい、何なら自分よりデカい
「あれがいるとどうなるんだ?」
「群れはバラバラにならず常に統率とれている状態になります。なので単体で倒すのは難しいでしょう」
「そんなに変わるのか?」
「この前の群れの中心がリーダーとするならば、この群れの中心はボスという感じですね。ただツノ付きはもっと奥に生息するはずなのですが…」
「バラバラにならずにこっちに来るんだよな?」
「そうですね、ボスが指示して下っ端が戦うということですね」
「なるほど、じゃあ…」
創一は自分の考えをメイに話した
「それは面白そうですね、やってみる価値はあると思います」
それを聞くと早速行動を開始した
準備が整いウサギの群れの前で叫んだ
「かかって来いや!!」
ボスが周りに指示するように鳴く
「ガギァァァァァ」
そして、一斉にこちらに向かって走ってきた
「やべ、逃げろ」
追いつかれたら、こちらの作戦が無意味になる
それどころか殺される
全力疾走をしてウサギとの間隔を開けていく
情報通りボスは動かず、下っ端だけがこちらに向かってている
なかなかのスピードだ、すぐにでも追いつかれる
ポイントに着き、跳ぶ
そして、その先で足が詰まって転ける
そのまま顔面から突っ込んでしまった
「いってぇ!?」
ウサギ達はそのままの勢いで創一に噛み付こうとした
しかし
「ギャァアアア…」
叫びながらウサギが真っ二つになっていく
何も知らないままウサギ達は飛び込み、倒れていく
そこには真っ赤に血で染まったワイヤーが張ってあった
これが作戦だった、創一が引きつけてトラップであるワイヤーを木と木の間に張っておき、そこを飛び越せば後は追ってきたウサギ達が勢いよくワイヤーに突っ込むという事だ
だが、もしもがあるかもしれないので後方に下げていたメイに魔法をいつでも使用出来るように待機してもらった
地味だが俺の考えた一網打尽出来る作戦だ
群れの最後尾が何かに気付き、その場でとまる
「《ボルテ》」
雷撃が止まったウサギを貫く
そして痙攣を起こした所をナイフでトドメを刺す
「ごめんな」
もう動揺はしない、大丈夫だ行ける
これで下っ端は全て倒した、中々えぐい倒し方をしたなと思うがこれもまた生きる為だ
後はボスのみ、群れがいた場所に戻る
そこに残っていたボスが警戒態勢をとった
おそらく仲間が戻って来ないのを察したのだろう
「行くぞ、メイ魔法を頼む!」
「《ボルテ》」
電撃が走り、相手に当たる
しかし、電撃は何故かツノに吸収されていく
「まさか、あのツノが避雷針にでもなっているのか?」
ツノが淡く光り、こちらに雷撃が返って来た
「うぉ!?」
間一髪で回避する、どうやらあちらも魔法が使えるらしい
「メイどうする、アイツ電撃喰らわないぞ!炎は効くんじゃないか?」
「ダメです、森に囲まれているので火事になってしまいます!」
「だから使わなかったのか!こうなったら」
魔法に頼らず戦うしかない
つまり一対一の勝負だ
ナイフだと心臓に届くか分からないが、多量出血で倒せるかもしれない
走って間合いを詰める
そしてナイフで一撃いれて離れる
「当たるけど、毛皮が分厚いから肉までいかないぞ」
かすり傷みたいにしかならない
これはひたすら切っていくしか無い
毛を刈って、肉を抉ぐるだけだ
ヒットアンドアウェイで無理せずに確実に仕留める
一撃二撃、三撃と次々にナイフで傷を着けていく
デビルラビットもただやられているだけでは無い、ツノを振り回し、脚力を活かした突進を繰り出してくる
一撃でも当たったら致命傷だ、こちらは大した防御力はない、機動性重視の紙装甲だ
だいぶ手数も出して毛が剥げて、皮が見えている
相手も傷だらけだが致命傷には程遠い遠い、それよりも先にこちらのスタミナ切れの方が近くなって来た
「はぁ、はぁ、まだか?全然出血してないのかよ?」
ツノが淡く光り始めた
また電撃が来ると思い、後ろに下がる
しかし、それを狙ったかの様にデビルラビットが追突をして来た
「うっ、フェイントか!?」
突進が創一の体を弾き飛ばす
車にぶつかったのではないかと思う様なあまりの衝撃で呼吸が出来ない
「ソーイチ!逃げて!」
メイの言葉が耳に入らない
後頭部を打ち付けて意識が朦朧としている
デビルラビットが倒れている創一の上に立ち、喰らおうとしている
「まずい、このままだと死ぬ…まだ死ねない、まだ、まだ…」
頭に家族の悲しんでいる姿を想像してしまう
俺は元の世界に戻りたい一刻でも早く
ナイフを相手の心臓に目掛けて刺す
だが心臓まで届かない、足りないのだ
ナイフのリーチが短過ぎる、欲しい、相手を貫通する程の力が
「まだ、死ねないんだよ!おらぁぁぁああ!」
更に力を入れて刺す
だが毛皮と肉の厚みが普通奴より倍ほどあるため刺さらない
諦めない、強く差し込む、力一杯に
その時、頭に何かがよぎった
《でpjuj5<2バktmト》
黒くて禍々しい力が手を通じてナイフに流れていく
そしてナイフが瞬時に巨大な黒い爪ような形に変化した
ナイフは相手の体を貫通し、体中から血が吹き出ている
「ガッ?…」
体の力が抜けて崩れ落ちるように倒れた
倒したのだ、何らかの力で
「お、重い、え…た、倒した?」
信じられない、何が起こったのかも理解出来ない
「ソーイチ、大丈夫ですか!?今すぐ手当てを!」
ズルズルと首根っこを掴まれて引っ張り出される
よくわからないが、どうやら終わったみたいだ
さっきのは一体何だったのだろうか
「なぁ、さっきの見てた?」
「えぇ、見てましたよ。あれはソーイチのスキルですね、いつ習得したんですか?」
「スキルって…えぇ!?スキル使えるの?俺!?」
「はい、詳しくはないのですがあれは確かにスキルでしたよ」
初めてスキルを出せるようになった、頭に言葉が過って出るって感じだった
しかし何故、戦闘中にスキルが出たのだろうか?元々覚えてたけど使わなかっただけだろうか。だから相手を倒したい気持ちで発動したのだろう。
「でもこれで、今日は終わりだよね?」
「はい!終わりです、大勝利です!」
「痛たたた、じゃあ帰ろうか。疲れちゃって」
「そうですね、でも素材回収を忘れないで下さいね!」
とメイがワイヤートラップの方を指差している
忘れていた、アレを回収するのか
映像的にはゾンビ映画で観たレーザーでバラバラになっている奴を彷彿させるものだ、中々えぐい
「メイも手伝ってくれるよね?」
「一人で出来ますよね?」
わぉ!目がかなり冷たい。顔は笑顔のはずなのに
まぁ、この作戦は自分が言い出したのだから当然と言えば当然だ
「はい、片付けて参ります」
肉片の回収に向かった、足取りは重いけれど今は自分の勝利に喜ぶべきだ
よくやったぞ自分と自分自信を褒め讃えた
創一が移動した事を確認して、メイはデビルラビットのボスを回収していた
「なんとか倒せましたね…、とりあえずは第一関門はクリア出来ましたか…」
肉と皮、爪や牙などを解体していく
今回の戦いは謎が多かったのだ、森の奥にいるはずのツノ付きがこんな近辺にいるのは何故なのか
「これは…」
メイはデビルラビットから何かを取り出した
そして、辺りを見回してポーチへ収納した