二兎追うもの、一兎から何かを得る
準備を済ませて食堂へ行き、メイと合流した
メイと朝食を摂りながら今後の方針を決める為に話し合った
しかし、先程の事件があった為あまり目を合わせてくれない
「今後の方針についてなんだけど…その前に先に謝っとく、本当にすまない」
「い、いえいえ、だだだ大丈夫ですよ、ほら男の子はそういうもの?…だからと聞いてますから」
気まづいな、妹は俺のを見ても何も反応しなかったが、やはり異性
こういう事は他人に見られると度し難い
「今度からはノックして返事が返って来てから入りますので…」
「助かります…」
気を遣わせてしまった、次から気をつければこんな事にはならないはずだ
うん、大丈夫なはずだ
「…えーっと、話を戻すけど今後の方針を決めたいんだけど」
「そうですね…ソーイチの元の世界に戻るためには、とりあえずの最終目標として魔王の所まで行く事ですね。その為には先にレベルアップしながら情報の収集、次に王都への移動、その後に仲間の補充ですね」
「仲間は先に作らないのか?」
「この街では冒険者の人が少ないうえに、パーティーがほとんど組まれていて冒険者で余ってる人がいないんですよ、それに私達の様に弱いパーティーに入る人はなかなかいませんからね」
周りを見渡すと確かに冒険者みたいな人は自分が見たのはせいぜい5、6人ぐらいだ
最西端の町だからだろうか、理由は分からないがここでは仲間は集められ無さそうだ
「なるほど、弱いパーティーだと死ぬリスクが増えるからか?まぁ、強い奴が入ってきてくれるわけ無いし、今はレベルアップに勤しみますか!」
「はい、とりあえずは今回はスライム以外のモンスターを倒せるまでにしましょうね」
「おっす!で、スライム以外というと何をたおすんだ?」
「デビルラビットです!」
「何それ、強いの?」
「単体はあまり強く無いのですが群れでいる時は厄介な相手です。彼らは連携を駆使して相手を弱らせて行き、最後は群れで一気に…って感じですね」
「へぇ、あと気を付ける事は無いの?」
「牙に微量ながら神経を麻痺させる毒が有りますね」
「えー、何それ…恐いんだけど、とりあえず下見にいこうか…」
そういうと朝食を済ませて草原に向かった
今回は草原の奥にある森の近くでデビルラビットを探した
森の付近にはスライムは見当たらない、この付近には生息していないのだろう、俺にとってはスライムはかなりのトラウマになっているのでいない方がありがたい
「いましたよ」
メイが小さな声で創一に伝える
声は小さくと手で合図を送る、指で目標の場所を指している
「あいつか、まんまウサギだな…かなり前歯が厳ついけど」
見た目は大きめなウサギだが前歯が尖った岩の様な形をしてる
群れで生息してて、中心にいる一匹が細かく耳を傾けて注意を払っている
「彼らは耳がいいので危険だと思うとすぐに逃げますが、獲物だと思われるとすぐに襲われてしまいます」
「何だそれ?弱そうな奴だけ狙う、なんちゃってヤンキーみたいだな。そういえば、何であいつらを今回倒すんだ?」
「やんきー?とは分かりませんが、デビルラビットの別名は経験値兎と言われてて、倒すと普段の倍以上にレベルアップが早くなるんですよ」
「おお、それは有難い!早速倒したいのだが、その前に作戦を決めよう」
「そうですね、前回の様には出来ないと思います。なので一度私の魔法で群れをバラバラにしてから一体ずつ倒す事にしましょう」
「さすが、それでいこう」
2人は左右に分かれて、挟み撃ちをする様に囲む
定位置に着いたら創一が手を振る
合図に応じてメイが小さな声で呪文をいう
「《ボルテ》」
バチィィィイイと杖から電撃が目標に向かって走った
雷撃は中心の一匹に直撃し他のモンスターはバラバラにに散って逃げた
残った一匹は痙攣している、まだ生きているのだ
「ソーイチ、トドメをお願いします」
「わかった」
スライムとは違う、このモンスターを殺すというのは何故か抵抗が出てしまう
何故だ?
「どうしたんですか?」
「…いや、なんでも無い」
手が震えている、呼吸が小刻みになっていく
こんな事は一度もなかった
これが生を奪うと言うこと
腹を決めて、ナイフを心臓に向かって刺す
肉を貫いていく感触がする、ブチブチと筋肉繊維の一本一本が切れていく感触が手に伝わる
モンスターの断末魔が響く
「ギィィィィィィィィイイイ」
次第に痙攣すら起こさず、ぐたっと倒れた
血は赤く、ナイフに伝わり手に流れてくる
熱い、さっきまで生きていたものを自分の手で殺したのだ
これがこの世界で生きるという事…
突発的な気持ち悪さが襲ってくる
口の中で唾液が湧き出て、胃から胃液が逆流してきそうだった
「うっ…」
咄嗟に手で口を覆い我慢をした
「ソーイチ、大丈夫ですか?顔色が良く無いですよ?」
「…うん、大丈夫だ。今までこんな事やった事ないから緊張してるだけだから」
まだ心臓がばくばくと鳴っている
手も震えている
「ソーイチ、一度宿に戻りましょう」
「大丈夫だから、心配するなよ…次倒そう、次」
とりあえず倒さないと、と頭が命令を出している感じがする
早く、早くと、何かに急かされている
デビルラビットを探そうと前に進もうとした
「ソーイチ!」
怒鳴り声に近いメイの呼ぶ声が聞こえた
だが無視する、それどころでは無い
早く倒さなくては…
メイが今まで見た事の無い顔付きで、創一に近づき両手で頬をパチっと挟んだ
「私の目をよく見てソーイチ、なぜ焦っているの?あなたはまだこの世界に来たばかりでしょ?あなたは勇者の様に優れた力や精神は持っていない。落ち着いて、貴方は1人じゃないの!」
頭が真っ白になった、淡々と言ったメイの言葉が今までの考えをかき消した
なぜ焦っているのかわからなかった
しかし、今思った
怖かったのだ、命を奪ったことが
逃げたかったのだ、その場から、殺した者から
「俺は…俺は……」
「ソーイチ、宿に戻りましょう、今日は下見のはずですよ?」
笑顔で創一の手を握って町に向かって歩いた
何故か、涙が溢れてきた
その優しさは何もかもを許すようで
貴方は間違いを犯していないと言っているようで
「ありがとう…」
メイが気づかないぐらい小さい声で言った
メイの小さな手が創一を町まで引っ張って歩いて行った