これが現実かよ!
町に着くまでの間、メイと自己紹介がてら話をして歩いていた
どうやらメイは人見知りでパーティを組もうとしても、なかなか勇気が出せずパーティに入れなかったらしい
また、勇気を出して声を掛けても下級魔術士は大体埋まっているらしくいわゆるパーティは作りたいけど欲しいのはタンク系の職業とか、戦闘で小回りの効く格闘士とかなんだよね〜ってな感じらしい
魔術士が二人でもいいじゃんと思うがそれは攻撃型の魔術士と回復、支援系の魔術士を分担してじゃないと戦闘が回らないらしい
なので、とりあえず初パーティとして助けた青年(珍しい召喚者)をパーティに誘ったらしい
こっちとしては願ったり叶ったりだ
やはりと言うか、勇者や冒険者がいると言う事はあの存在もいるはずだ
聞くまででも無いが…
「そういえば、勇者とか冒険者がいるということは魔王もいるってこと?」
「はい…います」
何故か返事が変な感じがした、魔王に嫌な思い出でもあるのだろう
「ですよね…ここの世界は地図とかあると思うんだけど、どういう風に国が分かれているのかな?」
「この世界は4つの国と魔王領に分けられます、今いるこの国は西の国ハルシルです。そして、東の国エドラ、北の国ユーティス、南の国サルゴと国があります。魔王領は四つの国の北東にあるのです」
「ここは安全地帯ってことか、じゃあ北の国と東の国は大変じゃないのか?」
「そうですね、魔王領と隣合わせの国ですから、そういう考えもあると思いますが、実は魔王領のモンスターも容易には入って来ないのですよ」
「なんでだ?壁を立てて防いでいるのか?」
「ダンジョンですよ、魔王領と国の間には迷宮があって人であってもモンスターであっても迷宮を抜けないと進めないのです」
まるでRPGの如くダンジョンを攻略して初めて魔王領に入れる様になっているようだ
しかし疑問なのが、それなら何故安全地帯である西の国にモンスターであるスライムが存在するのかである
「なんでここにスライムがいるんだ?ここから魔王領まで遠いだろ?」
「モンスターはダンジョンが出来る前からここの一帯に生存しています。元々は魔界領と国との間にはダンジョンは存在しませんでした、数年前に急に姿を現したのです」
「ふーん、人もモンスターも通さないダンジョンが勝手に出て来たのか、国王か魔王が造ったのかな?」
「分かりません、魔王が造ったのならモンスターだけでも送って来るはずです。自然に出来たのかもしれませんね」
「自然にねぇ」
そもそもダンジョンが自然発生するのだろうかとは思うが、ゲームとかだと大抵の出来事は魔王の仕業なのが相場である
しかし、まだまだ知る事が多そうだと思ったが
これでもまだ序盤だ、おそらくゴールは魔王を倒す事になるのだろう
そしたら元の世界に帰れるはずだ、ゲームとかの設定だとしたら…
そうしているうちに街の門まで着いた
門番らしき人が近づいて敬礼をして来た
「ようこそ、最西端の町クナルへ!」
門をくぐると多くの人達が働き、騒ぎ、食事をして町は賑わっている、お祭りの様な雰囲気で楽しそうだ
「うわぁ、凄いな…うぉ!剣とか鎧とか身に付けてる人がいるよ!」
「そんなに珍しいですか?普通の冒険者達ですが」
「いやぁ、初めて見るもので…しかし活気のあるいい町だな」
「はい、とてもいい町です、笑顔で満ち溢れてます!とりあえず教会に行きましょう!」
メイはせっかちな子供の様に創一の腕を引っ張って走り出した
教会に着いておっとりとした顔の神父に事情を説明した所、特に驚きもせず
「そうなのかい?じゃあとりあえず見てみようか、その歳で職業が無いと困るだろう」
と職を決める儀式を始めてくれた
ちょっと待ってねと言って出したのは水晶の玉だった、よくいる占い師みたいにぶつぶつと何かを唱えて手を水晶に添えている
すると
「ん?」
神父が不思議そうな顔をしている
「なんかありました?僕の力が膨大とかですか?」
神父は首を振った
「いやなに、ちょっと水晶の調子がおかしくなってね。もう一度みるから」
外れた、自分の能力に期待し過ぎだ、落ち着けと深呼吸する
「はい、出たよ」
「おお、で、僕の職はなんですか?」
ニッコリと神父はこちらを見て
「えーっとねぇ、君の職は…」
ゴクリと唾を飲み込んだ
「シーフだ」
「えっ?シーフ?シーフって確か」
「盗賊だねぇ」
「えええええぇぇぇぇぇえ!?」
「あはは、おっほん、えー、神の導きに幸あれ少年よ。君の物語は今始まるよ」
こうして転生して期待していた物語はまさかの展開から幕を開けた
どうしようか、盗賊が魔王を倒せるのか?という疑問だけが渦巻いている
「どうだったんですか?適性は良かったですか?」
遠くにいたメイが儀式が終わった自分に近づいてきた
「盗賊だった…」
「…あっ、えっとそのぉ、でも盗賊って色々出来ますし!足速いですし!凄いですよ!」
メイの必死なフォローが心に刺さる
やめて、そんなに必死にならないで、こんな良い子に盗賊のフォローさせちゃダメでしょうよ
「ありがとう、俺頑張るからさ…ははっ…はぁ」
正直勇者になりたかったが決まったものは仕方ない、ステータスは転生者だから高いと思うので神父に聞いてみた
「神父さん、僕のステータス…能力とか教えてくれますか?」
「君の基本能力はだね、魔力と体力ともに普通だよ、村人と変わらないよ、あと足が速いとかかね?」
「足の速さの情報はいらないよ!なんだ、普通なのか…」
「基本能力は職を決める時の基準なので、勇者となると元々が魔力と体力等ががかなり高い人が選ばれますね」
「そうなのか、じゃあメイは適性は魔術士だから」
「魔力が他の基本能力より高いからですね」
「まぁ、アレだね、レベルをあげたら職種変化もあるから頑張る事だよ少年」
ポンと神父が肩を叩いて、奥の部屋へと帰って行った
職業のレベルの概念がある事やクラスアップの概念もあるとはますますゲームの設定の様だ
「職種変化…クラスアップね、そうだな、まずはレベルをあげて強くなる事だな」
「そうですね、一緒に頑張りましょうね!」
「しばらくはメイの力に頼るけど、絶対強くなってメイを守れるぐらいになるから!」
「ふふっ、頼りにしてますよ!」
うん、結構恥ずかしい事言ったかも
穴があったらなんとやらだ、もっとマシな言葉を出せばよかったと思う
「い、行きますか。どうしようかな」
「えーっと、まずはソーイチさんの装備を揃えましょうか」
「え、お金無いんだけど」
この世界って日本円をつかえるのか?と思うのだが…
「大丈夫、私が出しますから」
「いや、申し訳ないよ!」
「でも仲間が困っていたら助けるのは当然ですし、お金は多少持っているので大丈夫ですよ!ほら、しばらくは私の力に頼るんですよね!」
「そうだな、すまないけど頼む。すぐお金返すから」
「いえいえ、それでは行きましょう」
装備を揃える為、防具屋へ移動した
たどり着いた防具屋の店構えは古い民家と変わらない風貌だったが窓から見える棚の中には綺麗に並んだ武器がズラっと並んでいた
イメージだと樽の中に乱雑に剣が置かれていると思っていた
「へい、いらっしゃい!…おいおい!どうしたんだその格好は?珍しい服着てるがボロボロだな」
「いやー、色々あって…装備を揃えたいんですけど」
「装備か、それで職はなんなんだい?」
そういうと後ろにある棚を物色し始めた
「盗賊なんですけど」
「あ?盗賊だと?」
防具屋のおっさんの動きが止まった
「盗賊に売る装備なんてなぁ…あるんですよ」
「あるのかよ、これは?」
「盗賊が装備揃えるにくるなんて久しぶりでな、これは機動力重視の装備だ。武器はナイフにしといたぞ、切ってよし、投げてよしの一品だ。扱いが簡単だが殺傷能力は低いぞ!まぁ初心者にはこれぐらいが丁度いいんだがな」
守備力は低いが動きやすそうだ
冒険の始まりはこれぐらいで十分だろう
「500ザールだ」
ザールとうのはこの世界の通貨だろう
高いのか安いのか分からない
「はい、500ザールですね。装備一式でこの値段は安いですね」
「まぁ、盗賊の装備は売れ残りみたいなもんだからな…しかし坊主お前、嬢ちゃんにお金払わせるのか?マジかー、無いわー」
「待ってください!これには事情が!ちゃんと返すから、今だけだから!」
くっ、これが嫌だったんだ、この反応が
第三者から見ればまるでお金持ちの彼女に全て頼るヒモのようだ
メンタルがやられる
「はっはっはっ!冗談だ、早く着替えな」
創一は目の前にある装備に着替えた
着た感じはアンダーウェアを着ているようにピッタリしていた
動きやすく軽い、今までない着心地だった
ナイフを掴み素振りをする。グリップが効いてしっかりとくる、強く振っても簡単には滑らない
「凄い、これが装備か、ありがとうございます!」
「おう、気に入ってもらえたなら何よりだ、しかし…お前さん盗賊なのにパーティ組んでいるとか珍しいな」
「そうなんすか?盗賊ってそんなに冒険とかにでないんですか?」
「そりゃなぁ、モンスター倒すより人を脅して稼ぐほうが安全で確実だからな。つまり坊主は冒険者になって金を稼ぐ珍しい盗賊ってわけだ」
「そうだったんですか、知らなかった」
盗賊のイメージはどうやら悪いらしい、それはそうだステータスが普通な奴がモンスターに挑むのは自殺に近い
ましてや、スライムであの強さだ
「じゃあ、坊主の終着点はダンジョンに入ってお宝を集めて大金持ちってとこか」
「いや、魔王を倒そうと思ってんですけど」
「なに?魔王を?ガハハハっ」
腹を抱えて笑っている、まあ可笑しい事だろう、普通考えて魔王を倒すのは勇者なのだから
「ひーぃ、そうかそうかじゃあ、盗賊の中の英雄がここから旅立つって事だな?凄えじゃねぇか、ちょっと待ってろ」
おっさんが急に真面目な顔をして店の奥に入っていった、しばらくしておっさんは一つの箱を持ってきた
「これは餞別だ、大事に使ってくれよ」
箱を開けると二対の刀が出てきた
赤黒くて日本刀のような波をうっているナイフだ
「これは?」
「これはな、昔俺の知り合いが預けてきた物だ」
「それって勝手に貰っていいんすか?」
「それがな、そいつがこう言ってたんだ…「盗賊の奴で魔王を倒しに行くって奴にこれを渡してくれねぇかな」ってよ。まさか本当に現れるとは思ってなかったけどな、渡せて良かったよ」
そんな事が起きるのだなと思った
二対のナイフを操れるのは盗賊だけらしい
つまりこれを預けた人も元盗賊だったという事なのだろう
「ありがとうございます、大事に使います!」
「お礼なんていいんだよ、強くなって恩返しをしてくれよ!」
何という漢気溢れる言葉なのだろう
その期待に応える為に、店主に背を向けて草原に向かった