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僕の転職  作者: 夢追う小鳥
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5年間の努力

深呼吸の後、僕はあたりを見回した。


ヨガマットが目に入った。

「よし」

手慣れた手つきでヨガマットを広げ、僕は筋トレを始めた。


体は鍛えている。いつ異世界に飛ばされてもいいように。

というのは冗談で、これも準備の一環だ。

まず、体を鍛えて損はない。

電車が止まっても、鍛えた肉体があれば、家まで帰って来れる可能性が増える。

変な奴に絡まれたって、逃げれる可能性が増える。

そして何より、鍛えた肉体が自信になる。

自分が頑張ったことの証が、鍛えられた肉体として目に見えるのだ。


小一時間筋トレした後、再びシャワーを浴びた。


で、次だ。僕はテレビをつけた。

バラエティー番組が映った。

僕は出演者の言葉を聞き、そして唐突に復唱を始めた。


なぜ復唱するのかって?

自分は、コミュニケーション能力が皆無なのだ。

所謂ADHDだ。

ADHDになってしまった理由?

それは不明だ。

医者によると、大人になってからだと原因を突き止めるのが難しいらしい。

先天的か後天的かすら不明だ。

後天的だとすると思いつくところはある。が、確かではない。


僕は、両親に生まれてくることを望まれなかった。

妊娠した際に、大揉めしたそうだ。

そして、生んでから処分することで決まった後、出産後に処分しようとしたら、

親戚に叱責され嫌々育てることにしたらしい。


おっと、処分といっても殺すって意味じゃない。

里子に出すか、施設に預けるか、だ。

まあ、どちらもダメだった場合の最終手段として殺すという選択肢がなかったかと言うと嘘になるが・・・。

実際に生まれてから何度も殺されかけたしね。

何故生き延びたかって?

それはまた機会があれば。


まあ、何はともあれ、こうしてコミュニケーション能力が欠落した人間が生まれた。

それが僕だ。

そして、僕がやり直すうえで必要不可欠な能力。

それがコミュニケーション能力だ。

30過ぎた人間がコミュニケーション能力を身に着けようなんて、無理なのかもしれない。

ならどうするか?

取り繕うことができればいいんだ。本当のコミュニケーション能力でなくてもいい。

取り繕うことができればいい。


そして、今僕は、テレビの声を復唱している。

取り繕う技術としてのコミュニケーション能力を復唱することで身に着けようとしている。


実際、5年前よりは大分マシになったと思う。

相手の行動に対して、ある程度はそれっぽく取り繕うことができるようになってきたのだ。

相手の行動から、相手の意思を推測し、取るべき行動を考え、そして取り繕う。


きっと所謂普通と言われる大抵の人が、無意識に行っている行動なのだろう。

それを意識的に一つずつ、一工程ずつ行っていく。

そんな感じなんだと思う。

間違っているかもしれないけど。


とはいえ、コミュニケーション能力が身についたわけではない。

ただ、取り繕えている。それだけだ。

でも、これだけでも自分がやってきたことに対して自信になる。


復唱していた番組が終わった。これで復唱も終わりだ。


さて、次は何を、と思ったところ、

携帯電話に一通のメールだ届いていたことに気づいた。


「お誕生日おめでとう」


数少ない友達からだった。友達と言っても名前も顔も知らない。

ネットで知り合ったメールのやり取りだけの友達。所謂メル友だ。


彼女とはいろいろなゲームが無料で遊べる会員制のサイトで知り合った。

メル友になったのは似たような境遇だったからだ。

メル友でしかないが、彼女の存在はありがたかった。


「お誕生日おめでとう」

たったの一言だが、この一通のメールが僕に次の一歩を進ませたのだった。



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