0-2 再び白い世界へ
結局ゲームもできず、ふて寝し、そのまま朝を迎えてしまった。
今日は月曜日なので、仕方なく学校へ行くことにする。
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「おっす、陽。どうだ、デウスファンタジー!どこまで進んだ?」
席に着いたとたん、挨拶もそこそこに話しかけてくる男子生徒。
名前は「暁 亮」
だいたい何をするにも一緒に居てバカをする。いわゆる悪友だな。人に迷惑をかけることはしないけど。
中学生からの付き合いで気が合う。
「あー、いやコントローラーを失くしてな・・昨日はまったくできなかった・・」
「・・・コントローラーって失くせるもんなのか・・?」
「言うなよ。色々事情があったんだ・・」
神様に会って、そこで落としました、などと言ったらコイツが大爆笑するのは必至。
夢だと思われるのがオチだろうということを踏まえて、そこは話さない。
「探しても見つからないから帰りに買っていくわ。で、お前はどこまで・・いや、ネタバレしたくないから話さなくていい」
「そうだなー、陽なら、同じくらい進んでると思ってたからちょっとガッカリだ・・」
そんな朝のやり取りをしていると、女子生徒が声を荒げて俺に詰め寄ってきた。
「ちょっと陽!一人で先に行くなんてどういう事よ!何回チャイム押しても出ないから、まだ寝てるのかなって思って部屋まで見に行ったら布団はもぬけの殻。行くなら一言連絡しておいてよね!」
朝っぱらから騒がしいこいつは、雨宮 綾香隣の家に住んでいるいわば幼馴染というやつだ。
親父は外交関係で家に居ついておらず、母親は今年から海外でアパレルの仕事をしており、たまーに帰ってくるくらいなのだ。
そしたら、母親が「うちの子の面倒宜しくね!」と勝手に家の鍵を渡し、色々と世話を焼いてくるようになったのだ。
「いや、ちょっと早起きしてな・・健康にいいかと思って早く出たんだ」
「それはいいけど・・二度手間になるからちゃんと連絡してよね?朝ごはんは食べたの?」
お前は俺の母親かと言わんばかりの世話焼きっぷりである。泣きながら俺の後ろを着いてきていた頃が懐かしい。
「食ってないけど、まあ別に大丈夫だろう。昼は適当に弁当でも買って・・」
すると綾香、ニヤリと笑ってでしょうねという言葉と共に俺に巾着袋を差し出してきた。
「そういうだろうと思って、作って来たわよお弁当。朝はこっちのサンドイッチを食べてね!ふふふー、陽の行動なんてお見通しなんだから!」
その割には俺の早起きには対応できていなかったがな。
「いいのか?遠慮なくもらうぞ?」
「いいわよ、帰りにお弁当箱返してね、それじゃ!」
何故か上機嫌で席へと戻っていく綾香であった。いいことあったのだろうか?
横を見ると、亮が悶絶していた。
「お前等ぁぁぁぁぁ!イチャイチャするの止めてくれない!?一人身の俺としちゃ辛いんですけど!?」
何を言っているのか、いつもの会話だからイチャイチャなどしていない。
「それが普通じゃないから言ってんだよ!」
「俺の心の声を読むか、やるな?」
「どうでもいいよ!?いいよなあ、陽は可愛い幼馴染が居て・・ウチは小うるさい妹しかいないと言うのに・・・」
「そうかあ?綾香も小うるさいだけだぞ、マジで」
「可愛いからいいじゃないか」
可愛いと連呼するこの友人の言葉を受けて、改めて綾香を見る。
長いストレートの黒髪の毛先をアクセサリーで纏めている。パッチリとした目。化粧っ気も無く、黙っていたら清楚系に見えなくもない。確かに客観的に見たらかわいいかもしれない。
「結構狙っているヤツ多いんだぜ?取られても知らんからな」
「むう・・」
しかし、綾香にも好みというものはあるだろう。今はウチの母さんに言われるがまま、俺の世話を焼いているが、その内誰かを好きになることはあるかもしれない。こればかりは本人次第だろう。
「あれ?」
そう思ったら、何だか胸の奥が重くなっていた。
やめやめ、考えるの止め!
「静かにしろ~HR始めるぞ~」
一人考えていると、担任が教室へ入って来た。
ま、今はなるようにしかならんよな。
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そして放課後!!
「んじゃ、俺は帰って続きやるから!お前も今日こそは進めてくれよ?あのシーン、良かったからなあ・・」
俺のまだ見ていないイベントを思いつつ、ウフフって感じでトリップしている。キモイ。
「キモイ」
「ハッキリ言いすぎだろ!まあいい、帰りはゲーム屋か?」
「だな、コントローラーを買いに行かないと・・」
無駄な出費だが、神様には俺の返却コールは届かなかったのだ、仕方あるまい。うう・・。
「陽ー、今日はどうするの?」
俺が一人心の中で嘆いていると、綾香が声をかけてくる。
「ああ、ちょっとゲーム屋によってから帰るわ。飯は・・またおばさんが?」
「うん、用意してるからちゃんと連れてくるようにってさっき連絡があったの。ゲーム屋さんって商店街のよね?一緒に行っていい?」
「最終的にお前ん家に行くからそれでもいいけど、何か買うものでもあるの?」
「特には無いけど、たまにはいいかなって」
「なら、さっさと行くか・・おばさんを待たせるのも悪いしな・・と」
カバンを持って、席を立つ。
「家族公認か・・いいなあ・・」
亮が朝の話をぶり返すように、呟く。やめろぉ!!
「いやだ!暁君ってば!新婚さんみたいなんてそんなー!!」
そういってバシバシ亮の肩を叩きまくる綾香。何故か力が強いので、亮は「う」とうめき声をあげた。
後、そんなことは言ってない。
「アホなこと言ってないでさっさと行くぞ」
「あ、待ってよ!じゃあね暁君!」
クラスの人間はこのやり取りは見飽きている。中学の頃から変わらないからだ。
そう、何故か俺達を生暖かい目で見てくる女子と、嫉妬の目を向けてくる男子という構図は、変わらないのだ。
「やれやれ、素直じゃないねぇ」
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「よし、とりあえず中古でいいか」
「コントローラー?どうしたの壊れちゃった?」
「いや、何というか・・失くしたんだ・・」
「え、コントローラーって失くせるもんなの・・?」
はい、本日二回目の「失くせるものなの」いただきましたー!!
くそう、神様んとこで落としたとか誰も信じてくれねぇだろうし、俺がおかしいヤツで通すしかない。
とりあえず買って店を後にする。
「どこにもないの?」
夕飯前だと言うのに、クレープを頬張る(俺が買った)綾香がさっきの続きを話し出す。
「ああ、寝ぼけてベッドの下とかにあるかもしれないけど・・まあ探すの面倒だし」
「ふーん、今度掃除しに行こうかしら?」
ふと綾香がそんな事を言う。禁断の書(エロ本)とかあるから勘弁してほしい。
「いや、そこまでしてもらう訳にもな・・飯とか世話になってるし・・」
「気にしなくていいのに!私と陽の仲じゃない!」
少し先を歩いていた綾香が振り向き、ニコっと笑う。
「そうは言うがなあ、流石にもう高校生・・」
と、言いかけたところで足元にパカっと穴が開いた。
「「え?」」
俺と綾香が足元をみた瞬間、俺達は穴へ吸い込まれていった。
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「はっ!?」
気付けばあたりは真っ白い空間。
どこまでも続いているかのような錯覚さえ覚える、だだっ広いこの場所には見覚えがある。
あ!そうだ綾香は!
少し離れたところに綾香が倒れているのが見えた。
慌てて駆け寄り、抱き起こして傷などを確認するが、特に問題ないようだ。
「ふう、良かった・・」
怪我でもされたら母さんに何言われるか分かったもんじゃない・・。
無事を確認したので次にやることは・・・
「神様ー!居るんだろー!」
すると、スゥっと禿のじいさんが目の前にやってきた。
「おうおう、急にすまんかったな。いや、君がこれを忘れてたもんだから返そうと思ってのう」
そういって俺のコントローラーを差し出す。
「おせぇえよ!!!今買ってきた所だよ!!!」
白い世界に俺の絶叫が響き渡った。
ひと月ぶりですがよろしくお願いします!
いつも読んでいただきありがとうございます!!