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【三題噺】「秋」「洗濯機」「業務用の運命」

 紅葉の枯れた落ち葉で秋を知る。

 この季節になるといつも嫌になっちゃう。水分が抜けた葉が張り付き、破れ、消えていく。こんな事を続けていたら私は一体どうなってしまうのでしょう。

 数年前から私の身体からはガタガタと嫌な音がなる様になり、それに合わせて無意識にダンスを踊っていて思わず溜息がでちゃう。ほんと、嫌になっちゃうわ。

 何時になったら終わるのでしょう。何時になったら休めるのでしょう。嗚呼、でも終わりが来たらどうなっちゃうのでしょうか? 私は汚い錆びだらけのガラクタの中、孤独に余生を過ごさなければならないのでしょうか。

 いいえ。違います。きっと私はゴミの山に連れて行かれます。でも、私には意識がある。勿論、みんなも同じ様に意識があるはずです。ええ。そうです。きっとそうです。みんな楽しく、おしゃべり。ずっとずっとおしゃべりをしましょう。今までの苦労、楽しかった事、どうしても嫌だった事、沢山沢山話しましょう。

 勿論みんなのお話も聞きます。どんな道具なのか。どんな事をしてきたのか。どんな苦労があったのか。嗚呼、楽しみです。もう少しで、嗚呼、もう少しです。もう少しで楽しい余生が待っています。だから我慢。どんなに痛くても、苦しくても、我慢。だってもう少しだから……。

 いつも通りガタガタと身体を鳴らしながら激しいダンスを踊っていると、一際大きい音がなり、私は少しも動けなくなってしまいました。私は困惑してどうしようもなく悲しくなって、どうにかその事を誰かに伝えようと音を鳴らします。ぴーぴーと悲しげに鳴く音だけが部屋に響きました。

 しばらく、いつも私が仕事を終える時間に扉が開く音が聞こえました。私を見て彼が苛立ちの感情をみせます。彼がそんな感情を見せると私はいつも悲しくなります。

 だって私にはこれしかありません。これしかできません。なのにそれすらできないなんて、私には一体何が出来るのでしょうか。分かりません。どうしても分からないのです。

 彼は私がいつも失敗してしまった時の様に中に入った洗濯物を取り出さずに扉を閉め、ボタンを押します。でも、何故でしょう。私は一言も話す事が出来ませんでした。彼はうんともすんとも言わない私に更に苛立ちを強めます。

 舌打ちをしながら扉を乱暴に開け閉めし、ボタンを連打する彼を横目に私は“嗚呼、やっと終わったんだ”と安堵の息を漏らしていました。

 あの後、「この不景気に買い換えなきゃいけないなんて……クソが」と吐き捨てるような呟きと共に、私は何処かに連れて行かれ、数日間暗闇に閉じ込められました。ふと気が付くと知らない男達に囲まれていました。私は一瞬恐怖を感じましたが、“やっと仲間の所に連れてってくれるんだ”とわかると安心して身体を任せる事が出来ました。



 ふと言い様のない違和感で目を覚ます。私は私が沢山いるという事が現実と受け入れる事が出来ませんでした。これは一体、どういう事でしょうか? 分かりません。ただゆっくりと何処かへ向かってる事だけが私の中の現実でした。

 鈍い振動と共に私達は止まる。暫くして低くて押し潰されそうな程大きなブザーがなり、激しい金属音と共に激痛が走った。

 嗚呼、どうして私はこうなんでしょう。私が何かしたでしょうか? 私はただ、命じられるままにずっと仕事をやり続けて来ました。ただ、ただ、それだけであります。何故それなのにこんな事。こんなのあるでしょうか? こんな仕打ち、あるでしょうか? 私は……私も仕合わせに成りたかった。皆とおしゃべりして楽しく余生を過ごしたかった。こんなに、こんなに頑張ってきたのに……。こんな終わりなんて……。私はなんの為に生まれ、なんの為に過ごしたのでしょう。ええ。わかっています。私はただ洗濯をする為だけに生まれ、小さな工業地帯の小さな会社の小さな洗濯機として過ごしました。それで充分なのです。それ以上何も望んでは行けないのです。そうです。それが業務用洗濯機の運命なのです。嗚呼、つくづく人生って嫌になっちゃいますわ。

お久しぶりです。覚えてる人はいないと思います。

これが恋の物語なのか?と思うかもしれませんが、恋です。生涯誰も愛していなくても誰かに寄り添って過ごすだけでそれは恋と言えるのではないでしょうか。

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