イケナイコト
はあ、恋愛の話ですか。そうですねぇ、昔、ええもう十五年も前の事になりますか、私がまだ学生だった頃こんなことがありましたねぇ。
あれはそう、昼の暑さが残る夏の夜の事でした。あまりの暑さに耐えられなくて散歩でもしようかと玄関の扉を開けた時に、ふと、友達の事を思い出して、会いたくて仕方がなくなりました。ええ、何故でしょうね。そのときはそれが当たり前のように感じられたものです。あの時は携帯はあったはあったのですが、今と比べればまあ、酷い代物でして……。そんなことはどうでもいいですね。その酷い携帯を私は持っていなかったものですから、取り敢えずその友達の家まで行くことにしました。確か今も住んでる筈ですよ。ほら、あの酒屋の向かえ側の。ええ、最近壁を黄色く塗り替えたあそこです。今はどうか知らないのですが、あの時は友達の部屋が二階の手前側だったから部屋の様子が道路から丸見えなわけですよ。だからあの子の部屋の電気が付いているのが五十メートル先からでも分かりました。私は石を沢山拾ってから彼女の家に向かいました。石を拾うって作業があんなに楽しく感じたのはきっと石をぶつけて人を呼ぶなんてロマンチックなことに溺れていましたのでしょう。……まあ、青春でございます。知らない内にこれを下らないと思うようになってしまいました。年をとったって事でしょうね。ああ嫌なものです。あの頃の私は本当どうかしていました。大人というものが別の生き物で、永遠になることの無い存在だと本気で考えていました。本当に嫌なものです。
あの子が私のことに気が付いた後から話を続けましょう。あの子が私のことに気が付いた瞬間に笑顔になりました。私はその笑顔が大好きでした。私は『行こう』という感じのジェスチャーをしました。彼女は嬉しそうに頷きました。その場面だけは今でも絶対に忘れられません。それからですか? 誰もいない町を二人で手を繋ぎながら歩いたり、大通りに寝転がってふざけあったり、公園のベンチで恋人ごっこをしたりしました。私が恋愛の話としてこれを話しているということは、まあ、察しのいいあなたならもう分かっていると思いますが、私は彼女に恋をしていました。いえ、大人を知らない私は、友情を、ただのごっこ遊びを本気にしてしまっていたのです。
それからは悲惨でした。その事についてはまだ私の方で折り合いが付いていないので、また今度、機会があれば話すことにしましょう。ええ、申し訳ございません。もう十五年も経っているのにまだこんな詰まらないことで悩んでいるなんて本当に嫌になっちゃいますよ。
え? 結婚はしているのかって? ああ嫌になりますねぇ。