嘘告
好きです。そんな言葉が私の鼓膜を揺らしました。それは目の前にいる、さも意地悪そうな細い目をした少女から聞こえてきたものです。私はため息を一つ、勘弁してくれと乾いた笑い声を上げました。
「毎日毎日よくもまあ、飽きずにこんな事ができるね」
「あら、まだ嘘とは言ってないのだけれど」
最近、この学校の少女達の中では『嘘告』というものが流行っているようです。私自身は下らないと思っているのですが、見ている方からすると思いの外面白いらしく、嫌われものの私は毎日お昼休みになると廊下に呼び出されて色々な愛の言葉を囁かれるのです。ああ、下らない。下らないと思いつつもこのまま少女達の玩具にされるのも浅ましいと思いふと、一歩だけ少女に近づきました。
「けどまあ、こうも毎日愛を語られると、嘘と分かっていても実は本当に好きなのかもしれないって勘違いしそうになるよね」
「はあ?」
少女はその細い目をキリリと尖らせ、私に先端を向けてきました。しかし私はそんなものとできるだけ明るい笑い声をあげて吹き飛ばす。
「あはは、照れてるの? 可愛いね、キスしようか」
「や、いらない、だからその気持ち悪い身体を近付けてこないで」
少しずつ近付いてくる私に少女はいつものような煽り文句で拒絶してきます。でも、後ろは壁。絶対に逃げられない。私は笑みを深めながら少しずつ、少しずつすり寄っていく。
私は少女の姿を初めてきちんと眺めてみました。スッとシャープな顔立ちにも関わらず、頬はふっくら餅のようで美しい。一つ結びにしている髪がまたその美しさを何倍にも増長させているように感じられます。制服から伸びる白い指はすらりと細く、少女が女であり、異性であるということを無理矢理に思い起こされてしまいました。
「よくみたらタイプかも、こんな可愛い彼女だったら僕は大歓迎だね」
嘘に決まってるでしょ、気持ち悪い。そんなことを言われながら、思いっきり私は突き飛ばされてしまいました。きっと後であの少女達が集まってキャーキャーこの事について騒ぐのでしょう。
でも、これで私は満足です。だってあの意地悪な少女達から玩具にされることはもう無いでしょうから。きっと。