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第07話 知られた過去から告白へ

 ナラクは一気に体が冷えるのを感じていた。


 「――どうして……どうして俺が奴隷だった事を知ってるんだ。まだ話してはいない筈だ」


 真祖であるルヴィアには吸血する事で普通の吸血鬼以上に様々な情報を読み取る事が出来、その一つとして血を吸えば吸うほど相手の過去を断片的にだが覗き見る事が出来るのである。


 その事をナラクに説明すると、


 「――そっか…失望した…よな。あんな人間共にいいように利用されて…。逃げ続けたあげく誰も救えず、幼馴染さえ守れずッ、誰かを食べてまでッ意地汚く生にしがみついて!」


 ナラクは自身の弱さを語る。


 「相手の尊厳も何も考えていなかった!……ただ作業するみたいに…淡々とその殺した奴を口にして、胃袋に詰め込んでいたんだ。ホントクソ野郎だよ。…それで…最後も負けて…結局また逃げて…」


 ナラクは自嘲気味にルヴィアに告白していた。

 自分を激しく罵倒し、自分自身に失望していた。


 ――ほんと…カッコ悪いよな


 ナラクの言葉を聞くルヴィアは自身の手を強く握りしめ、肩を震わせていた。

 同情しているのではない。ただ…怒っているれのだ。

 ルヴィアはナラクの頬を思いっきり両手で挟み込み、再びキスしそうなぐらいまで顔を近づける。


 「私…言いましたよねナルク。私は貴方が鬼だというその程度の事で恐れはしないと。真祖をあまり舐めないで下さい。例え貴方がどれだけ人を食べていても、相手の尊厳も何もかも全て飲み込んでいても。私は貴方を軽蔑も恐れもしはしない」

 ルヴィアは真っ直ぐナラクを見据える。


 「けど、俺は奴隷で…ずっと逃げる事しか出来なくて」

 ナラクはルヴィアの真っ直ぐな目を見る事が出来ない。


 「奴隷が何だというのですか。幼馴染の子を助けたかったのでしょう?奴隷でもナラクは頑張っていたではないですか。断片的でしかありませんでしたが、私はナラクが頑張っている事を知っていますよ」

 頬を挟む手を緩め、優しく撫でる。


「けど…、俺は弱くて、今も…ずっと、弱いままで…」


 ナラクにルヴィアの声は届かない。

 ナラクは目をそらし続けていた。


 ナラクは自身が弱い事を知っている。

 誰も救う事が出来なかった自分を知っている。

 負け続け、地面に這いつくばる自分を相手の目を通じて何度も見てきた。


 奴隷となり牢屋に入れられ、最初は嫌で嫌で仕方なかった人の肉も、幼馴染を助けるためだと自分に言い聞かせ、我慢して、無理にでも食べ続けた。食べる度に拒否反応を起こし吐いていた。

 しかし、食べては吐くを繰り返していくうちにいつの間にか体が求めている事を知ってしまった。


 幼馴染のためなんだという思いは既に消え去り、ただ欲望のままに獣のように食べていた。

 食べ終わる度にナラクは涙を流さず心で泣いていた。

 禁忌を犯さず鬼としての誇りを貫いて死んでいった同胞達と家族に申し訳がなかった。


 「ナラク、貴方は私が貴方の記憶を見て、軽蔑や失望をしていると思っているのかも知れませんが、私はむしろ…貴方の記憶を見る事が出来て……嬉しかったんですよ?だって、好きな人の…初めて恋をした男の子の記憶なんですから。むしろ増々好きになりました」

 

 「…どうして?」

 信じられないと、ナラクは思わずルヴィアと目を合わせ言葉を零していた。


 「どれだけ弱くても、みっともないと思っていても、貴方は戦い続けていたではないですか!」

 「――ッ!?」


 「父と母に自分は大丈夫だと明るく気丈に振る舞い、父が殺され悲しむ母を前にしても一度も涙を見せずに笑顔で支え、共に逃げた鬼達と別れてしまい、幼馴染と2人だけになり明日をも分からない状況でも、貴方は決して弱音を吐かず、彼女が笑顔でいられるよう笑わせ続けていたではありませんか。奴隷になっても彼女のために鬼の禁忌を犯し、その身を汚してでも貴方は戦い続けていたではありませんか。私が見た記憶には…貴方が弱かった所も、逃げていた所も…一度たりとてありはしませんでしたよ」


 ルヴィアは頬から手を離し、ナラクの頭を引き寄せて、その柔らかい胸に包みこんだ。

 

 「いつだって誰かを想って戦い続けているナラクが弱い筈がありまん。貴方はとても強く、とても優しい男の子です」


 「私は今目の前にいるナラクを愛していますよ」・


 ルヴィアの胸に一粒の滴が流れる。

 「う゛ッう゛ッふぐぅ…あッあッあ゛―――――ッ」

 

 長年我慢してた涙が積を切ったかのように溢れだし、ナラクの鳴き声が静かに森に響き渡った。



 「さてさてナラク?」

 少し前まで優しい声音だったルヴィアは、今ではとても楽しそうであった。

 「答えを聞かせては頂けませんか?」

 ナラクが泣き止み落ちついたのを見計らって、ルヴィアは声をかける。


 すっかり泣き止んだナラクは、晴れ晴れとした顔をしていたが、先ほどまでの事がまだ頭から離れず、顔を膝に埋め目線だけをルヴィアに向けていた。

 「――答えって何のだ…?」

 「き、決まってるじゃないですかっ!告白の…返事ですよ…」

 「う゛ッ、」

 「何か言ってくれませんか。一応…初めての告白なんですから」


 ナラクは恥ずかしがっているがルヴィアに本当に感謝していた。心の奥底に溜まり続けていた黒い何かがなくなった気がした。


 「あ゛っあ―、え―と…俺もお前が好きだよ。……好きっていうか一目惚れだ」


 「んっ何ですか?よく聞こえません。もう一回言って下さい!!」

 ルヴィアが楽しそうにニマニマしながら聞き返す。


 ナラクは右手でルヴィアの手を掴み引き寄せる。

 

 「くっ!だから俺も!お前が好きだっ!って言ってるんだよ!俺はお前の全部が欲しい!!禁忌なんて関係なくただお前の全部を喰って、俺の血肉にしたいッ!!」


 もうナラクはヤケクソだった。だが、その想いは本物だった。もう恥も外聞もない。全てを知られ晒した相手だからこ、そカッコつけた言い回しも言い訳じみた誤魔化しもせず、自身の心を言葉にして叫んでいた。


 ルヴィアは心底楽しそうに、嬉しそうに、それでいて恥ずかしうに笑う。

 「ふふふ随分猟奇的な告白ですね。まだ食べ足りないんですか?けど…奇遇ですね。私も貴方の血をもっと飲みたい。この身の隅々まで貴方の血で満たしたい」


 万人が理解できそうもない二人だけの告白。


 けどそれはもしかしたら、

 

 ――この世で最も恐ろしくとも美しい究極の愛のカタチであるのかもしれない。




 「けど一目惚れですか~そうですか~。一目惚れですか~。さすが私の美貌の前ではどんなと男性もイチコロですね」

 「さっきから一目惚れ一目惚れうるせぇよ」


 ルヴィアは自身の容姿が他の者より優れているのを自覚していた。

 求愛を受けたことも数えきれない程あり、色んな愛の言葉を聞かされた。

 

 しかし、幾百幾千の言葉全てより、ナラクの言葉の方が嬉しかった。

 

 あんなにこれまで不愉快であった…他人が自身を見る欲に塗れた視線を、誰かにもっと見せて欲しいと思う時が来るとは、ルヴィアは信じられなかった。


 「知ってますかナラク?恋愛は先に惚れた方が負けなんですよ。本で読んだことがあります。告白したのは私が先でも、先に惚れたのはナラクの方が先。つまりっ!一目惚れしたというナラクは私に負けたという事です!!」

「くそ…一目惚れなんて言うんじゃなかった。色々と初めての事で理性が働かねぇ」

「そうですよ。これから貴方の初めては全部!恋人である私のモノなんですから!」


 ルヴィアはナラクの鼻にチョコンと指を突きつけ、


 「他の誰にも渡しませんから覚悟して下さいね」


 宣言す…ガシッ!!

 

 「――ッ!?えっ!?」

 

 ナラクがルヴィアを両手で突如抱きしめ、形の好い耳から脳に刻み込ませるように囁く。


 ――理性が働かないなら働かないでどうでもいい。

 ――どうせこの先恥ずかしくて言いたい事も言えなくなるんだろうし。

 ――なら……今感じた事を全部伝えよう。


 ――それに―――鬼としてやられっぱなしは気に喰わない。

 

 「そっちこそ覚悟しろ。鬼の強欲さを甘く見るなよ。例えお前が逃げだそうとしても、噛みついて歯が折れようが砕けようとも絶対離さねぇからな」


 「………」


 追い打ちであった。

 もともとさっきのナラクの言葉で沸騰しそうだった頭がもはや完全に沸騰し、蕩けてしまった。


 カジッ

 

 「ひゃッ!?」


 ナラクがルヴィアの耳に軽く牙を立てていた。

 

 チクッ!とした軽い痛みと共に血が一滴零れ、ナラクが舌でキャッチしそれを飲み込んだ。

 この痛みと共にこの言葉を決して忘れるなと言っているかのようだった。

 

 「分かったか?」

 「はっ、ひゃい…。分かりました」


 もはやどっちが勝って、どっちが負けたのか分からなかった。


やばい。ストックがもうなくなってきた。毎日更新してる人ほんと凄い。

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