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第01話 邂逅する

閲覧ありがとうございます。初めてなので拙い文章だと思いますがよろしくお願いします。

出来れば10話か5話あたりまでは読んでいただければなと思います。

 「逃げたぞ追えッ!!」


 多くの兵士が武器を持ち走っていた。

 彼らの武器の殆どは既に血が付着し、使ったばかりなのか血が固まらず地面に流れ落ちていた。


 誰か追いかけているようだ。


 ここはもう町の外であり、彼らは自分たちの暮らす町で起きた殺人事件の容疑者を追っていた。

 いや、容疑者ではない。


 正真正銘犯人であるのだから。


 「いや待てッ!!もう夜だ。トゥーレの森の方に逃げたこんだようだし、どうせ魔物に襲われるさ」

 「そうだな。それにあれだけ傷を負わせたんだ。もしかしたら魔物に出会う前に死んでるかもしれん」

 「首輪も確かに作動しているのを侍女が確認しているしな」

 「よくもまぁ猛毒をくらって動けるもんだ」


 兵士達は夜に森に入るリスクと、犯人の状態から追うのを止め村へと引き返す。


 「しかし、大変な事になったな」

 「ああ全くだ。この町の領主が――まさか奴隷に殺されるなんて」




 まだ20にも満たないだろう1人の青年が、日が沈み暗くなった森の中を、足を引きずるようにして進んでいた。


 「はぁはぁ…。8年か…長いようで…、あっという間だったな。はは…、結局何も…救えなかったな。ハァ、しかし今日は…やけに月が明るいな」


 上を見上げれば、樹々の葉が幾層も積み重なりながらも、わずかな葉の隙間を縫って、光の雨を落としている。

 普段なら月の光程度じゃ足元も覚束ない時間帯だが、今日はこの深く昏い森のどこかで舞台でもやっているのではないかと疑う程明るく、いくつものスポットライトで役者を照らすような強烈な月光であった。


 樹は、花は、草は、この森に根付く全ての生き物は知っていた。

 彼らは今か今かと待ち侘びている。

 もうすぐ役者が揃い始まる――舞台の開演を。


 「死ぬのには、夜なのに明る…、くて似つかわしくないが…、はぁ…こう明るいと、森の中がよく見える。あいつと暮らした、…1年間が、はぁ…ハァ、もう8年前だというのに鮮明に思い出すな」


 青年の身長は183cm程で褐色の浅黒い肌をしていた。

 目つきは少し吊り上っているが逆にクールで物静かな印象を与え、黄金にも見える黄色い瞳が今はくすんでいた。顔は小顔で全くむくんでおらずシュッとしており、鼻は高く唇は薄いためイケメンと言って差し支えない容姿をしている。

 目に少しかかる髪は炎のように赤く、見るからに適当に切っているのがうかがえる程毛先はバラバラだが、肌の色と相まって野性味を感じさせている。

 体は毎日力仕事をしている力自慢の大人と比べると細見だが見事に引き締まり、動きを邪魔せず速さを損なわない理想的な筋肉をしている。


 その体に今――いくつもの傷がついていようと。


 「ハァ、しかし不思議だ。こんな…、苦しいのに何故か、はぁ…、足が止まらない」


 青年は止まらない。

 例えその身に生きているのが不思議な程の怪我を負い、血の足跡をつくっていようと。


 青年は知らない。

 自分がキャストの1人である事を。


 青年は知る事になる。

 愛という感情と、その愛故に自身の中で生まれる新たな情動を。


 青年は死を前にして足を動かし続ける。




 周囲は方向感覚を惑わせるように樹が生え、青年は膝の当たりまで伸びたお生い茂った草を掻き分け進んでいる。


 舞台までもうすぐだった。


 いつの間にか草は足首あたりまでしかなく、樹は青年を導くように1本道をつくって並んでいた。


 どれ程歩いただろうか。

 どれ程血を流しただろうか。


 本来森のような場所には魔物が潜み、血の臭いにつられ現れるはずが、不思議と一度も会うことはなかった。


 

 そしてついに導かれたように並んでいた樹の一本道を抜け、青年が舞台へと躍り出る。


 そこには一本の樹を中心とした、その樹を除いて何もない半径50M程の広い空間が存在していた。


 この森は他の場所と比べて驚く程空気が澄み渡っており、この空間はそれが顕著に出ていた。9年前からそうであったがこの森は青年の荒ぶった心を落ち着かせた。


 森の外側からも見る事が出来る中心の樹は、とても大きく、樹齢は想像がつかない程荘厳であった。太さは一周するのに大人が手を繋いで10人は必要な程太い。


 この樹に触れるだけで手の平から森の歴史が伝わってくるようで、言葉では言い表せない何か神聖なものを感じさせる木であった。

 

 

 「懐かしいなこの樹…よくアイツと木登りしたっけ。もうどこを歩いてるのかも、はぁ…分からなかったが、何かがここに俺を、導いていて、ハァー、くれてたのかもな。決して自身のつ……忘れないように…って、んっ?樹の下に、…誰かいる…?」

 


 青年が目を向けた所には――1人の女性が樹を背にして座っていた。


 

 女性の顔が横を向き、青年に声をかける。

 「無粋なお客さんですね。ようやく眠りにつけると思っていましたの…に…」

 

 こんな夜遅くに女性が1人で森にいるのを疑問に持つべきだろう。

 しかし、青年はその事を考えられない程、その女性に目を奪われていた。


 何故なら……その女性があまりにも美しかったからだ。


 歴史に名を残す、あるいは残したあらゆる芸術家たちが協力しても、造り上げる事は不可能だと思う程に、その女性は美しかった。


 肌は雪のように白い。

 腰の近くまで流れる白に近い銀色の長い髪は、月明かりに反射し宝石のように輝いている。

 見ているだけでしゃぶりつきたくなる薄くも柔らかさを感じさせる瑞々しい唇。瞳はくり抜いて飾りたい程美しく鮮血に輝いている。

 背の高さは165cm程だろうか、座っていてもスタイルの良さが分かり、胸は大きく、腰はくびれ、お尻は程良く膨らみ、長く白い足を伸ばしていた。


 その体を白くて薄いワンピース型のシンプルなドレスが隠し、丈は膝上で、胸は谷間が少し見え、袖がないため惜しげもなく腋を晒している。背中と胸を左右それぞれ黒い紐が繋ぎ、紐の真ん中の肩に当たる所に決して枯れる事のない赤い小さな薔薇が咲いている。


 頭の上から爪の先までの構成する全てが、世の男性の欲望を酷く掻き立てる。

 

 全ての美が――そこに集約されていた。


 

 例え彼女のお腹に、長く太い……大きな一振りの剣が刺さり血に塗れていようとも。



 さぁ、役者は揃い、舞台は整った。




 

 傷だらけの青年とお腹に大きな剣を刺す信じられない程美しい血塗れた女性が邂逅し、今――幕を開けた。


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