いつもの日常
ある日俺は…不思議な力を手に入れた
俺の名前は、春崎 隼斗
4月に入り、高校を無事卒業した俺は今日から大学生になる。
新しい学校での出会いに胸を踊らせながら、身支度をしていると
トントン
ドアをノックする音が聞こえ、暫くしてドアが開く。
そこには妹の紫苑が立っていた。
手に持ったスケッチブックには、「ご飯できたよ」と書いてある
「わかった、今から行くよ。ありがとな、教えてくれて」
そう言うと、紫苑は嬉しそうに笑い部屋を後にする。
紫苑は幼い頃交通事故に合い、後遺症で言語障害を患ってしまった。
今では元気に過ごしている。
リビングに行くと、親父が朝ごはんを作って待っていた。俺の母親は妹との交通事故の際、妹を庇うようにして亡くなっている。
「お、やっと起きたか!ほら、早く飯食って行ってこい。今日は入学式だろ?遅刻は良くないぞ〜w」
「わ、わかってるよ!ちゃんと食うし、学校にも早めに着くようにするよ。」
紫苑は紙に「ファイト!」と書いて応援してくれている。
「それじゃ、そろそろ行ってくるよ!」
「あぁ、行ってこい。遅くならないうちに帰るんだぞ〜」
「わかってるよ!!!」
そう言って家を出る。
家を出てから暫くして、見慣れた公園をショートカットをする為中に入る。すると、ふと違和感を覚える。
普段なら多少賑やかな公園に人が1人も居ないのだ。不気味がりながらも、進んでいると。公園の端に人が倒れているのが見える。
隼斗は急いで倒れている人に近づく。
息はしているようだが、体をよく見てみると、所々衣服が破けて切り傷からは血が馴染み出ている。
体格的には30代、がたいはよくバックを大事そうに持っている。
「おい、大丈夫か!?」
「これを……持って行ってくれ…決して、取られてはならない……ぞ」
バッグを差し出して、そう言うと、力が抜けたかのように倒れる
「一体誰から取られるんだよ……ってやべ!もうこんな時間かよ!!」
急ぎ足でその公園を後にする……
学校に着いて、先ほどの公園での出来事が気になりながらも、無事入学式が終わる。
安心して胸をホッと撫で下ろしていると…
ドゴーーーーーーン
と、校門の方で大きな爆発音の様なものがした……
爆発音がした後、しばらくして校内放送が流れる。
「ただいま、不審者が校門から侵入中。生徒の皆様は、クラス内で待機していて下さい。繰り返します……」
この放送を聞いたクラスの皆は、窓から校門を見る。
学校の構造上、クラスの窓から校門が見えるようになっている。
そこに立っていたのは、二本足で立ち体長は恐らく3mを超えている。体は何故か炎で包まれている。
「なんだあいつ…」「ちょっと、やばくない?」
クラス内がざわつき始める。誰だってあんなのを見れば正気では居られなくなるだろう。
俺も気になったので、外を覗いてみる。確かにあんなのが居ればみんなざわつくだろうと思い、目線を逸らそうとしたその時、一瞬ヤツと目が合ったような気がした。
次の瞬間……ヤツは雄叫びを上げ始めた。その雄叫びは空気が震えるくらいのものだった。
「な、なんだ!?」
ヤツはどんどんこちらに近づいてくる。確実に俺のいる教室に向かって。
なんでヤツがこっちに向かっているのか、考えていると1つのモノを思い出す。今日の朝、彼から貰ったバッグだ。恐らくこれを取りに来たのだろう。
一体中には何が入っているんだ。教室を出てトイレに向かい、バッグの中を開けてみる。
するとそこには………
黒いベルトが入っていた
「なんだ…これ……?」
隼斗がバッグから見つけたものは、何かの口の形をし、牙が並んでいるベルトにガラスの破片の様なものが2つ。
ガラスの中にはオオカミのようなイラストが1つと、もう片方には何も描かれていない。
グウォォォォォォォ!!!!!
外からヤツの声が聞こえる、それももう近いであろう。
とりあえず、狭いところは不利になると考えた俺は校庭まで出ることにした。
「ここまで来れば、少しは安全だろう」
校庭の半ばまで来ると、ヤツも俺を目指して着いてくる。
やはり狙いは俺らしい…さて、どうするか。恐らくヤツに言葉は通じないだろうし、殴ろうにも炎の体だし。
「これを使うしかないのか……?あーーー!もう!こうなったら腹をくくってやってやるよ!!」
そう言ってベルトを腰に付ける。…すると、凄まじい程の激痛が身体中を走る。
「ああああああああああああ!!!!!ッ!!」
あまりの激痛に膝を着いてしまう。
そんな状態なのを気にせず、ヤツは着々と近づいてくる。
「こんなの…キツすぎる…だろ……」
肩で息をして、意識が朦朧としてきている中、段々と痛みが和らいでいく。
そして、ベルトからカチッっという音と共に腰にぴったりハマるのが感覚で分かる。
「もう、、大丈夫そうか…?」
ベルトを見ると、口のようなものが開いていて、中にはガラスが丁度ハマりそうな窪みがある。
「これを入れろってか……?」
透明なガラスを窪みにはめて、口を閉じさせる。すると、ベルトから無数のガラスの破片が飛び出して、俺の体の周りを回っている。
だが、回っているだけで何もならない。
(あれ?こういうのって変身的な感じのじゃないの?)
どうしたらいいか分からずベルトをガチャガチャ揺らしてみると、ベルトの口の部分が半回転し再び口が開く。
それと同時に、頭上の空間に大きな口のようなモノが現れる。
(まさかとは思うが……喰われないとダメな感じか…?………仕方ないか)
再びベルトの口を閉じると。上からその口が俺のことを覆うように降ってきて辺りが闇に包まれる。そして、周りに漂っていたガラスの破片が体にくっつき、鎧のようになる。
闇が晴れ、再び俺の前にヤツが現れる。
ヤツは驚いているようで、俺の姿を見るや否や炎の玉を飛ばしてくる。
俺は反射的に、それをガードする。
不思議と熱さはあまり感じられなかった。この鎧のおかげか?
「……これなら、いける!!!」
炎の玉を受けてなお立っている俺を見てヤツは驚いた素振りを見せた。
「これならアイツを殴ても平気そうだな!」
そう思った俺は勢い良くヤツの方へ走り出す。
ヤツは驚きのあまり体制を崩す。
「しめた!これなら、外さない!!!」
体制を崩したヤツの顔を的確に捉え、力の限りぶん殴る。
すると、ヤツは数十メートル後ろへ吹き飛び、壁に直撃する。
「やったか…?」
ヤツへの攻撃が効いているのかは分からないが、遠目でもふらついているという事がわかる。
「よし、このまま押し切ればいける!!」
そう思い、ヤツの方へ走り出した瞬間
ヤツの体と身に纏ってる炎が赤黒く変色する
数メートル離れてる所からでも感じられるほどの熱を帯びているのが分かる。
「色が変わったところで!!!」
そう言いつつ殴り掛かる。……だが、ヤツはピクリとも動かない。
ヤツは余裕の表情を浮かべてから、俺の首を掴み持ち上げる。
「くっ……!!」
喉元が焼けるように熱い。この熱さから隼斗は死を連想してしまった。このままだと死ぬ、どうにかして脱出しなければ。
そう思えば思うほど息を無造作に吸い、その度焼けるような熱さが喉を襲う。
息を吸えない苦しさと、熱さで俺は意識を失う。
その時、聞いたことも無いような声が聞こえた。
「このような所で死なれては困る。我が力を貸してやろう。」
「お前は誰だ!どこにいる!!!」
意識の中でそう言い放つと、帰ってきた答えは…
「我か?我は破滅の……いや、それは後でいい。とりあえず、このままではお前は死ぬ。だから、この体を少しばかり借りるぞ」
は?借りる?そんな事を思っていると、俺は目を覚ます。
目を覚ました先に広がっていた光景は、傷を負っているヤツと…四足歩行になっている俺だった。
どういう事だ?なんで四足歩行なんだ?でも、何故か違和感がない。口元には何かを咥えている感覚が……
口元を見てみると、そこには刀が咥えられていた
「どういう事だ!?」
「だから、体を借りると言っただろう。この姿はウルフモード。貴様も見たであろう、もう一つのクリスタルを」
「もう一つのクリスタル……?」
思い返すと、透明なモノとは別にもう一つのあった事を思い出す。
「アレの力なのか?」
「そうだ、このベルトは動物の力を取り込む事で、その生き物と同等、それ以上の性能を引き出す事が出来る。」
だから四足歩行なのか。
そんな事を思っていると、足元が赤く熱を帯びている。
「まずい!!」
咄嗟に飛び退く。すると、さっき居た場所には火の柱が立っている。
ヤツの方を見ると、手を地面に突き刺しているのがわかる。
「そうだ!アイツなんなんだよ!お前知らないか?」
「あ?アイツはフレイムオーガという雑魚だ。こんなに苦戦しているのは初めてだがな」
「雑魚?アレがか?炎の玉は出すし。地面から火の柱を出すし。雑魚とは思えない性能なのだが」
ヤツは無造作に火の柱を出している。
「これじゃ、近ずけねーよ…」
「次で決める…!」
すると、火の柱の間をすり抜けるように駆け出す。
ヤツは殺気に気がついたのか、炎の壁を作り上げる。
そんな事はお構い無しに、俺の体は刀を突き刺す。何かに刺さる手応えを感じたあと、後ろに飛び退く。
「フル……バースト!!!」
口が開くと、そこからビームが発射され、炎の壁を貫通しヤツをも、撃ち抜く。
「なんじゃそりゃ!」
俺は体制を保つので精いっぱいだった。
撃ち終わり、ヤツの姿が見えると。その場にヤツは倒れ、動く事は無かった。
「やった……のか?」
「あぁ、ようやく倒せた。時間がかかり過ぎたな、我は眠りにつく。あとは任せた。」
「任せたって!ちょっ!!!」
俺は疲労と、痛みでその場に倒れる。
人の声が駆け寄って来るのが分かるが、それから俺は意識を失った。
次に目が覚めたのは、夕方の17時。
そこには、クラスメイトや学校の先生方、それに親父と妹まで居た。
ここはどこか尋ねると、大学の医務室らしい。俺はあの戦闘のあと、倒れてしまい。今まで起きなかったらしい。
自分で体を動かそうとすると激痛が走り、起き上がることすら出来ない。親父におぶられ、ようやく俺は家に帰ることが出来た。
家に着いた俺はベッドに横になると、すぐに眠りについてしまった。無理もないだろう、あんな無茶をしたのだから。
その時俺は不思議な夢を見た。
いや、それが果たして夢だったのか、俺の意識の中なのかは分からないが俺は1つの何かと会話をした。
「全く、情けない。あんなのに苦戦を強いられる事になるとはな」
「し、仕方ないだろ!!あんな変なやつ見たこともないし…」
そう言うと何かは笑った。
「ハッハッハ!今回は上手くいってよかったが、次からはこうは行かないだろう。」
「次?次ってまさか、あんなのがまた襲ってくるって言うのかよ!冗談じゃねーよ。」
「まあ、今日の所は休むがいい。」
「ってか!このベルトなんだよ!お前誰だよ!目的は何なんだ!?」
さすがの俺もパニックになり、強気で言ってしまった。すると…
「そうだな、お主には教えても良いだろう。まずは、ベルトについて教えよう。まず、ベルトは本来二種類つがいである。いや、あったと言うべきか。こちらの世界へ来る時に1つ敵に取られてしまってな。いまお前のつけているベルトの別名は、破滅を呼ぶ鎧。」
「破滅を…呼ぶ……。」
そんな事を言われても全く想像が付かなかった。
「もう一つあったと言ったな。そっちの別名は創造の鎧。俺とそいつは元々つがいで造られたんだ、そしてこの世界が実験台の対象となった。だが、持ち運んだやつが間違えだった。奴はなんどかこちらの世界へ来ていてな、こっちの世界を守ろうとしていた。だが、その事が連中に察されてしまってな、追われてる途中でもう一つの方を落としてしまったという訳だ。分かったか?それから…」
続きを話そうとしたところで、俺は目が覚める。
時間を見ると夜の21時。俺の横では妹が寝ていた、恐らく看病してくれていたのだろう。
「全く…おーい、起きろー」
そう言って体を揺すると、目を覚ます。
紫苑は目を覚ますと、寝惚けた顔で俺を見ると顔を赤らめ、布団で顔を隠す。
「看病してくれてありがとな。」
そう言って紫苑の頭を撫でると、とても嬉しそうな笑みを浮かべる。
「さて、飯でも食べるかな。親父は?」
紫苑はスケッチブックに「今は居ない。けど、ご飯は作ってあるから温めて食べてねって言ってた」と書いている。
「今日も仕事か?まあいいや、久しぶりに二人で食べようか」
紫苑は嬉しそうに頷く。
明日になれば、また日常生活が待っていると期待し、俺は1日を終える。
次の日の朝、俺はいつも通り目を覚ました…
目を覚ましたのだが……体が動かない。動かないと言うのも金縛り等ではない、筋肉痛だ。
昨日あれだけ動いたのだから無理もないだろう。しかし、いきなり遅刻というのも嫌だ……。
自分の体にムチを打つように気合を入れ、起き上がる。
「いててててて…」
体を動かすのもやっとだ。ドアを開けると妹が心配そうに見ている。紙には「大丈夫?」と書かれている
「あはは、大丈夫だよ。このくらい!っっ!!!」
「おーおー隼斗。大丈夫か?学校休むか?」
親父が聞いてくる。
「いや、大丈夫だ。問題なく行くぞ俺は…」
「まったく情けない…これだからヒトの体は」
「なんだと!痛ってーーー!」
「お前、誰と話してるんだ?」
「誰って。(まさか、こいつの声が聞こえてないのか?)」
親父と妹の方を見ると呆然としている。
「隼斗……。お前ももうそんな年齢なんだな……」
え?ちょっと待てよ。まさかとは思うが、俺以外には聞こえないのか?んでもって、この反応からすると俺は厨二病扱いか???
そんな事を考えていると
「そういえば隼斗、時間大丈夫か?」
「時間?……やべっ!!!」
時間を見ると遅刻ギリギリの時刻である。隼斗は出来るだけ早く準備をし、家を出る。
それから結局玄関で動けなくなってしまい、親父に車で学校まで連れて行ってもらった。
しかし、学校の門は閉まっていた。
無理もない、昨日あれだけの事があって逆に来るやつの方が頭がおかしい。
「なあ親父……学校からなにか連絡とかあったか?」
「あー、そういえば今日は休校って話しがあったような無かったような〜」
親父の方を向くと、下手くそな口笛を吹きながらそっぽを向いている。
「まあいいや、とりあえず帰ろうぜ」
「…………」
返事がない、おかしいと思い車から降りる。
「気をつけろ坊主、誰かが結界を張っている。」
「結界?そんなゲームやアニメじゃあるまいし、そんなのがある訳……」
そこまで思ったが、現に俺は変身してるしなんか分からないやつとも話してる。結界の1つや2つ信じられなくもない。
そんな事を考えていると、目の前にローブを着た人が立っている。
「……っ!?」
急な出来事に俺は咄嗟に反応することが出来なかった。
すると、ローブを着た人物は俺の顔を覗き込むや否やこう言い出した。
「いやーー、ごめんごめん。怖がらせる気は無かったんだ♪ただの挨拶さ。それにしても、君がね~、うんうん。まあ、こうなってしまった以上は頑張ってくれたまえ。それじゃ!」
淡々と喋るだけ喋った後、ローブを着た人物は消え去ってしまう。
「おい、お前…アイツのこと何か知ってるか?」
「いや、顔が見えなきゃ誰かなんてわからない。ただ、恐らくこちら側の者だろう。」
そんなことを話していると、
「おーい!隼斗!そんなとこでなにやってんだーー!置いてくぞ!!!」
親父が車から顔を出してこっちへ手を振っている。
「あ、待ってくれよー!」
重い体を動かし俺は車へと乗り込む。
あの男は何だったのか。正体は何者なのか。そんな疑問を抱きながら、俺らはその場を後にした。
その晩、俺はニュースを目にした。
駅地下で猟奇的殺人が増えているようで、主にホームレス等が狙われている。といったニュースだ。
狙われている駅は学校の近く、それももう古くなって誰も使わなくなったような駅だ。そこにはよくホームレスがたむろしてるという噂は確かにあったが、殺人が起きたなんて事は今までに1度も聞いたことは無い。
「おい坊主、明日あそこに行くぞ。」
「はぁ!?行くわけねーだろ!そんな場所!!」
そんな事をリビングでごちゃごちゃ言っていると、妹の紫苑が怯えながらこっちを見ている。
「あ、紫苑!これは、その……」
「お兄ちゃん、疲れてるの?」と紙に書いて首を傾げている。
「あ、あぁ、ちょっとな…」
すると紫苑は俺の横に正座で座り、膝を叩いている。
「膝枕……してくれるのか?」
紫苑は「これくらいしか出来ないから。」と紙に書き俯いている。
「じゃ、お言葉に甘えようかな。」
そう言って、紫苑の膝に頭を寝かせる。
すると紫苑は優しく頭を撫でてくれた、小さい頃母親にされた様な感覚が戻ってくる。
こういう所は母親に似てるんだな、と思いつつ俺はそのまま眠ってしまった。