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異世界釣り暮らし  作者: 三上康明


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67 おれ知ってる。それ特定外来生物ってやつ。

 翌日、イオという集落へとやってきた。街、と言うには戸数が少なすぎるかな。お店とかなーんもないし。

 ただちょっと面白い場所ではあったんだ。

 ここ、イオ川という大きな川が近くを流れているんだけど、そこから水を引いてため池を作っている。

 魚の養殖をやってるんだ。


「へえ、ニジマスですか」

「そうだよ」


 海釣りに関係なくね、だって? そんなことはわかっている。だけど魚関係の施設はすべて気になってしまうのだよ……!

 おれの目の前にはひろびろとしたため池——ていうかため池と言っていいのか怪しいほどの湖がある。

 陣笠みたいな編み笠をかぶったピンク色の髪のオッサンがおれの話し相手だ。

 オッサンが水辺に現れると、わらわらわらとニジマスがやってくる。サイズは小さめ。エサをばらまくと水面が波立ってニジマスたちがエサにがっつく。


「このあたりじゃあ、マスの養殖が盛んなんだ。まあ、海の魚ほど高くはないが、代用品として売れる」

「食用なんすね」

「モチのロンよ」


 ん……でもニジマスってアメリカから持ち込まれた種じゃなかったっけ?

 この辺りの魚が、アオギスもいたし、完全に日本近海の魚ばっかりだったから気にしなかったけど外来種もいるのかな。

 ま、いいか。本題に移ろう。


「ちょっと聞きたいんですけど、海のほうの釣りに詳しい人はいないかな?」


 いつまでもニジマスの養殖の話ばっかりじゃしょうがない。

 ちゃ、ちゃんと最初から情報収集する気だったんだからね!


「ああ、それならあそこにいる婆さんが——あれ? ありゃぁ、なにやってんだら」


 オッサンが指したほうにはもうひとつのため池があった。そちらは「ため池」と呼んで差し支えないほどの大きさ。半径50メートル程度のいびつな円だ。

 そのほとりには頭に編み笠をかぶったおばあちゃんと、少年がいる。


「—————!」

「……——」


 おばあちゃんが興奮して、少年になにかを言っている。

 袖のないシャツを着た少年はそっぽを向いてふてくされている。


「——自分がなにをしたのかわかってんのかぃ!」


 おれたちが近づいていくと、そんな声が聞こえてきた。

 まずはオッサンが話しかける。


「どうしたんだ婆さん」

「おお、おお、聞いておくれよ。ジミーがやらかしおったんじゃ」

「おいら、悪いことしてないもん」

「なぁにを言うだか!」


 ジミー、というのが少年の名前らしい。


「婆さん、落ち着けや。なにがあった?」

「ジミーが……放しおったんじゃ」

はなした(・・・・)? なんのことだら?」

「オオグチを、この稚魚池に」


 おばあちゃんの言葉に、オッサンの顔がみるみる青ざめた。




 オッサンは「長老に話してくる!」と言って走り去った。

 目を三角にしているおばあちゃんと、ふてくされているジミーだけが残っていた。


「アンタたちは何者じゃ?」


 ようやくおれたちに気づいたように、おばあちゃんが言った。

 おれは釣り場を調べていることを簡単に説明した。


「そうか……それならこの婆にとっておきの話があるんじゃが、今は手が離せん」

「みたいですね。なにがあったの?」

「さっきも言うたろ。こんジミーがオオグチを稚魚池に放しよったんじゃ」

「悪いことしてないもん! ギョタローをおいらは飼うんだもん! ギョタローはおいらが初めて釣ったんだもん!」


 どうやら「オオグチ」という魚をこの少年が釣ったらしい。

 で、この池に持ってきて放した——と。名前までつけて、だいぶ愛着があるんだな。

 この「稚魚池」は養殖用のニジマスの、稚魚が放流されているらしい。湧き水が入っていて、成長が安定してくると「大池」——さっきオッサンがいたとこ——に移す。


「オオグチはいけん(・・・)言うたじゃろ! あれのおかげで先代の大池は死んだんじゃ!」

「死んでないもん! まだまだ水がいっぱいある!」

「バカもん! あそこにはオオグチしかおらん!」

「えーっと……オオグチってなに?」


 おれが聞くと、ふーふーと肩で息をしているおばあちゃんが(元気だな)教えてくれた。


「名前のとおり、とにかく口が大きくなんでも食う。ヒレが大きく、丸々太る魚でな……攻撃的な性格なんじゃ」

「…………」


 どう見てもブラックバス(オオグチバス)です。ほんとうにありがとうございました。


「おいぃぃ! 稚魚を養殖してるところにブラックバスを放流するとかいちばんやっちゃいけないヤツぅぅ!」

「な、なんでだよ! ギョタローだって怯えてぷるぷるしてたもん! ニジマスと仲良くできるもん!」

「魚を陸に上げたらぷるぷるっていうかびちびちするのは当然だって! しかしやべーな……早くどうにかしないと、食われるぞ」


 おれが水面をにらんで唸ると、ジミーがようやく、


「え……ばあちゃんが言ってたの、ほんとなの?」


 と、不安そうげな顔をした。


「さっきから言うとるじゃろ!」

「だ、だってばあちゃんはなんでも怒るじゃないか!」


 どうやらふだんから怒られているから、たいしたことではないと思っていたらしい。


「ご、ご主人様、そんなにまずいんですかぁ?」

「ああ、カルアはわからない——」

「わたくしもわかりません」


 ですよね。ふつうは知らないよね。ブラックバスの生態なんてね。


「オオグチバス——ブラックバスは他の魚を食うんだ。食欲が旺盛なのと繁殖力が高いのとで、生態系を壊しかねない」

「それほどですか」


 リィンが感心している。すごいんだぞ、ブラックバスは。日本でも「特定外来生物」として指定されているから、勝手に飼ったらいけないし、釣った魚を生きたままよそに移動するのも禁止だ。国際自然保護連合が指定する「世界の侵略的外来種ワースト100」にも入っている。

 実を言うとニジマスもヤバイんだけどね。他の魚の産卵した場所を荒らしたりするから。


「ブラックバスはさ、スポーツフィッシングとしてはすごくいいんだよ。どんどん食ってくるし、引きも楽しい。天候や水中の状況によって食ってくるものが変わる。ゲーム性が高い釣り魚なんだ」

「ご主人様、よくわかりません」


 くっ……釣りの面白さを伝えきれないおれのボキャブラリィィィ!


「ハヤトさん、つまり釣れる魚ということですか?」

「それはそうだね。淡水魚だけど……」

「ではハヤトさんが釣ればいいのでは?」

「え?」

「釣って駆除しては?」


 おれが……ブラックバスを?

 その選択肢はなかった。

 いやだって淡水魚ですよ? ここの水しょっぱくないんですよ?


「に、兄ちゃん、ギョタローをこっから出せるのか!?」


 いやほんと状況ヤバイんだからつけた名前で呼ぶの止めようよ、ね?


「うーん……」


 どうかな。淡水魚、やったことほとんどないんだよな……知識としては知ってるけど。「ザ・フ●ッシング」見てるとバス釣り回があるからさ。自分ではやらないんだけどなんか見ちゃうんだよね。霞ヶ浦でボートに大量のロッド積んでブラックバスを釣るバス釣り回を……!


「お前さん、釣り人か! じゃが、オオグチだけを釣れるなんてことはあるのか?」

「うーん……」

「頼むよ、兄ちゃん! ギョタローが悪いことする前に!」

「うーん……わかった。ものは試しだ、やってみようか……」


 ブラックバスかぁ。

 大丈夫かな……。

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