61 オッサンの提案
申し訳ありません。書籍化作業、というか著者稿の影響でかなり短いです。明日で作業は終わる予定です。
オッサンとジイさんがタマだの竿だのいう話をしているのにげんなりしたおれではあったが、振り返ると真面目くさった顔の天使がいる。それだけで心が癒される……! ああ、リィンにも来てもらってよかった……!
「まあ、ハヤトの話はいいだろう、アオサ。結局のところ、アガー君主国にマテバまで取り込まれたというのが問題なんだ」
「ん? ちょっと待って、コルトのオッサン。マテバ……ってポインヨの会長? それがアガー君主国に取り込まれたってどういうこと?」
「どうやらアガー君主国は今回の釣り大会で是が非でも優勝——どころか上位を総なめする気らしくてな、『大会後に便宜を図る』という交換条件でポインヨを取り込んだんだとさ」
「取り込むって具体的になに? アガー君主国以外で出店しないとか?」
すると、アオサのジイさんがフンッと鼻毛を抜く。
「むしろワシらはアガー君主国になど出店しておらん。海のない国に店を出してどうする」
「あー、そういやそんな国だっけ」
「じゃが、アガー君主国には魔物が多く出る。しかも、釣り具に加工しやすい素材を持った魔物たちじゃ。さらには鉱山も豊富でな、鉄を卸してくれなくなるとワシらは干上がる」
「そんなん……ズルイじゃん。弱点突いてくるとか」
「連中はポインヨだけでなく、この世界に冠たるジョウシウヤや、守銭奴のキャス天狗にも陣営に加われと迫ってきた。じゃがワシらは釣り人に対して平等であるべきじゃ。ゆえに誘いを断っておる」
「ジジイ、なにさりげにうちの店を貶めてんだよ」
コルトのオッサンは食ってかかったが、ふたりのケンカはどうでもいい。
それって結構厄介な問題じゃないか?
釣具屋がつぶれたら困るよ! おれが!
「ん? でもそれって、アガー君主国が釣り大会で優勝したら、っていう話だよな? どうやってポインヨはアガー君主国に釣り大会で協力するんだ?」
うーん、とコルトのオッサンが首をひねりながら、
「そうだなぁ、その他の国の釣り人には情報を渡さないとか、活きのよくないエサを渡すとかかな?」
「い、陰湿……」
「アガー君主国は今年の大会開催国がこのジャークラ公国だと決まってから、他人の目もはばからずにスパイを送り込んでる。釣り場も相当研究し尽くしている」
「大賢者はそのこと知ってるの?」
「ご存じだと思うぞ。大賢者様の周囲には各国の王がおられるからな。だからといってアガー君主国をどうこうはできない。特に協定違反をしているとかではないのだ」
「そうか……」
なーんか感じ悪いやり方だよな。
でも国同士の摩擦っていうのはこういうもんなのかな?
「で、各国の王は、なんとかしてアガー君主国の勝利を阻止しようとしている。上位を独占されればさすがに発言権は大きくなりすぎる」
「いや、いくら研究しまくったとしても、いきなり上位独占は無理じゃない? だって海のない国なんでしょ?」
するとアオサのジイさんがまたフンッと鼻毛を抜く。どうでもいいけどそれ見えるところに置かないでくれよ?
「引き抜きをしておるんじゃ」
「え」
「他国の有名な釣り人を探ってのう、大金でアガー君主国へ移籍させておる。ビグサーク王国からもお取り潰しになった伯爵家の釣り名人が移籍したぞ」
「…………」
う、うわぁ、「ビグサークでお取り潰しになった伯爵家」とか聞いたことのあるフレーズだぁ……。
青白い肌のゲンガーを思い出す。ブルードラゴンの骨で作った釣り竿使ってたっけ……。あのあとどうなったのか、とか気にしたことはなかったけども、アガー君主国に行ってたのか。
「それでな、ハヤトに提案がある」
「ああ——どの国にすればいいのか、っていう解決方法のこと?」
「そのとおり」
コルトのオッサンはニヤッとした。
「どこにも所属するな。フリーで出るんだ」
「……できるの、そんなこと?」
「できるぞ。だが今までフリーで出場して優勝したというのは1度しかない」
「1度はあるんだ」
「ああ。初代大会で、大賢者が成し遂げたんだ」
大賢者が——初代優勝者?
「お前さんは大賢者と同じことをやってのける。そして改めて——平和となった今の素晴らしさを話して欲しい。それこそがアガー君主国のいちばん望まないことだからだ」




