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異世界釣り暮らし  作者: 三上康明


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40 つよい(確信)

 フワフラが過去に獲れた場所へとおれたちは向かった。

 たいていは海沿いの村や街で、波打ち際に漂っているらしい。

 というかそれ以上の沖だと船も出せないので、調査はできないんだよな。


「海洋性モンスター……か」


 3つ目の村での聞き込みを終えたおれは、最近このあたりではフワフラを見かけていないという情報にしょんぼりした。


「これは思っていた以上に大変そうですね。海洋性のモンスターはその生態もほとんど知られていませんから」

「だよなあ。『よく獲れるけどどこも買い取ってくれないから放置されている』とかなら最高だったし、せめて『どこにいるかはわかっているが確認してない』くらいならなあ」


 楽観的すぎるだろうか?

 いや、そこまで楽観だとはおれは思わない。

 そもそも3年前まで、「糸流細細工房」で工房長が細々と造る程度にはフワフラは入手されていたのだ。この沿岸のどこかには必ずいるはずだ。

 生態を把握して、どの季節のどこに行けば手に入るかくらい知っている人がいてもおかしくない。


 と思ってたんだけど。


「しらみつぶしに村や街を回るしかありませんね……」

「ごめんな、リィン」

「なにがです?」

「もうちょっと先が見える状態だったらよかった。ここまで行き当たりばったりになるとは」


 どの村に行っても「フワフラ?」という疑問から始まり「なんであんなもんを?」という疑問が必ずくっついて来た。

 不人気だしレアだしもうほんとどうしよう。


「と、とりあえずがんばりましょう! 次は街ですし! 人も多いですよ!」

「そうだな! じゃあ今日はもう遅いから軽く釣ってく?」


 空は夕焼け。乗合馬車はこの時間には出ない。お泊まり確定で宿は押さえてある。


「……もう、ハヤトさん。さっきまでのしょんぼりはどこに行ったんですか? 目がきらきらしてますよ」


 だって夕マヅメですよ天使さん。釣りたいでしょ。

 このあとメチャクチャ釣った(ウミタナゴを)。




 ウミタナゴですらそこそこの銀貨に化けたので生活費は思っていた以上に簡単に捻出できそうである。結構結構。

 ウミタナゴってのは釣り人くらいしかお目に掛かることはない魚だ。

 浅いところにも生息していて、堤防でも磯でもどこでも釣れる。

 20センチ以上とかサイズが大きくなる個体もあり、まあ、食べようと思えば食べられる。味わいが水っぽいのと小骨がちょっと多いのが気になるけど。


 スーパーに並ばない魚にはそれなりの理由があるんだよな。


 さて、異変が起きたのは次の街へと移動してからだった。

 イートの街は漁師町だった。湾が深くて、湾の入口がかなり浅いために湾内は深くとも海竜が出ない。そのために船による漁が盛んなようだ。

 漁を優先するために釣りは禁止というなかなかふざけた街である(本ギレ)。


「ハヤトさん……ちょっと出かけてきますね」


 その日の夜、宿に入って入手した情報を整理していると、リィンがそんなことを言い出した。

 日も落ちてから、女性がひとりで外出。

 今までこんなことはなかった。

 すわ、これは一大事!


「り、リィン、いったいなにが」

「王国へ書簡を出してきます。ちょうど書き終わりましたので」

「……あ、そう」


 この世界にも郵便があるらしく、ビグサーク王国の騎士団長に手紙を出すらしい。

 もちろん信頼性はそう高くないので、途中で奪われても問題ないよう暗号化した内容なのだとか。

 なんだよぅ。驚かせるなよぅ。


 リィンが宿から出て行った。

 その間におれは考える。

 イートの街に来て多少マシな情報が手に入った。最近、フワフラを見たという男がいたのだ。街から1時間ほど歩いた海岸線らしい。これは明日行ってみるしかないな。


「……リィン?」


 30分ほどでリィンが戻ってきた。


「戻りました」

「……なにかあったの?」

「ええ、少々」


 にっこりと微笑んだ彼女の頬に、ぴとりと血が一滴飛んでいるのにおれは気づいた。


「ひぃっ、リィン!? なにしてきたの!?」

「うるさいハエを落としてきました」


 リィンが言うところによると、こうだ。

 イートの街で尾行されていると感じたらしい。宿を取ってもなお外でこちらを監視している気配があった。

 念のため確認に出たところどんぴしゃで、複数のごろつきが宿に押し入ろうとしていた——と。


「ご、ごろつき!? 強盗!?」

「強盗と言うより、誘拐目的でしょう……ハヤトさんの」

「おれぇっ!?」

「首謀者については知らないようでしたが身なりのよい者から依頼を受けたと言っていました。おそらくこの国の貴族でしょう」

「な、なんで……ていうかリィンはどうやって……」

「ふふふ。ごろつきの数人、ビグサーク王国騎士が後れを取るはずもありません。向こうから飛びかかってきたので全員返り討ちにして、警備隊の詰め所に突き出してきました。あと郵便も頼んできました」


 つよい。天使つよい。郵便は完全にオマケ。


「……ごめん、おれが足でまといで」


 手伝うこともできず、気づくこともできず、おれは宿でのんびりしてただけか……。


「ハヤトさん、お互い様ですよ」


 するとリィンはにこりと微笑んだ。


「ハヤトさんは釣りを、わたくしはハヤトさんの護衛を。それでよいではありませんか」

「でも……」


 役割を考えればそうかもしれないけど、なんかしてやりたい。

 ああ、これってきっとカルアも同じように思っていたんだよな。

 おれの役に立ちたいって……。

 おれもリィンのためになにかしたい。


「それならリィンの旅費は全部おれが出そう」

「ええ!? それはまずいですよ! ただでさえお食事とか出していただいているのに……わたくしはちゃんと王国から旅費をもらっていますから」

「いずれなくなるだろ?」

「うっ」


 そうなのだ。あらかじめリィンがお金をもらっていたのはおれも知っている。だけど王国から離れた今、急な出費があっても王国に無心することができない。


「今ある分はなにかあったときのためにとっておいて。ここから先はおれが出すから、ね?」

「しかし……」

「リィンがおれのために戦ってくれてるのに、おれがなにもしないではいられないんだ」


 リィンは「うぅん」と腕組みして数分うなっていた。

 やっぱりリィンは真面目すぎるよな……でもそこがいい。


「……わかりました。ハヤトさん、お世話になります」

「うん、任せて。あとできれば、ふらっと戦いに行かないで。なにをしているかくらい教えて。約束するから、おれも戦いに首を突っ込んだりはしないって。リィンがおれの知らないところでおれのために戦っているのがつらいんだ」

「はい……ありがとうございます。ハヤトさんはお優しいですね」


 なに言ってるんだ。おれからしたらリィンのほうがよほど優しいよ。

 そう言ったらきっと「仕事ですから」と言われるだろうけど。


「それにしてもどうしておれが狙われるんだ?」

「もちろん、優れた釣り人だからでしょう」

「いや、っていうか、なんでこの国の偉い人が知っているのかってことなんだけど……」

「王国での話が伝わっている可能性がありますね。それに『キャス天狗』の会長も言っていました。アオギスを貴族が買い求めたと。そのあたりから伝わったのではないでしょうか」

「にしては強引すぎないか」

「どの国にも強引な貴族はいますよ」

「じゃあ『おれは王国の名誉国民だぞ!』って言いふらしても効果なし?」

「……残念ながら」


 もうちょっと釣りくらい気軽にやらせてくれよ……。

 凹む。


「は、ハヤトさん、そう悲しまないでください。貴族からちょっかいを受けない方法もありますよ?」

「おおっ、それはなに?」

大賢者(グランドセイジ)の主催する釣り大会で記録を残し、大賢者に認められることです。そうなれば各国の認めるところとなり、ハヤトさんが危害を加えられれば、加害者の貴族はあちこちの国から糾弾されます」

「マジか! ……って待って待って。軽く言うけど、それってかなり難しいんじゃないの?」


 リィンはますます笑顔になった。


「釣り人が1万人、参加する大会ですね」


 1万人て……。


「でもわたくしは、ハヤトさんなら上位に入れると思いますよ」

「…………」

「きっと入ります」

「そ、そうかあ?」

「そうです」

「過剰評価だと思うけど」

「そんなことはありません」


 リィンが、天使がおれに期待してくれている。


「……そっか。じゃあ、がんばろうかな」

「はいっ」


 俄然、やる気になりました。

 アオリイカ例大祭の次は大賢者の釣り大会を目標にしよう。決めたわ。

天使は負けません。強いし、それにこれはバトルものではなく釣り小説だからです(ぶっちゃける)。

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