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異世界釣り暮らし  作者: 三上康明


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釣り大会後夜祭

 釣り大会後夜祭——大会終了後に行われる盛大なパーティーは、あまりに多くのトラブルがあったから中止……って本来ならなるべきところだよな。

 だけど、ジャークラ公爵がこう言ったんだ。


「こんなときこそ、パァッとやらなきゃいけないのよォ! 難しいことは明日考えましょォ!」


 すごいよな、国のトップってのは。

 アガー君主国によって起きた混乱も、せっかくの楽しい釣りがぶち壊しにされた失望も、これで全部吹っ飛んだ。

 特例で、今日釣れた魚の半数を後夜祭で使うことになった。活きのいい魚ばっかりだからもちろん刺身が中心だ。

 さらに、首都港には釣り人があふれている。

 日中に、金に糸目をつけずにみんなエサをばらまいていたわけだろ? あのニオイが湾からあふれ出て、近くの魚をおびき寄せているんだ。

 これを見逃すようなら釣り人じゃない、ってね——。


「——ハヤト、どこに行こうとしている?」

「ラ、ランディー! 違うんだこれは! おれはちょっとだけ、ちょっとだけ港の様子を見てこようかと……!」

「お前がいなければ話にならんだろうがっ!」


 で、おれはランディーに引っ張られて——彼女はすっかり元気になった——後夜祭会場へとやってくる。

 ここは屋外会場で、お祭りみたいにロープが上空を渡されてあってそこにランプが吊り下がっている。

 公爵の持ち主である屋敷の庭らしいけど……広すぎない!? 見渡す限り1,000人とか余裕で超えてるんですが!?


「おい、アレ——」

「アレが今回の……」

「大賢者様の同郷の者らしいぞ」


 おれとランディーが、それっぽい礼服を着て会場にやってくると、途端にざわめきに包まれた。立食パーティーであるのでみんな目一杯皿にお刺身盛ってるけどな。


「ご主人様!」

「あ、ハヤト」


 カルアとスノゥのちびっ子コンビもおれたちのところにやってくる。

 カルアに至っては目元に涙まで浮かべてる。


「ご主人様……よくぞご無事で」

「大げさだなぁ。おれだってそう簡単に死んだり……」


 ……いや、死にかけたな。軽く。いろいろタイミングが違ってたら死んでたな……。

 一瞬遠い目になりかけるおれだったが、


「ハヤトさん。このパーティーではなにがあるかわかりません。わたくしからけして離れないようお願いします」


 相変わらずキリッとしたリィンに言われて我に返る。

 そ、そうだよな……あんなことがあった後だもんな。


「おっ、主役の登場じゃねえか!」


 そんなダミ声とともにぞろぞろやってきたのは釣り大会上位に食い込んでいたはずの厳ついオッサンだ。

 オッサンの連れ合いはみんなオッサンでそろってみんな厳つい。どういうことなの? この世界では釣りが筋トレになるの?


「主役、って……大会はみんなが主役じゃないですか」

「謙遜するなよ! 誰がどう見たってお前が一等賞だ! ったくよぉ、俺たちなんかはゴマサバラッシュのせいで最終計測が出るまで順位はお預けだよ」


 そうなのだ。

 大量にゴマサバが釣れたせいで順位発表は明日以降に繰り下げとなったのだ。一応、おれの釣ったスズキが一等であるということだけは言われてるけども。

 なんか……アレだな。発表のドキドキが全然ないのってどうなんだろ。

 ま、いいか。優勝みたいだし。


「あれ? でも結構ゴマサバがテーブルに並んでない?」


 刺身の半分はゴマサバと言ってもいい。

 釣りたてのサバならば、寄生虫問題はほぼ解消できる。サバの寄生虫であるアニサキスは内臓にいて、サバの死を察知すると身に移る。だから釣りたてですぐに内臓を出せば大丈夫——理論上は。

 アニサキスに当たるとめっちゃ苦しいって言うしな……あくまで自己責任ではあるよな。

 冷凍すると死ぬし、ちょっと噛んで傷つけても死ぬから、よく噛めばオーケーではあるんだけど。ああ、締め鯖ってあるけど、あれは関係ないんだよな。酢漬けにしてもアニサキスは死なない。あいつらほんとよくわからん生き物だ。


「あー……並んでるゴマサバは失格になった連中のものだな」

「あー……」


 アガーの人たちが釣ったものみたいだ。

 捕縛された彼らは牢屋につながれている。これから国際情勢がどうなっていくかはおれにはわからないし、ちょっと難しすぎる。

 でも……そんなに悪いことにはならないんじゃないかなって気がする。


「にしても、アンタの釣りかけた魔魚もすごかったなぁ! あれ、釣り上げてたらとんでもない——」

「お、おい」

「あっ……す、すまん、そんなこと言われたくないよな」


 オッサンたちが勝手に盛り上がって勝手に気まずくなってる。

 だけどランディーは苦笑いしただけだ。


「なに、あそこに魔鯛がいるとわかっただけでも儲けものだろう。私の腕が足りなかった。……だけど次は、釣る」


 ランディーが言うと、オオオオとオッサンたちが再度盛り上がる。チョロい。チョロオッサンだ。


「くぅーっ、カッケェなぁ! 俺も言ってみてぇ!」

「そこは美人って言うところだろ!」

「も、もし独身なら、俺なんかどうだ?」


 どさくさに紛れてアプローチをかけているオッサンまで出てくる。

 するとランディーは、


「そうだなぁ……」


 ちら、とおれのほうを見て意味深に笑った。


「まぁ、まだ誰かと恋仲になるつもりはないかな。今は釣りが楽しい」


 オッサンたちの残念がる声が上がる。

 ランディー、今おれのほうちらっと見たけど、アレはなんだったんだ?

 ……まさか。

 まさか、だけど。

 ランディーはすでに好きな男がいる、とか?

 ななななんだとぉ! どこのどいつだそれはぁ! ウチのランディーに手を出すなどぉ! 当然釣りはできるんだろうなぁ!?


「……うん、やっぱり私の人生に恋愛の縁はなさそうだな」


 おれをまたも見てランディーがそんなことを言う。


「なあ、リィン?」

「……な、なぜわたくしに話を振るのですか」

「ふふ」


 そんなことを言っているランディーとリィン。美女ふたりは絵になる。


「魔鯛を釣ったあの仕掛けは不思議だったなぁ」

「いや、それならハヤトの疑似餌もすごい出来だったぞ」

「ちなみにどこの工房であれを?」


 オッサンたちが興味津々という顔で聞いてくる。


「ああ、あれは——」


 と、おれが答えようとしたときだ。


「——遠い、はるか遠い国の代物じゃ」


 後ろから渋い声が聞こえてきた。

 びくん、とスノゥの身体が震えて——それから振り返る。


「お祖父ちゃん!」


 スノゥの祖父にして鍛冶師ゴルゾフ。

 ゴルゾフの登場に一気に周囲がざわつく。滅茶苦茶有名人らしい——「大賢者お付きの鍛冶師様だ!」だって。なるほど納得である。

 気難しそうなジイさんというイメージだったんだけど——ふわっと笑顔を見せた。


「久しぶりじゃなあ、スノゥや」

「お祖父ちゃん……」


 スノゥの目に涙が浮かぶ。おれが背中をそっと押してやると、彼女がこっちを見る。うなずいてやる。スノゥが、走り出す。

 胸に飛び込んで来たスノゥを抱き留めた老人は、目を細めて孫娘の頭をなでてやる。

 思わず、おれもうるってきた。

 よかったなぁ……スノゥ。祖父ちゃんのこと探してたもんなぁ。


「スノゥや。お前がハヤトさんのサポートをしておったんじゃな?」

「……ハヤトは、あたしがどうこうする必要もないくらい、完成された釣り人。むしろいっぱい教えてもらってる」

「ははは! そうかそうか。存分に教えてもらいなさい。そして——いつか恩返しをしなさい」

「うん……そのつもり」

「あ、あのー、おれはすでにスノゥにいっぱい助けてもらってますよ?」


 とおれは口を挟む。


「ちょっとした装備の破損も直してもらえるし、替え針だって作ってもらってる。十分過ぎますよ」

「まだまだ、全然足りない。最初にハヤトに教わったニッケルについても力になれてない」


 あー、確かにそんなこと教えたっけ。

 釣り針は錆びにくくなるようにニッケルコーティングしてるって話なんだよな。

 ただまぁ、おれがニッケルについて詳しいわけでもなく——。


「……ほう、その面白そうな話はなんだい?」


 ひ、光った。ジイさんの目がきらんって光った! そしておれに詰め寄ってくる!


「い、いや、ゴルゾフさんは藤岡さん、えーっと、大賢者様のお付きなんですよね? そっちのほうが詳しいでしょう?」

「そんなことはない! あの方は……全部フィーリングなのじゃ。釣れたときになぜ釣れたかを聞いても『魚が食ってくる気がした』とそれだけ……」


 お、おう……。

 おれの記憶を掘り出してみると、確かに藤岡さんの釣り番組って「よっしゃ魚来たぜ! どーん!」みたいな大雑把な感じだったかもしれない。

 だからまぁ、逆にかっこよかったんだけど。


『はぁ〜い、お集まりのみなさぁん! こっちに注目よぉ!』


 そこへ、MCに仕事をさせないことで定評のあるジャークラ公爵が登壇して、拡声器で話し出した。


『いろいろねぇ……いろーんなことがあったせいでねぇ、ちょっとごちゃごちゃしちゃったわ、ごめんなさいね』


 彼の後ろにはぞろぞろと各国のトップが現れる。

 あたりは急にしーんと静まり返る。中にはひざまづく人までいる。

 おれもそうしたほうがいいんだろうか? ただでさえ失礼無礼しちゃうことに自信のあるおれだもんな……。

 とか思っていたら、最後に大賢者様——藤岡さんまで出てきた。


『ここで大賢者様から発表があるわぁ——お願いします』

『ああ』


 藤岡さんはやたら堂々として拡声器を受け取った。

 そして、言った。


『まず最初に言っておこう。これから重大な発表をするが、この発表内容はここにいる大陸国家全体の総意である——ここに登壇していないアガー君主国君主代理にも同意は得ている』


 混乱の原因であるアガーの話が出て、軽くざわつく。だけれど藤岡さんは手のひらをサッと出してざわつきを鎮める。

 か、かっこよすぎなんだが……?

 とか思って油断してた。


『今大会優勝の牛尾……じゃなかった、ハヤト=ウシオの提案を全面的に取り入れ、来年の釣り大会を大きく変える』


 大賢者様の言葉に、これまた会場は大きくざわついたのだった。

ごめんなさい! 釣り大会変更仕様(おそらく多くの人がすでに気がついている)についてたどりつかなかった……!

次話はそこからです。


あともうひとつ申し訳ないのが、スノゥの作っていた「武器」について伏線回収しないまま終わっていました(絶望)

今から戻って書き直すのは既読の方にとってはあまりにアレなので(直すなら「武器」関係の項目を全部消すことになる)ここでなにを書こうかと思っていたかについてだけ書きますと——。


伸縮機能付きのギャフ(先端にフックがついているもの)的なものを考えていました。

最初は「夕闇の巨大魚」は「鮫」を考えていたんですね。次にウツボ(長い・大会では有利)だったので、それを安全に引き入れるのにギャフあったほうがいいよなっていう感じで。

でも考え直したんですよ。この重要な大会で外道で優勝していいのか……? ハヤトはやっぱり王道で釣るべきでは……? たとえ大賢者の記録にかなわなくとも。


うーん……ギャフ、不要!


ほんとうにすみませんでした。特にギャフを作っていただいたスノゥ様、申し訳ありませんでした。

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