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異世界釣り暮らし  作者: 三上康明


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閑話 海竜から見える世界

 フゥム村で釣り大会が行われる、という情報は、地上だけでなく海中にも広がっていた。

 それはごく少数、人間と同等――あるいはそれ以上の知性を持つ生き物が知り得た情報だ。


 海竜族。


 15メートル以上の水深がある海域に棲息する。

 見た目は様々だが、人間のような形を取れる個体もいた。


『ふーん? 人間風情が魚を食べるなんて生意気じゃない。邪魔してやろうかしら』

『止しとけよ、お嬢。臆病な人間は浅いところでやるんだ。ワシらが動けるところには来ないだろう』

『あらそう? そうね、あなたは無理かもね? でもね、あたしにはちょっとした方法があるんだけど?』

『変身か? それなら確かに行けるかもしれねぇが、止しとけ。おやっさんに叱られるぞ』

『お父様のことなんていいんです』

『ワシは忠告したからな』


 年かさの海竜は、そう言うとすいーっと遠ざかっていく。


『むう……子ども扱いはイヤ』


 ふくれっつらの彼女は、人型に近い形状だった。


『いいわ。あたしの力で釣り大会とかいうものを邪魔してやりましょう』


 だけど、彼女は知らなかった。

 彼女は1日間違えていたのだ――釣り大会の開催日を。




 釣り大会の翌朝、フゥム村の漁港にやってきた海竜族の彼女。

 彼女は――姿を変えていた。

 15センチサイズの鯛に。

 しかし竜を15センチにしたところで、魔力量を隠すことはできない。

 小さいくせにとてつもない存在感。

 すなわち彼女は魔鯛であった。


 そのせいで、湾内から小魚たちは消えた。

 回遊魚は近寄らなくなった。

 ある意味、釣り大会にはならない潮の状況だ――まあ、1日ズレているのだが。


『なによ、釣り人なんていないじゃない』


 昨晩は宴、しかも大量の魚を食べたために大盛況だったのでいつも以上に閑散としている早朝のフゥム村漁港である。


『……ん?』


 そんな彼女は目にした。

 海底近辺を泳ぐきらめく魚体を。


『な、なにアレ!? 見たことない魚よ! うわあおいしそう!!』


 そう、隼斗が使ったルアーである。

 レインボーカラーの。

 思わず食いついた。


 で、食いついたあとは絶望した。釣り人の仕業だと気づいたからだ。

 全力で抵抗したが陸に引き上げられる。ああ、もう終わったと観念した。短い人生――竜生だったと思った。やりたいことがいっぱいあったのに、そのすべてができずに死ぬのだ、と。

 後悔が胸を満たした。

 だけれど死を免れることはできない。海竜だって人間の船を沈め、人間を食う。そこにためらいはない。お互い様なのだ。


 彼女は急速に苦しくなっていく――魚は、海上では生きていけない。窒息状態になる。

 死ぬのだ。死ぬのが、こんなに苦しいなんて。

 視界が赤く染まる――と。


『え!?』


 急に楽になった。

 自分が海中に戻されたのだと気づくのに、少しだけ時間が必要だった。


 ――また会おうな。


 そう、釣り人が言ったのが聞こえた。

 どうしてこんなことをするの? どうしてあたしを逃がすの?

 聞きたかったけれど、今は逃げなくちゃと思った。

 一度だけ振り返った。

 ゆらゆらと揺れる海面の向こう――青年が笑っていた。


 それが、海竜の娘と隼斗の出会いだった。


短くて恐縮です。

貴重なファンタジー要素……!

あんまり短いので続けてもう1話投稿します。

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