9 妹様降臨と天然ジゴロ サーヤさんは、妹なのですよ?
ここまでVR的なことをほとんどやっていないという事実に愕然。次くらいにちゃんとした戦闘があるといいんだが…。
『あれ?お兄ちゃん……なんで森の中にいるの?って、うわぁー!お兄ちゃんがすっごく可愛くなってる!その宝石とか、ケモミミとか!いいなぁ、触りたい!』
「落ち着きなさい。あと、可愛いって言うな……全く、沙綾は変わらないな」
『それを言ったら、お兄ちゃんだって、相変わらずのおにゃのこっぷりじゃん。可愛いのは相変わらずだけど……なんか、色気も出てきた気がするのは気のせい?』
「気のせいだ!」
妹様は、相変わらず絶好調だった。画面の向こうでは、リアルの容姿と髪と瞳の色だけが違う沙綾がいた。その辺のアイドルなんかでは太刀打ちできないほどの美少女っぷりもそのままである。久しぶりに見た感じだと、さらに可愛くなってるな。ユリィとは違ったベクトルの美少女だ。
沙綾は金色に染まった髪をサイドテールにしており、天使爛漫さが詰まった瞳は、エメラルドのような輝きをたたえている。俺に向けられるキラキラした視線も、飛び跳ねんばかりのハイテンションも、半年ほど離れていただけなのに、とても懐かしく感じてしまっている。
「ま、なんにせよ……久しぶりだな、沙綾」
『うん、久しぶり、お兄ちゃん。あ、わたしのプレイヤーネームは、『サーヤ』だよ。お兄ちゃんは?』
「そのまんまだな……俺はアカツキだ。でも、サーヤはどうせお兄ちゃんって呼ぶんだろ?」
『そりゃそうだよ。お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだからさ。あ、でも。お姉ちゃんって呼んでも違和感ないよね?』
「その呼び方は許可しない。絶対に許しません」
『えー』
「あの……アカツキ様?こちらの方は?」
『ふぇ?メイドさん?』
あ、そういえば、ユリィにはサーヤのことは詳しく話してなかったし、サーヤはユリィと初対面だもんな。これから顔を合わせることも多くなると思うし、ちゃんと紹介しないとな。
「サーヤ、この人はユリィ。詳しいことはあとで説明するけど、俺と一緒に行動することになった人だ。ユリィ。こいつは俺の妹のサーヤ。できれば仲良くしてやってくれ」
『……お兄ちゃん?何がどうなったらこんなに綺麗な人とパーティーを組めたのかな?ちゃんと説明してくれるよね?』
「アカツキ様?妹さんとは、ずいぶんと仲がよろしいようですね?」
あ、あれ?なんか二人の視線が冷たいような気がするんだが……。なんで?
俺が二人の視線いたじろいでいると、画面越しに向かい合ったユリィとサーヤが互いに自己紹介を始めた。
「初めまして、サーヤさん。あなたのお兄さんと行動を共にすることになりました。ユリィです。よろしくお願いします」
『こちらこそ、初めましてだよ、ユリィさん。お兄ちゃんの最愛の妹、サーヤです。よろしくね?』
なぜか、二人の背後に、ゴゴゴゴッ……。という効果音が見えたんだけど、気のせいだよね、うん。サーヤのにっこり笑顔とユリィのすまし顔に恐怖を覚えるのはなぜだろうか?
『それで、お兄ちゃん!』
「お、おう……。なんでございましょうか?」
『どうして噴水広場に来てくれないの?待ち合わせしようってメールしたでしょ?もしかして、メール見てなかったとか?』
「いやメールは見てたんだけど……。あー、忘れてたわけじゃないから、俺がサーヤとの約束を忘れるわけないだろ?だからそんな泣きそうな顔をするな」
『……ほんとう?わたしとゲームするの、嫌じゃない?わたしのこと、嫌いになったりしてない?』
「嫌なわけないだろ!……全く、俺がお前を嫌いになるなんてありえない。お前はずっと、俺の最愛の妹だ」
『お兄ちゃん………うん、そうだよね。えへへ、ごめんね?ちょっと不安になっちゃったんだ』
「こっちこそ、悪かったな。約束、守ってやれなくて」
『いいよ、許してあげる。どうせ、お兄ちゃんのことだから、変なことに巻き込まれてるんでしょ?』
「うぐ……。ま、まあ、その通りなんだが…。釈然としない」
何とか、妹様のご機嫌も直ったみたいなので、落ち着いて説明ができそうだな……。と、思っていたら、ユリィにポンと肩を叩かれた。なに?と思ってふりかえると、ユリィは真剣さを帯びた瞳で、少し震えた声を絞り出した。
「アカツキ様……サーヤさんは、妹なのですよ?」
「え……?いや、知ってるけど……。なんで?」
「妹、なのですよ?本当にわかっていますか?」
「え、あ……う、うん。サーヤは妹だな。血はつながってないけど」
「………………え?」
『お兄ちゃんとわたしは、義理の兄妹だよ?でも、本当の兄妹じゃなくても、わたしがお兄ちゃんを大好きってところは変わりないかな』
「俺も、サーヤのことは大好きだよ」
「…………この兄妹、何とかしなくては!」
あれ?ユリィが頭を抱えてうずくまってしまったんだが。一体どうしたんだろうとサーヤと一緒に首をかしげる。
少したって回復したユリィを交えて、カーバンクルのことや、称号のこと。それによっていろいろと困ったことになっているのを、サーヤに説明した。話が進むにつれて、サーヤの目が点になっていき、話し終えるころには、今度はサーヤが頭を抱えていた。
『つ、ツッコミどころが多すぎる……。でも、お兄ちゃんらしいって言えばらしいのかなぁ?』
「それはいったいどういう意味なんだ?」
『相変わらずの不幸体質だねってこと。お兄ちゃんって、昔から運が絡んでくるようなことに、ほんっと弱かったもんねー。なのにランダムなんて選んじゃうからだよ?』
「アカツキ様の不運は、もはや体質レベルなのですか?」
『うん。くじ引きではずれ以外を引いたところを見たことないし、じゃんけんとかも全戦全敗。道を歩けば犬に吼えられて、町に繰り出せば事件に巻き込まれるの』
「それは…………」
「ユリィ、何か言ってくれ。そんな憐れみを前面に押し出さないでくれ。いっそ笑ってくれた方が気が楽だ」
不幸体質って言うのは否定しない。まぎれもない事実だからな。でも、改めて言葉にすると、心に来るものがありますね。
『まぁ、事情は分かったよ。お兄ちゃんはそのドラゴンを倒さないと、パーティーを組めないんだよね?』
「そういうことだ。悪いな、本当に」
『謝らないで、お兄ちゃん。わたしは気にしてない………ってのは嘘だけど……。それで、お兄ちゃんに、泣きついたりして、困らせたりはしない。そんなに子供じゃないもん。ちゃんと我慢できるよ』
「……俺が一人暮らしするって言ったときは、あんなに泣きじゃくってたのにな。成長したもんだ」
『あ、あれはあれだもん!お兄ちゃんのいじわる!』
「ははっ、悪い悪い。まぁ、ドラゴンの一匹や二匹。速攻で討伐してくるさ。それまで、待っててくれるか?」
『うん!サーヤはいいこだから、お兄ちゃんの言うことはちゃんと聞きます!それと、ユリィさん』
「なんでしょうか、サーヤさん」
『お兄ちゃんのこと、よろしくお願いします。不幸体質のこともあるけど、お兄ちゃんってその………………天然ジゴロっていうか(ボソッ)』
「……ああ、なるほど。そうですね………任されました。しっかりと見張っておきます(ボソッ)」
『まぁ、ユリィさんもすでに毒牙にかかってしまってるような気もしますけどね』
「そ、そんなことありません!」
「毒牙………って、なんの話だ?」
「『アカツキ様(お兄ちゃん)には関係ありません!』」
「なんで!?」
小声で何かを離していたと思ったら、力強く拒否されてしまった。ま、まぁ、二人が仲良くなったから、よしとするかね?
サーヤはこの後、ベータテスト時代の友人に会いに行くそうだ。紹介したかったといわれたが、町に入ったら襲われる種族特性から、町の近くに近づくのもやめた方がいいとユリィに言われたので、またの機会にしてもらうことに。もしかしたら、俺が町に入ることができるようになるかもしれないからな。
『それじゃ、またねお兄ちゃん。ドラゴン退治、頑張ってね』
「ああ。サーヤも、友達は大事にするんだぞ?じゃあな」
最後にそういってチャットは切れた。衝撃の出来事続きで疲れてた精神が、サーヤの元気さで癒された感じだ。
「サーヤさん……素敵な人でした。血はつながっていなくても、アカツキ様によく似た妹さんでしたね」
「だろ?サーヤは最高なんだ。……でも、そんなに似てたか?外見とかはそんなに似てないと思うんだが……」
サーヤは身内びいきを除いても美少女だし。俺は……この話はよそう。俺の外見の話なんてしても、誰も幸せにならない。俺を含めてな。
「そうではありません。自然と相手を気遣えるところ、ふとしたやさしさなどは、とてもよく似ていると思いますよ。自然と好感が持てるのも、アカツキ様にそっくりです」
「ん?てことは……ユリィは、俺に好感を持ってくれているってことか?それはうれしいな」
「え……あ、そ、それは…………まぁ、そう、ですが」
「そっか、俺もユリィのことは好きだぞ?」
「っ!!」
ぼふんっ、と蒸気を上げながら顔を真っ赤に染めたユリィ。そんなユリィの反応を見て、今自分が言ったセリフがどれだけ恥ずかしいものだったかを悟る。何さらっと告白してるんだ、俺は……。
「あ、あれだ、人として好感が持てるって意味だから。うん!変な意味はない!」
「そ、そうですよね……。これは本当に注意しておいた方がいいですね……。破壊力がヤバいです」
最後のほうは何を言っているかよく聞こえなかったけど、勘違いは解けたようだ。ほっと胸をなでおろす。
………………恋愛的な意味が本当に含まれていなかったかは、神のみぞ知るってやつだ。
主人公と妹ちゃんが一緒にいると、仲の良い兄妹というより、百合カップルに見える。ユリィさんでも同様。
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