8 ユリィとメイド服 とりあえずよろしくだ、ユリィ
すこし更新が遅れてしまいました。すみません。
連続更新八話目です。
「……すみません、取り乱しました」
「いや、気持ちはよくわかるから、そんなに落ち込まないでくれ」
うん、ユリィさんも落ち着いたみたいだ。さっきまで、すごい取り乱しようだったしな……。どんな様子だったかは、本人の名誉のために黙っておくことにしよう。
それにしても……なんで俺のステータスに[白百合姫の主]の称号が表示されたんだろう?まるで身に覚えがない。ユリィさんの様子からして、彼女も何も知らないみたいだし。運営に問い合わせてみようかな?……一応、ユリィさんにも、心当たりがないか聞いておくか。
「えっと、ユリィさん。どうしてユリィさんがここにいるの?さっき結構、壮大な感じの別れ方をしたと思うんだけど……」
「……ふふふ、これで会う機会なんてほとんどないって思ってたから、勢いに任せてすごく恥ずかしいことを言った直後に再開……。馬鹿みたいですよね、ふふふふふ」
「そ、そんなこと……」
「いいんですいいんです。私みたいな馬鹿な女に気を遣う必要なんてないんですから……。この状況だって、あのバカが仕組んだことに決まってます。私を見送る時ににやにやしていたのがその証拠です。大体、あのバカの言うことを疑わなかった私が……。ああ、もう!しかもアカツキ様に寝姿を見られて……。ううううう~~~~っ!やっぱり、私なんて愚かで、存在自体が邪魔な役立たずで……誰にも必要とされない……」
ゆ、ユリィさんがキャラ崩壊してらっしゃる。体育座りで頭を抱えながらぶつぶつ言ってるけど…………って、いきなり顔を真っ赤にして涙目に……。かと思ったら、虚ろな目でぶつぶつと何かを言い始めた。耳を澄まして聞いてみれば、紡ぎだされるのは自責の言葉。心を自傷するような言葉で、自分を責め立てていた。
目の前で美少女が落ち込んだり怒ったり顔を赤くしたりしているという、経験のない事態を前に、おろおろするしかない俺。その間にも、ユリィさんはどんどん自分を追い詰めていく。ああもうっ!こうなったら当たって砕けろで……ッ!
「ユリィさん!」
「ひゃうっ!……ふぇ?あ、アカツキ様……?」
ユリィさんの肩を両手でつかみ、その瞳を真正面から見つめる。相変わらず、表情はほとんど動かないが、揺れる瞳には、確かな怯えがあった。目じりに涙を浮かべるその姿は、迷子の子供の用で……。
「あなたは、愚かでも、馬鹿でも、邪魔でもない。ユリィさんは、初対面の俺に優しくしてくれたし、説明だってすごく丁寧でわかりやすかった。まだ出会ってから一時間くらいしかたってないけど……それでも、ユリィさんが、すごくいい人だって言うのはわかる。そんなユリィさんが、役立たず?そんな馬鹿なことがあるか!」
「あ……う……あ、アカツキ…さま……」
「何よりっ!」
ああ、俺は今、何を口走っているのだろうか?とにかくユリィさんの涙を止めたくて、内心をぶちまけるように言葉を吐き出している。頭の片隅で、そう冷静に考えていた。でも、止まらない。止めたくない。どうせ後で、羞恥にのたうち回るだけだ。行くところまで行ってしまえ。
その程度で、ユリィさんの涙を止めることができるなら、俺のことなんて、どうでもいいんだ。
「ユリィさんみたいな超絶美少女は、存在そのものが宝物みたいなものだ!」
……何を言っているのだろうか、俺は。羞恥と混乱が一気に湧き上がってきて、顔が熱くなるのがわかる。こんなところまでリアルなんだなぁ、と、現実逃避気味に考えてみるが、俺がアホさ加減極まりない発言をした事実に変わりはなくて……。
純白の髪からのぞく耳を真っ赤にしてうつむいているユリィさんと、彼女の肩をつかんで、赤面している俺。
二人の間に流れるいたたまれない空気の中、少しの間、沈黙が続いたのだった。
「すみません、その、と、取り乱してしまって……。お恥ずかしいところをお見せしました」
「いや、俺も盛大に自爆してたから。あー、思い出すだけで恥ずかしい……。それと、いきなり叫んだりして、悪かったな。びっくりしただろ?」
「確かに、びっくりしました。でも、アカツキ様が私を思ってくださっていることは、この上なく伝わりましたから」
「……そーかい」
無表情ながら、どこか嬉しそうな雰囲気を発しながら、こちらの羞恥心を煽ってくるユリィさん。互いにいろいろと見せてはいけないところまで見せ合ったおかげ(せい?)か、いい意味で遠慮がなくなった感じがする。
「それで、ユリィさんはどうするんだ?この称号の効力がどのくらいのものかは知らないけど、運営に連絡すれば称号を外すことくらいできるんじゃないか?」
「……それは、私がそばにいるのは、嫌だということですか?」
俺が称号をどうにかしようと提案してみると、なぜかすねたようにそういうユリィさん。ユリィさん的には、この状況は問題ないってことか?
「まぁ、ユリィさんがいいって言うなら、俺から反対することはないかな?むしろ、大歓迎だ」
「そうですか。それならいいのです」
「……ユリィさん、なんか嬉しそう?」
「さぁ、どうでしょうか?そんなことより、アカツキ様は私の主となられるんですよね?」
「まぁ、称号的にはそうなんだが……。別に、主だからって、ユリィさんがいやがるようなことは絶対にしないし、主従関係よりは、パートナーみたいになれるとうれしいけどな。ユリィさんは?」
「私は主従関係でも構いませんよ?高圧的なアカツキ様というのも、見てみたい気がしますし。でも、アカツキ様がそうおっしゃるのなら、そうします。それと、わたしからも一つお願いしてもよろしいですか?」
「おう、いいぞ。ユリィさんのお願いとあらば、全力を尽くさざるを得ないな。それで、ユリィさん、お願いって?」
「そんなに気張らなくてもいいですよ。簡単なことですから。ただ、私のことは、ユリィ。と、呼び捨てで呼んでほしいんです」
「呼び捨て、かぁ……。それはそれで難易度が高い気がするなぁ……」
「駄目……ですか?」
「いや、できることはするって言ったからな。少し恥ずかしいけど………………ユリィ?」
「はい、アカツキ様」
「……ユリィ…………ユリィ。うん、少しは慣れたかな?まぁ、とりあえずよろしくだ、ユリィ」
「こちらこそ、よろしくお願いします。アカツキ様」
こうして、俺とユリィさ……ユリィは、正式に仲間となった。システム的な関係は主従だが、俺にそんな趣味はない。だから、ユリィにも敬語と様付けをやめてもらおうと思ったのだが……「これは私の癖みたいなものですから」と断られてしまった。どうでもいいけど、ユリィって絶対に中の人いるよね?
ユリィとはこれから対等なパートナーとして関係を深めていけたら……。そんなことを考えていた。そう、対等なパートナーとして。決して主従関係なんて望んでいなかったのだ。それなのに……。
「……それも、開発者、とやらの仕業なのか?」
「……ええ、間違いなく。本当に、一回死んだ方がいいと思います」
俺とユリィが、先ほどの空気とは一変して、若干どんよりとした空気をまとっている訳は、ユリィの恰好にあった。先ほどまで漆黒の軍服だったのだが、いきなりユリィが光に包まれたと思ったら、服装が変化していた。……………………………メイド服に。
漆黒のワンピース、シックなロングのエプロンドレスはフリル控えめで、清楚さを前面に押し出している。頭にはヘッドドレスがちょこんと乗っかっており、まさにメイド!という恰好だ。ミニスカメイドみたいな媚びた可愛さではないところが、開発者とやらのセンスを感じる。ユリィにはよく似合っていた。
「しかし……いいな。可愛い、というよりは綺麗という賞賛を送りたくなる。なんにせよ、似合ってるよ、ユリィ」
「な……!……まぁ、アカツキ様がそうおっしゃるなら、いいですけど……。あのバカも、たまにはいい仕事をします」
「どうかしたか?」
「い、いえ、何でもありません。えっと……ほ、本当に、似合っているのですか?」
「ああ、少なくとも、俺はそう思う。信じられないなら、感想を四百文字でまとめてやろうか?」
「け、結構です!……でも、ありがとうございます。うれしいです」
まぁ、そんなわけで。少しの事件はあったものの俺の神話世界ライフの始まりは、おおむね良好……とはいいがたいが、とにかく始まったのだった。
それじゃあ、モンスターを狩りに行きますかぁ……と、出発しようとしたとき、視界の隅に、電話の受話器を模したマークのアイコンが浮かび上がり、リリリリ……と、ベルが鳴り始めた。
なんだなんだとそのマークに視線を向ける。すると、マークは俺の目の前にでパソコンの画面ほどの大きさに広がった。そこに映し出されたのは……。
『あ、お兄ちゃん!もう、今どこにいるの?待ってるんだからね!』
頬を膨らました、妹様の顔だった。
ユリィさんが仲間になった!妹ちゃんが表れた!
次回からは、もっとゲームっぽくなるかなぁ……。なるといいなぁ……。
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