7 称号と白百合の姫 あの…………はた迷惑はっ!
称号説明&アカツキ君最初の仲間が出てきます。
兎さんを惨殺したら、このチュートリアルも終了だ。これでユリィさんとお別れだと考えると、悲しい。やっぱり、美少女とのつながりってのは男にとって、何物にも代えがたい宝物だからね。
「そういえばだけど、ユリィさん。称号ってこれ、どうやったら効果とか見れるんだ?」
「称号ですか?……ああ、特殊種族の称号のことですか、それならステータス画面でその項目を二回タップすれば確認できますよ」
うーん、我ながら未練がましいといいますか……。まぁ、聞きたかったことなのでいいか。
ユリィさんの教えてくれた通りにステータスを開き、称号の部分を見てみると……あれ?称号が増えてる?さっきステータスを開いたときは、[叡智の宝石]と[白百合姫の主]の二つだったのだが……。[挑戦者]というのが増えている。一体いつ増えたのかと思って、ログを見たところ……。あのドラゴンに踏みつぶされた後だった。……気になりはするが、順番に見ていこう。
[叡智の宝石]
ユニーク種族、カーバンクルをランダムで引き当ててしまった不幸で幸運なものに与えられる称号。カーバンクルの種族スキルをスキル枠を消費せずに使える。この称号をもつものが他のプレイヤーに倒されると、そのプレイヤーには通常のPKで得られる経験値の十倍の経験値が得られる。
使用可能スキル
[叡智][宝石喰らい][幻獣化]
[白百合姫の主]
白百合姫の主と認められたものに与えられる称号。白雪姫をパーティーに参加させられる。その際、パーティー枠を消費しない。なお、白百合姫はこの称号を持つプレイヤーと行動を共にすることになる。
[挑戦者]
勝てないとわかっていても圧倒的な強者に挑んで負けた蛮勇をたたえる称号。負けた相手と再戦し、勝利するとこの称号は消える。この称号を持つプレイヤーは取得経験値が1.3倍になる。この称号を持つプレイヤーはパーティーを組めなくなる。
ついでに、[叡智の宝石]のスキルも見ておこうか。それにしても、二つ目の称号が意味不明だった。白百合姫?NPCか何かか?まぁ、[叡智の宝石]の説明テキストみたいにふざけてないからいいけど。てか、ほんと誰だよこのテキスト書いたの?たぶんカーバンクルをいたずらで組み込んだ開発者とやらだろうけど……。
[叡智]
それは古代より積み上げられてきたもの。知識の結晶。アイテム、装備、遭遇経験のある魔物、スキル、魔法、アーツの詳細な情報を閲覧できる。
[宝石喰らい]
宝石アイテムを喰らうことでステータスが上昇する。宝石の種類によって上昇するステータスは異なる。上昇率は、極小は千個で1。小は五百個で1。中は百個で1。大は十個で1。極大は一個で1。
[幻獣化]
幻獣としての本来の姿を取り戻す。ステータスが変動する。特殊魔法【クリスタルレイド】、【ジュエルリフレクション】、【ダイヤモンドレイ】を使用可能。スキル使用後、24時間はこのスキルを使用不可能。
うん、さすがにデメリットが激しすぎる種族。デメリットを帳消し……にできるかはわからないけど、かなり大きなメリットがある。特に[叡智]はかなり役に立つスキルだろう。[宝石喰らい]は宝石が見つからない限り意味がないけど、宝石を手に入れることができるようになれば、かなり強力なスキルだろうし、[幻獣化]は切り札となるスキルだ。いざというときに使えばいいだろう。
[挑戦者]の称号は、あのドラゴンを倒すまで有効なのか。経験値増加の称号なんて、なんかチートっぽいけど、パーティーを組めないって言うデメリットは痛い。沙綾と一緒にプレイできなくなるじゃないか。このゲームでの最初の目標は、あのドラゴンを倒すことだな。
そういえば、なぜあのドラゴンは召喚で呼ばれたのだろう。そもそもあのドラゴンは何だったんだ?ユリィさんのミスっていう可能性もあるけど……。聞いてみるか。
「最初に私が召喚したドラゴンですか?あのドラゴンは、いわゆる徘徊型の隠しボス、みたいな扱いでして、たまたまファスト周辺の空を飛んでいたみたいなんです」
「それを、運悪く引き当ててしまった……と?」
「はい、そういうことになりますね……。まぁ、私がランダム召喚にせずに指定召喚にしておけばよかったんですけどね……」
「もう気にしてないって言ったはずだぞ?それに、あのドラゴンのおかげで[挑戦者]っていう称号も手に入った。悪いことばかりでもない」
「[挑戦者]と言いますと……ああ、あのボッチ専用みたいな効果の……。アカツキ様は、ご友人はいらっしゃらないのですか?」
「まぁ、今の学校ではボッチだな。でも、妹と一緒にこのゲームを遊ぶ約束をしていたんだ。それが守れなくなるのは、すごい罪悪感なんだよな……。あぁ、沙綾のやつ、一緒に遊べるの楽しみにしてたのに……。こうなりゃ、さっさとあのドラゴンを倒せるくらい強くなって、見つけ次第ぼこぼこにするしかないな……」
「ボッチ何ですか?……一応、あのドラゴンはレイドボスという扱いなのですよ?かなり困難だと思いますが……」
「そんなもの、どうにかするしかない」
そう、沙綾と一緒にこのゲームを楽しむためにも、あのドラゴンの抹殺は最優先事項。あの尋常じゃない感じから見ても、簡単に倒せるとは思わないが……。ほんと、何とかするしかないな、うん。
「まっすぐですね、アカツキ様は。芯が通っているといいますか……自分というものをしっかりと持っている。そんな感じがします」
と、ユリィさんは、どことなくまぶしそうな雰囲気でそういった。どうしてだろうか、その姿が悲し気に見えたのは。
「ユリィさん……?」
「いえ、失言でした。忘れてください。……それでは、これでチュートリアルを終了します。あなたはこれから、『神話世界オンライン』の舞台であるディストピアへと転送されます。かの地に足を付けた瞬間から、あなたの運命は始まります。……アカツキ様。アカツキ様は、ほかのプレイヤーよりも、過酷な運命にその身を置かれると思います。……いえ、確実にそうなるでしょう。しかし、運命に飲み込まれないでください。アカツキ様自身が選び取った運命を歩んでください。広大なこの世界で、あなただけの物語を紡いでください」
ユリィさんは、祈りをささげるように手を組むと、静かに瞳を閉じた。彼女の美貌と合わさって、それはまるで、神話の一ページのようだった。清らかで神聖な気配が漂ってくるように感じた。
「それでは、お別れです。短い間でしたが、あなたとみたいな人を知ることができて、うれしかったです」
「それは、俺もだ。ユリィさんみたいな、美少女で優しい人と出会えてよかったと思うよ」
「ふふっ、ありがとうございます」
ユリィさんは、口元を緩めて、小さく微笑んだ。その微笑みは、さっきみた笑みとは違い、どこか影があるものだった。
「…………時間ですね。それでは、あなたの運命が、幸福に満ちたものでありますように……」
ユリィさんがそう言って、小さく指を鳴らした。俺の視界から、彼女の姿が薄れていく。まわりの闘技場も空気に解けるように消えていった。それと同時に、俺の意識も薄れていき………。
気が付けば、木々の生い茂る森の中に、ぽつんと立っていた。どうやら無事に、ファストの町以外のところに飛べたようだ。
「へぇ………ここが、ディストピアか……」
何気なしに、近くの木に近づいて、その幹に触れてみる。手のひらにかんじる、木の皮のごつごつとした感触。幹から伸びる細い木の枝をつかみ、力を入れてみれば、ぽきりと折れた。折れた木の枝の断面も、現実のものとそん色がない。枝についた葉っぱには、きちんと葉脈が通っていた。それどころか、木特有の香りまで漂ってきて……。
肌に触れる風の感触、足元をくすぐる草の感触。葉の隙間から感じる太陽のまぶしさ。そのどれもがリアルで、本当に異世界に迷い込んでしまったかのようだった。
「さて、とりあえず沙綾に連絡するかな……はぁ、なんて説明しよう……」
「…………ん、んぅ…」
「……え?」
リアルなゲームの世界に驚きながら、妹への説明の仕方を考えていると、茂みの奥から、人の声が聞こえた。まさか、もうフィールドに出てきたプレイヤーがいるのか、もしくはNPCか。あるいは人型のモンスターという可能性も………。
だが、茂みの奥にいたのは、そのどれでもなかった。
軍服を改造したようなデザインの漆黒の服。人形のように整った顔立ち、そして日の光を浴びてきらめく純白の髪。
円形状に木が生えていない広場のような場所、陽光がスポットライトのように照らす中、静かな寝息を立てていたのは……。
「ユリィ……さん?」
「…………ん……ふあぁ」
俺の声に反応するように、眠っていたユリィさんが、うっすらと目を開いた。そして、億劫そうに体を起こすと、女の子座りをして、握った手で目元をこすった。クールな無表情っ娘がこういう幼い感じのしぐさをするのは、めちゃくちゃ萌える……じゃ、なくて!
なんでユリィさんがここにいるんだ!?チュートリアルは終わったし、さっき完全に別れの挨拶的なことをしたはずなんだが………。
俺が驚きのあまり硬直していると、まだ寝ぼけ眼なユリィさんの瞳が、木の陰から体を半分だけだして様子をうかがっていた俺をとらえた。
「あれ………アカツキしゃま…?…………………へ?」
ぼーっと俺のことを見つめていたユリィさんの瞳に、だんだんと輝きが戻ってくる。それと同時に、その瞳には困惑が浮かんでいった。
「え、え、な、なんで私……。というか、ここはいったい……。それに、なんでアカツキ様が…………?それに、ね………寝顔……みられ、た?」
大混乱といった様子のユリィさん。あまりの慌てっぷりに、逆にこちらの混乱が収まってきたくらいだ。パラドックス技法とかいったっけ?
幾分か冷静になった頭で考える。なぜユリィさんがここにいるのかを。
何かのバグ?いや、ユリィさんは重要なAIっぽいし(というかAIかどうかも定かではない)、バグでここに飛ばされる、みたいなことがあるのだろうか?狙いすましたように俺のそばに………。ん?なんか今引っかかったぞ?俺のそば……?ユリィさんも俺も、あの闘技場のようなところにいて、そこから飛ばされてここにいる。言い換えれば、行動を共にしているということに……。
行動を、共に……?
その言葉を、俺は少し前に見た気がする。それは……そうか、[白百合姫の主]の称号でだ!
ちらりと、まだあわあわしてるユリィさんを見る。純白の髪、整った容姿、慌てている姿は、威厳あるチュートリアルの時と違って、無垢なイメージがする。
無垢……それは、ユリの花言葉。ここまで要素がそろってしまうと、もうそれが答えとしか思えなくなる。
「ユリィさん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「ふぇ!?あ、えっと、は、はい……」
努めて優しくそう声をかけると、あわあわしていたユリィさんも、少しは落ち着いてくれた。よし……。
「もしかして、ユリィさんって、白百合姫とか呼ばれてないか?」
「……え?どうしてアカツキ様が、そのことを……?」
「ビンゴかぁ……。えっと、実は……」
困惑の表情を強くしたユリィさんに、いつの間にか引っ付いていた[白百合姫の主]の称号のことを、ステータスを見せながら説明する。
俺の説明の聞くにつれ、ユリィさんの表情はどんどん無になっていき、剣呑なオーラをまとい始めた。一通り説明が終わると、ユリィさんは、プルプルと震えながら、うつむいていた。
「あ、……あの………………」
「あの?」
小さく何かをつぶやいていたかと思ったら、いきなりがばっと顔を上げ……。
「あの………………はた迷惑はっ!」
そう、静かな怒りのこもった声を上げるのだった。
出てきますといいましたけど、とっくに出てきている人でした。
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