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不幸で幸福な仮想世界で 『神話世界オンライン』  作者: 原初
ゲームの始まりと白きメイド
6/62

6 ドラゴンとチュートリアル終了 こ、こいつ、直接脳内に……!?

連続更新、四日目です。昨日も言ったように、今週は一日一話で頑張ります。

「それでは、最終チュートリアルに入りましょうか。最終チュートリアルでは、実際にモンスターと戦闘してもらいます」

「お、いいねいいね、待ってました!」


 ついに戦闘である。アーツや魔法もしっかりと発動したし、何とかなるんじゃないかと思う。まぁ、生まれてこの方、取っ組み合いの喧嘩なんてほとんどしたことがない。中学のころの友人の家が道場だったので、そこで何度か組手モドキをしたことがあるが、戦闘経験というほどでもない。なので、不安かどうかと問われたら、正直不安である。


「そんなに緊張されなくても大丈夫ですよ。戦うモンスターは始まりの町、ファストの周辺に出てくる雑魚モンスターですから。よほどのことがない限り、負けることはありませんよ。それに、この空間では戦闘不能になってもデスペナルティもなく、差し上げた身代わりの依り代がなくなることもありません」

「あ、そうなんだ。なら、ちょっとは気が楽になるな。ありがとう、気を使ってくれて」

「い、いえ…………やはり天然。それも、たちの悪いタイプですね」


 ん?最後のほう、何か言っていた気がするけど……。まぁ、聞こえなかったってことは、こちらに聞かせる気がなかったということだろう。それを掘り返したりするのはよくないことだよね。うん。


「そういえば、このゲームのデスペナルティってどのくらいなんだ?」

「デスペナルティは、所持金の半分のロスト。それと、三十分間、ステータス半減に、アーツや魔法の使用が封印されます。アイテムや装備をロストすることはございませんので、そこはご安心ください」

「……少し、気になったんだが。死に戻りになると、街に強制的に転送されるんだよな?」

「ええ、そうですけど………………あっ!」


 そう、そうなのだ。死に戻りは、最後に訪れた町、または、セーブポイントに設定した町に飛ばされる。


 では、街に入ることのできない俺は、いったいどうなってしまうのだろうか?


 死に戻りと同時に町に転送され、そしてそこで討伐される。また死に戻りとなり……以下、エンドレス。なーんてことになる可能性もあるわけで……。


「というか、チュートリアルが終わったら、街に転送されるんだよな?その時点で俺、積んでる気がするんだけど……」

「確かに……。ちょっとあのゴミく……開発者に問い合わせてみます」


 そういうと、ユリィさんは右手を耳に当てた。さっきも見たポーズだ。それにしても、カーバンクルという地雷を仕込んだ開発者というのはいったいどんな輩なんだろうか?できることなら、一発ぶん殴ってやりたい、【剛拳】込みで。


 ユリィさんの話もまだ終わりそうにないし、少し魔法やらアーツの練習でもしておくかな。


 戦闘のイメージトレーニング的なことをして時間をつぶしていると、仮想敵を三体ほど倒したところでユリィさんが耳から手を離した。そして、とても疲れた様子でため息をついた。


「どうかしたのか?」

「いえ、あのゴミクズとの会話は、本当に体力を使うので……。ああ、でも安心してください。チュートリアルの終了後、アカツキ様だけはファスト近くのフィールドに飛ばされるそうですので。そして、死に戻りポイントは、最後に亜空工房を使ったところ、となっているようです。ったく、何でそういう重要なことを説明しないんですかね、あのキチガイは……」

「そ、そうなのか……。安心したよ」


 うん、開発者とやらの話題に触れるのはよしておこう。ユリィさんの精神が参ってしまう。ほんの五分ほどしか話していないはずなのに、全力疾走した後みたいになってるし……。ホントに、どんな人なんだ?その開発者って人は……。


「そ、そうだ、そろそろ最後のチュートリアルを始めないか?イメージトレーニング的なことはしてみたし、そろそろ実戦というものに触れてみたいなーっと」

「……そうですね、では、ファストの周りのフィールドから、ランダムにモンスターを召喚します」


 ん?ちょっと待て、なんか今、嫌な言葉が聞こえたような……。


 俺のそんな嫌な予感など気にせずに、ユリィさんの万能指パッチンが炸裂し……。


 闘技場全体が、魔法陣に覆われた。


 学校の運動場くらいはある闘技場を目いっぱいに広がった魔法陣は、強い光を放ちながら、くるくると回転を始めた。幾何学模様が光の線を複雑に描き、場を、何か圧倒的な気配が支配していった。


 魔法陣の放つ輝きはどんどん大きくなっていき、すぐに目を開けることができなくなっていた。しばらくの間目を閉じていたが、やがて光は収まり、まぶしさを感じなくなった。


「い、いったい……何が…………」


 起きたんだ。そう続けようとして、失敗する。なぜか、目の前に先ほどまではなかった壁ができていた。いや、壁じゃない。動いている。鱗のようなものに覆われている壁のようなものは、確かに動いていた。


 恐る恐る視線を上に上げていく。鱗の生えた巨大な体は、闘技場を半分以上覆うほどで……。


「……………………マジ………かぁ」


 それの正体を、俺は知っていた。


 それは、ファンタジーの象徴。絶対的な力の化身。数々の神話にその名を刻む超越者。


 蛇を起源とし、堅牢な鱗に覆われた体を持ち、蝙蝠のような翼で大空を翔る。凶悪な牙の並ぶ口からは火炎を吐き出し、視線だけですべてを押しつぶす。圧倒的な強者の風格をまき散らす存在が、俺の前に降臨していた。


 ―――――ドラゴン。


 そうとしか表現できない生物が目の前にいた。漆黒の鱗をもち、強靭な後ろ脚で大地を踏みしめ、トカゲに似た顔は遥か高くにある。観客席に届くような翼は二対四枚。それが動くたびに暴風がまき散らされる。


 燃え盛る炎のような灼眼は、冷たい輝きを宿しながら俺を射抜き、吐息を吐くたびにチリチリと炎が見えていた。


 ドラゴンは、ジロリとねめつけるような眼差しをこちらに向けた。


『……どこだ、ここは?』


 こ、こいつ、直接脳内に……!?って、ネタに走っている場合じゃない!どうなってんだこの状況は!?始まりの町の周りには、こんなラスボス感があふれまくりのドラゴンがわんさか出てくるのか!?


『矮小なる人の子よ。何故、我を呼び出した。大空を飛び回ることを何よりの娯楽とする我の飛行を邪魔したからには、それ相応の理由があるのだろうな?』

「………え?ちょ、ちょっと待て!いや、待ってください!あなたをここに呼び出したのは、俺じゃない………って、あれぇえええええ!?」


 隣を確認してみると、そこにいたはずのユリィさんはいなくなっていた。どこに行ったのかとあたりを見渡してみるも、どこにもその姿はない。


 そこから導き出される結論は一つ………。



 ――――――――――逃げやがったなっ!?



『……ふむ、何かの手違いがあったということか?まぁいい……どちらにしろ、この怒りのはけ口になるのは、お前だからな』

「……くっくっくっ、上等だこのトカゲ野郎!こうなりゃもう自棄なんだよ!かかってこいやァアアアアアアアアアッ!!」


 もう逃げ道はない。どっちにしろやられるなら、一発くらいはぶん殴ってやろう。たしか、そんな感じに思考を狂わせながら、俺はドラゴンに特攻を仕掛けた。え?それでどうなったかって?


 そんなの……。


『ふんッ』

「うわぁああああああああああああああああああ!!」


 クシャっという感じで、踏みつぶされた。ちょっと足元に虫がいました。見たいな雰囲気でぺちゃんこにされたのであった。


≪アカツキは、称号[挑戦者]を手に入れた≫



 ………………………。

 …………………………。

 …………………………………。


「……………………んっ」


 どうやら、気を失っていたようだ。少しぼーっとする頭で、自分の置かれている状況を思い出そうとする。


 えっと、確か………あ、そっか、ドラゴンに踏みつぶされたんだったっけ?始まりの町の周辺のモンスターを召喚するって、ユリィさんが言ってたのに…………そういえば、ユリィさんは?


 と、今更ながらに後頭部に何やら柔らかい感触があることに気が付いた。それに、俺の頭を誰かの手がなでている。その誰かの正体を確かめようと、瞼を開くと……。


「あ」

「お、おはようございます。アカツキ様……」


 すぐ近くに、ユリィさんの顔があった。ユリィさんは俺の顔を見下ろすような位置にいて、俺からはユリィさんの手にすっぽり収まりそうな美乳と無表情な美貌が見えた。まてよ?ということは、この後頭部に感じているこの感触、そしてこの視覚情報から考えるに……。


「ひざ、まくら?」

「あ、あの、その……そう、です」


 恥ずかしそうに頬をそめ、ちょっとだけ眉をひそめたユリィさんがめちゃくちゃ可愛い……というのは置いておいて、どうしてこんな状態になっているんだ?


「えっと、その。私の不手際で、アカツキ様をいきなり死に戻りさせてしまったので……。私はびっくりして緊急転移で逃げましたし……。お詫び…のようなものです。本当に、すみませんでした」


 しおらしい様子でそう謝罪するユリィさん。なんかそういう態度をとられると、文句の一つを言うのもはばかられるというか……。それに、この様子だとユリィさんも予想外のことだったらしい。それを責めたりするのはちょっと、ねぇ……?


 ドラゴンに殺されるという、人生初の体験をしたけど、俺はその程度でへこたれるほど弱くはない。それに、ドラゴンには恐怖より憧れとかそういった感情のほうが大きいからな。どんなファンタジーゲームにも出てくるドラゴン。それをこんなに間近で見ることができたんだ。逆にラッキーだったといっても問題ないだろう。


「別に、俺は気にしていない。そりゃ、ドラゴンがいきなり出てきたのはびっくりしたけど、それだけだ。こうしてユリィさんの膝枕を堪能できている時点で、プラスマイナスゼロ……いや、普通にプラスだな。うん」


 俺がそう言うと、ユリィさんはあっけにとられたように少しだけ目を見開いていたが、やがて……。


「ふふっ、なんですか、それ。アカツキ様は、どこかおかしいです」


 と、柔らかな微笑みを浮かべた。


 ずっと無表情で、本当に少ししか表情を変えなかったユリィさんの笑顔は、目が離せなくなるほど魅力的だった。


 これ以上、その笑顔を見ていると、顔が赤くなってしまいそうだったので、精神力を総動員して視線をそらし、体を起こす。


「じゃ、じゃあ、もう一回モンスターを召喚してもらっていいか?さくっと倒してチュートリアルを終わらせてやるよ」

「はい、わかりました」


 機嫌のよさそうなユリィさんの万能指パッチンで召喚されたのは、兎のような、いかにも雑魚ですというモンスターだった。ユリィさんの笑顔を見てこみあげてきた熱を発散するように、【重蹴】で空中に蹴り上げ、【風刃】×5で切り刻んで倒した。八つ当たりみたいになってごめんよ、兎さん。

ドラゴンドラゴン言っていますが、ちゃんと名前はあります。



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