2-30 精霊世界と人の禁域 アカツキちゃん、その言い方は身もふたもないと思う
精霊世界。
それは竜と並ぶ上位存在である精霊が住まう世界。ディストピアと寄り添うようにしてある亜空間に存在しているらしい。今回のイベントは、その精霊世界……つまり、特殊フィールドを探索すること。
精霊世界にしか存在しないモンスターや素材アイテムもあるらしい。その素材から作れるアイテムも特有のものになるそうだ。また、精霊世界の固有モンスターは経験値にブーストがかかっており、レベル上げがはかどりそうだ。特殊フィールド内はプレイヤー同士の戦闘も解放されている。
特殊フィールドでHPがゼロになると、ディストピアに戻されるらしい。死に戻り=イベントからの脱落ということだ。結構厳しいな。
イベントの開催期間だが、ゲーム時間で三時間ほど。特殊フィールドではゲーム時間からさらに時間を加速させて、ゲーム時間の三時間を十倍の三十時間に引き延ばすらしい。何でもありだなオイ。どういう技術が使われているのやら。
そして、このイベントには二つの目玉が存在する。
一つは、精霊との契約。
精霊は俺らプレイヤーよりも上位の存在。だが、竜と違って下位存在をゴミクズみたく思っているわけではない。なので、精霊と友好な関係を結ぶことができれば、精霊と契約を結ぶことができるようだ。
契約と聞いても魔法少女くらいしか思い浮かばなかった自分の残念さは放っておくとして、この契約というものは、基本的にメリットしか存在しないものらしい。戦闘中に精霊が手助けしてくれたり、ピンチの時に回復してくれたり、生産の成功確率が上昇したり。どこぞの小動物とは違うらしい。
もう一つは、精霊の加護を受けた特殊な武器。
属性武器とか魔法剣とかそんな感じの武器が、精霊世界のいたるところに隠されているらしい。スキル付きの武器を誰でも手に入れることができるチャンスがあるということだ。本数はそんなに多くないそうなので、争奪戦になりそうである。
送られてきたイベントの情報は大体そんな感じだった。精霊なんてファンタジー感あふれるものを主役にしたイベントなのに、プレイヤー同士の戦闘解放とか、数量限定の特殊武器とか、殺伐とする展開が容易に想像できる。
「へぇ、簡単に言えば、お助けキャラゲットとレアアイテムゲットのチャンス。それができなくても、特別な素材を手に入れることができる。そういうイベントなのか」
「アカツキちゃん、その言い方は身もふたもないと思う。それにしても、精霊かぁ。どんな子たちなのかな?」
「こういう場合って、動物型より幻獣型が位が高くて、さらに人型になると最高位。みたいなお約束あるよな。このゲームでもそうなのか?」
「どうなのでしょう……? それより、精霊との契約です。私たちはパーティーが組めませんから、精霊という戦力が増えるのは喜ばしいことです。この機会を逃す道はありませんよ」
「え? パーティーが組めない……?」
「あー……。説明すると長くなるんだが……。まぁ、なんやかんやあってそうなったんだよ」
「さ、流石にその説明は適当過ぎるのでは……」
「なるほど! そうなんだ。大変だね」
「ちゃんと理解してるっ!?」
イベントの説明を大体は把握したので、メッセージの最後に書かれている『参加しますか?』の下にあるコマンドを押す。もちろん『YES』だ。
このイベントで俺が狙うべきは精霊との契約、その一点だけだ。ユリィのいう通り、パーティーを組めないというデメリットがある以上。レベル上げと装備のグレートアップ以外の戦力向上手段を見逃す手はない。素材の回収ももちろんするが、メインはそれで行こうと思う。精霊の加護を受けた武器? ハハッ、数量限定とか銘打つものを俺みたいな超絶不幸人間が手に入れられるとでも? そうじゃなくとも俺は武器を使わないし、ユリィの武器にしたってクロさんに作ってもらった一級品がある。血眼になって探す必要はない。
《それでは、プレイヤー、アカツキ、ユリィ、リルを精霊世界へと転送します》
そんなアナウンスと同時に、俺たち三人の足元に魔法陣が展開される。こういう無駄なところに力を入れるスタイルは結構嫌いじゃなかったりする。
魔法陣は光を放ちながら回転を始める。くるくると魔法陣に書かれている模様が見えなくなるくらいに回転速度が速くなったところで、光が強くなり視界が塗りつぶされる。強烈な光に思わずギュッと目を閉じた。
そのまま数十秒の間、目を閉じていたが、鼻孔をくすぐる甘い香りに目を開く。
――――視界に広がったのは、色とりどりの植物が生い茂る、密林のような場所の光景だった。
「へぇ……ここが精霊世界かぁ……」
確かに普通のフィールドとは何もかもが異なるようだ。近くにあった素材アイテムと思わしき草を採集し、アイテムボックスに放り込む。
【素材アイテム】精霊草
これが精霊世界の特別な素材アイテムの一種だろう。錬金術でいじくったらどんな効果があるんだろうか?
それにしても……。赤、黄、青。色とりどりな草が生えている。こういう素材を採集するだけでも楽しそうだ。
「ねぇねぇ、ユリィちゃん。なんでアカツキちゃんは一心不乱に草をむしってるのかな?」
「さぁ? 食べるんじゃないですか?」
「食べねぇよ! てか、ユリィは何してるかわかってるだろ!」
全力で突っ込みながら後ろを振り返る。そこには不思議そうな顔で俺を見るリルと、悪戯っぽい笑みを小さく浮かべたユリィがいた。
リルと一緒のユリィは、どうも悪戯が多いような気がするんだが……。あれか? リルの無邪気な雰囲気に充てられて、ユリィのお茶目な一面があらわになったのか?
「まったく……。俺は[錬金術]のスキルを持ってるから、こういう素材を集めてるんだよ。せっかくだし、取れるだけ取っておきたいんだよ」
「そうだったんだ。でもでも、素材集めは移動しながらでもできるし、いろんなところに行ってみようよ!」
「ふふっ、リルさんの言う通りですね」
「はぁ、わかったよ。でもリル。俺らと行動しても大丈夫なのか? 一緒にイベントを回る約束をしてるプレイヤーとかいないのか?」
「……リル、このゲーム初めてすぐ位に親衛隊にからまれたから、友達関係のプレイヤーとか、いないの」
「……すまん」
陰った表情のリルに、深々と頭を下げる。人には触れてはいけない領域というものがあるのだ。それを忘れてはいけない。
こうして、序盤から躓きがちな俺たちのイベントが始まったのだった。
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