2-29 ヒーローとイベント始動 リルにとっては……ヒーローだよ
少し更新を止めてしまいました。申し訳ございません。
いよいよイベントです!
「いや、いきなり悪かったな、リル。ユリィも俺に言われてやったことだし、その辺で許してやってくれ」
二人の淫靡な絡み合いが終息したのを見計らって、声をかける。ユリィがなんか人様に見せられないような顔になっているけど……うん、気にしない方向で。
「……あーかーつーきーさーまー…………」
……ユリィから向けられる恨めしげな視線も気にしない方向で。あとで全力で謝ろう。
リルはユリィをいじくりまわしたことで多少溜飲が下がったのか、少し頬を膨らましているだけだ。俺のほうをジトッとした目で見ている。
「それで? アカツキちゃんはどうしてこんなことをしたのかな? 事と次第によっては………」
「いや、怖いことを言わないでくれ。……まぁ、ちょっとしたおせっかいだよ。せっかくのリルのゲームをあんな奴らが邪魔しているのを見て、どうにかしたくなった。それだけだ」
「……ふぇ? そ、それだけなの? ……で、でもでも、それだとアカツキちゃんたちが恨まれたりするかも……」
「ん? まぁ、そうかもな。でも、俺もユリィも『やっちまった』とか『助けなきゃよかった』なんて全然思ってないぞ? なぁ?」
「ええ、献身的なメイドを見捨てる酷いご主人様には物申したいことはありますが、リルさんを助けたことに対する後悔は全くありません」
ユリィ、すっげぇ根にもってやがるな。これは早急に何とかしなくては……。
「べ、別に見捨てたわけでは……。そ、それにあれくらい女の子同士のスキンシップの範疇じゃないのか?」
「……私、親しい同性の友達ができたのなんて、ごく最近ですから……」
「…………すみません」
これは無自覚に地雷原でシャトルランをしていたようだ。マジヤべェ。な、何かこう、会心の一手のようなものは…………。
と、俺がみっともなくユリィへのご機嫌取りを考えていると、リルはなぜか俺とユリィにキラキラとした視線を向けてきていた。
「す、すごい……。アカツキちゃんもユリィちゃんも、そんなに可愛いのに、すごくかっこいい……」
「可愛いって一言がなけりゃ、すごくうれしいセリフなんだが……」
「アカツキ様……あきらめましょう?」
「く……ここぞというときにやり返してきやがって……」
ユリィがだんだんとしたたかになってる気がする。気のせいだと思いたい。
尊敬やらなんやらが多大に含まれていそうなリルの視線。どうにかしてやりたいとは思ったが、ほとんど思い付きのような行動をした俺にとっては、その視線は少々まぶしすぎるもので……。
「リルも、そんなに褒めなくてもいいんだぞ? 俺がやったことは、はたから見たら拉致誘拐みたいなもんなんだから」
「……メイドを使って聖女をさらう。まぁ、それだけ聞いたらただの悪役ですよね」
「いうな、ユリィ。他のプレイヤーに見られていないことを祈るばかりだ」
「アカツキ様って、時々考えなしで短絡的な行動に出ますよね」
「そ、そんなことないよ! アカツキちゃんもユリィちゃんも、リルにとっては……ヒーローだよ」
そう、真剣に、まっすぐ言葉をぶつけてくるリル。その真摯なまなざしから、彼女が言っていることは、冗談でも何でもない。――――彼女の心からの本心だということが、わかった。
正直に言えば、かなりはずい。ヒーロー扱いなんてされたことないし、それはユリィも一緒だろう。隣で頬を染めて照れているのを見れば一目瞭然だ。そして、顔が赤くなっているのは、俺も一緒だ。さっきから頬が熱い。
でも、リルのまっすぐな気持ちは、確かに、うれしかった。
だから、俺もユリィも――――笑っていた。くすぐったくて、暖かい。胸の内側をなでられたような感覚に、思わず笑みがこぼれた。
「まったく……」
「リルさん……」
ちらりとユリィと視線を合わせる。思ったことは同じ。なら、こぼれる言葉も、必然的に一緒になるってもんだ。
「「ありがとう」」
◇
「へぇ、じゃあ二人もユニーク種族なの?」
「そ、俺がカーバンクル」
「私は戦乙女です」
「そっか。リル以外のユニーク種族の人って、初めて会ったな」
「俺らもそうだよな。まぁ、特殊種族自体が少なくて、その中でユニーク種族なんてもっと少ないんだから……」
「ここでこうやって、私たち三人が集まっている状況は、かなり珍しい部類に入るのでしょうね」
他愛のない会話をしながら、三人でイベントの開始を待つ。時間的には、あと十五分ちょっとだ。
「えぇ!? 魔法ってオリジナルで使えるの!?」
「ああ。魔力操作とイメージと詠唱がしっかりとできれば、そう難しいことじゃないぞ? ちなみにリルはどの属性の魔法を覚えているんだ?」
「リルは[光魔法]と[水魔法]の二つだよ。あとあと、聖女の固有スキルで、[神聖魔法]って言うのを使えるんだ」
「[神聖魔法]……。へぇ、興味あるな」
「まさに聖女、といった魔法ですね。やはり回復魔法なのですか?」
「回復魔法と補助魔法。それに、少しだけど攻撃魔法もあるんだよ」
「万能じゃないか。それはうらやましい」
「……アカツキ様も全部できるじゃないですか」
リルにオリジナル魔法を見せてやって驚かせたり、聖女の力の一端をのぞかせてもらったり。ユリィにジト目で突っ込まれたり。
リルといると、いつも以上に明るく楽しくなるような気がするのは、彼女の天真爛漫さと純真さ故だろうか? ユリィは基本的にカワイイもの好きだから、リルのことはさっそくお気に入りみたいだけど。
そうしているうちに、時間はあっという間に過ぎ去り、イベント開始時間になる。時計の表示がゼロをふたつ映し出した瞬間、メッセージの着信を知らせる音が鳴り響いた。
二人と目を合わせ、さっそく送られてきたメッセージを開く。その先頭にかかれた文字をさっそく読み取る。
「……精霊世界へのご招待?」
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