2-28 親衛隊と強硬手段 それは作戦とは言いませんよ
いきなり現れ、俺のことを睨んできた集団は、全員青系統のカラーリングの装備を身にまとっている。この統一感のある恰好、そしてさっきのセリフからして……
「ああ、親衛隊ってやつか」
「いかにも! 我らはギルド『聖女守護騎士団』! リル様をお守りするのが使命とする者たちだ!」
『聖女守護騎士団』とか名乗っている連中は、先頭にいた全身鎧の男の声に、一斉にうなずいた。
「そうだ! 我らは常に聖女様と共にあり!」
「聖女様の美しさと素晴らしさを世に広め!」
「聖女様に近づく害虫を徹底的に排除する!」
「「「そう、それが『聖女守護騎士団』に架せられた制約なり!」」」
……どうしよう、反応に困る。
本人たちは真面目にやっているんだろうけど、はたから見たらおかしな連中以外の何物でもない。リルはこいつらのことを認めて……は、いないようだな。真っ赤になって親衛隊の連中をにらんでいる。
「もう! こういうことはやめてって、リル何度もお願いしてるでしょ!?」
「そういうわけにはいきません、リル様。リル様は特別な存在なのです。有象無象と話をする必要などありません」
「だーかーらー!」
話が通じない。そのことにリルは悲しそうな反応をした。なるほどなるほど、この状況はリルが望んだ結果ではないと。
「何というか……酷い、ですね。自分たちが何をしているのかを理解していないのでしょうか?」
「うーん、まぁ、自分たちは、『特別な存在』であるリルを守る、『特別な存在』って思ってるんだろうね。簡単に言えば自己満足。見てて面白いものじゃないな」
リルのためと言いながら、自分の欲望を満たすためだけにリルを利用しているということに、彼らは気づいていないのだろう。自分に酔っているから、『特別な存在』としているはずのリルの声も聞こうとしない。自分が正しいと信じ切っている人間ってホントめんどくさい。
「……リルさん、かわいそうですね」
「そうだな、何とかしてやりたいって思うけど……。正直、あれとかかわるのは嫌なんだが」
「親衛隊、ですか……。……殺っちゃいますか?」
「手っ取り早いけど、絶対後から面倒なことになるからな、それ」
ユリィの物騒な考えは最終手段としておこう。武力に訴える前にできることはないだろうか?
「……よし。ユリィ、ちょっと耳を貸してくれ」
「何か、思いついたのですか?」
「まぁ、そんなところ。それでなんだけど……」
ユリィにふと思いついた方法を耳打ちする。はっきり言ってろくでもないような内容だけど……。どうだろうか?
「……私のと、あまり変わらないような気がするのですが」
「問答無用でゴートゥーヘルよりはましかと。それじゃ、行くぞ!」
合図とともに、ユリィはあきれ顔で駆け出した。そのまま加速すると、いまだに親衛隊を止めようとしているリルへと突進。
「ふぇ!? ゆ、ユリィちゃん!?」
「なっ、く、来るな!」
驚き慌てふためくリルと親衛隊の男をまるっと無視して、ユリィはリルをひょいっと肩に担ぎ上げた。どうでもいいことだが、やっぱりお姫様抱っこじゃないのか。どうして俺の時ばかりお姫様抱っこなのだろう。謎だ。
何が起きているのか理解できない、といった顔をしているリルに、片手をあげて「ごめん」と伝えておく。そして、詠唱を開始。
「『爆ぜろ閃光』【白盲】」
《黒導師》となり、詠唱が短くても魔法が発動するようになった。こうやって詠唱短縮した魔法は、そのぶん魔力消費が多くなるというデメリットもある。
親衛隊の眼前で、光がはじけた。閃光手榴弾を模した魔法は親衛隊の視界を奪い、俺たちの姿を隠す。
その隙をついて、俺とリルを抱えたユリィは全力で逃走を開始。魔法で強化までして脱兎のごとくその場を離れる。
「作戦……ザ・強硬手段」
「それは作戦とは言いませんよ」
「は、速いよぉ~~~~~~~~~!!」
リルの悲鳴が後ろに流れていく。申し訳ない気持ちになりながらも、走る速度は緩めない。後ろから「まてぇい!!」と声が聞こえるけど、無視だ無視。
全力で駆け抜けること十分ほど。もう親衛隊のやつらの姿は影も形もなくなっている。ここまでくればいいだろう。ユリィに合図を出して停止した。周りを見てみると、少し先にファストの外壁が見える。ファスト周辺に戻って来たのか。
「い、いきなり何するのぉ……。リル、びっくりしたよぉ……」
へたり込んだリルが、涙目でこちらをにらんでくる。上目遣いの反則的な可愛さに、思わずドキドキした。なんだろう、この、もっといじめたくなるような小動物感は……。
へたり込んでいるリルがさすがに可愛そうだったのか、ユリィがそっと手を差し伸べた。
「大丈夫でしたか、リルさん」
「……ユリィちゃんがやったんじゃないの! うう~、仕返しだぁ!」
ユリィの手をガシッ、と握ったリル。その瞳に宿る輝きは、獲物を前にした肉食獣のそれである。
「え、あ、ちょ、リルさん!? い、いったいどこを触って……。や、やぁ!」
「それそれー! どうだー!」
「あ、謝りますから、そ、そこは……そこはダメですぅ……」
がばっ、とユリィに襲い掛かったリルが、ユリィの脇やら膝裏やら首筋やらに手をはわせる。くすぐったそうに身をよじるユリィ。喘ぐような声と、二人の美少女が淫靡に絡み合うこの光景は、何というか……いろいろと、やばい。何がとは言わないけど。
「あ、アカツキ様! 助けてくださいぃ……」
「…………がんばれ、ユリィ」
「あ、アカツキ様ぁああああああああああああああ!!! ………ひゃん!」
「ほらほら! 逃がさないよー!」
さらにヒートアップする二人。俺は絡み合う二人からそっと視線を逸らすと、視線をどこか遠くへと向けるのだった。
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