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不幸で幸福な仮想世界で 『神話世界オンライン』  作者: 原初
魔導と初イベント
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2-27 新ジョブの確認と聖女様 ……アカツキくん? …うう、違和感がすごい……

新キャラ、登場。

 安らぎの草原にて。


 ランクアップしたことによる変化を確認するため、ユリィと二人で、サイクロプスを相手に戦っていた。夜桜のみんながすでに討伐している相手だし、レベル差もかなりある。そのため、戦闘はもはやワンサイドゲームと化していた。


「――――【緋翼】」


 ユリィが作り出した隙をついて炎の翼を叩き込む。知のステータスが上昇しているのと、装備によるパワーアップで、俺の魔法の威力はかなり上昇していた。それに加え、《黒導師》にランクアップする前よりも、はるかに魔力の操作がやりやすくなっている。魔力の消費も抑えられていて、至りつくせりって感じだな。


「やあ……っ!」


 パワーアップしたのは、俺だけじゃない。ユリィもランクアップと装備の恩恵を多大に受けている。


 サイクロプスが降り下した巨大なハンマー。空気を壊しながらユリィを押しつぶさんと襲い掛かるそれを、ユリィは左の剣を軽く振るうだけで弾き飛ばした。金属同士が衝突したことによる轟音とともに、サイクロプスがたたらを踏む。


 ハンマーを弾かれたことによって、サイクロプスの体の正面ががら空きになった。サイクロプスの単眼が、驚きを隠せずに見開かれる。自分の半分の大きさもないユリィに押し負けたことが信じられないらしい。


 もちろん、その隙を逃さないユリィではない。がら空きになったサイクロプスの胴体を、両手の剣で切り裂いていく。息をつく間もない連撃がサイクロプスのHPを容赦なく削っていく。


 たまらず腕を大きく振り回すサイクロプス。剛腕の薙ぎ払いを跳躍で回避したユリィは、そのまま何度か地面をけり、俺の近くまで戻って来た。この時点で、サイクロプスの命は四分の一まで減らされていた。


「アカツキ様、きめてください」

「了解。――――【終冥】」


 発動するは、乱重力場を構成する魔法。魔法の核となる漆黒の球体を中心にした半径十メートル内の景色がぐにゃりと歪んだ。


 膨大な魔力を注ぎ込んで発動されたその魔法は、サイクロプスの巨体を容易く呑み込み、粘土細工をこね回すように歪ませる。すさまじい勢いで減っていくサイクロプスのHPがゼロになるまで、そう時間はかからなかった。


 サイクロプスは粒子に変換され、空気に解けていく。結局、俺もユリィも一ダメージも喰らわなかったな。まぁ、パワーファイター型の相手と、俺たちが相性がいいっていうこともあるんだろうけど。スピードで翻弄し、目にもとまらぬ連撃を叩き込むユリィに、遠距離火力職の俺。力が強いだけの相手に負けることはないだろう。


「うん、ランクアップの影響の確認はこれで大丈夫かな?」

「そうですね。強化率がかなり大きかったので、少し動きが雑になってしまいましたけど……。もう慣れましたので、問題ありません」


 ……いつもと寸分狂わぬ動きだったような気がするんだが? どこがどのように雑だったのか。見ているだけじゃ全然わからなかったな。流石だ。


「ちなみに、どの辺が雑になってたんだ?」

「左右で斬撃のスピードにばらつきがありました。それに、力が上がった影響で、動きの反動も大きくなっていましたので、そこで少々動きにずれが……」

「あ、うん。なんというか……すごいね」

「? はい、ありがとうございます」


 近接戦闘のことはよくわからない。俺から見たら完璧な動きでも、ユリィさんには気に入らないものだったようだ。


「さて……。イベント開始まであと一時間くらいか。どうする? いったんサーヤたちと合流するか、もう少し狩りをしてくかだけど……」

「そうですね。サーヤさんたちから連絡は?」

「メッセージは来てないな。サーヤたちも新ジョブの確認をしてるのかも」

「その可能性は高そうですね。あちらから連絡があれば、向かうとしましょう。それまでは……」


「ねぇねぇ、なんのお話してるの?」


 いきなり至近距離から聞こえてきたのは、鈴を転がしたような声。耳元にささやかれるようにして聞こえたそれに、ゾクリと背筋が寒くなった。


「……どちら様でしょうか?」

「えー、リルのこと知らないのー?」


 恐る恐る声がした方向に顔を向けると、そこにはいつの間にか、一人の少女が立っていた。俺と同い年か、少ししたくらいの少女。


 肩にかかるくらいの蜂蜜色の髪。エメラルド色の大きな瞳、柔らかそうな頬に桜色の小さな唇。文句なしの美少女だ。改造されたシスター服のような装備を着ているところからして、神官職だと思われる。作り物めいた美しさと淡い花弁のような可憐さが見事に調和している。一目見たら、どう頑張っても忘れられない―――そんな、非現実的な美貌を持つ少女だった。


「残念ながら、存じていない。よかったら教えてもらえるかな?」

「うん、いいよー。リルはリル! ユニーク種族[聖女]のリルだよ! よろしくね?」


 そういって、少女―――リルは華が咲き誇るような笑顔を浮かべた。


 万人を虜にするような笑顔。だがなぜだろう。その笑顔を見た瞬間、目の前のリルに対する警戒心が、一斉に警鐘を打ち鳴らした。


 これは………………………厄介事の予感だ!


「俺はアカツキ。で、こっちはユリィだ。よろしく、リルさん」

「ご紹介にあずかりました。アカツキ様のメイドのユリィでございます」

「わぁ、メイドさん! それにしても、二人ともすっごい美少女だね!」

「………………(くいくい)」


 ブル〇タス……お前もか!


 もはやテンプレになりつつあるこの間違い。半場投げやりな気持ちで、自分の頭上を指さす。


 リルはきょとんとした顔で、俺の頭上を凝視する。そして、みるみる内にその顔は驚愕に変わっていった。うん、予想通りの反応をありがとう。


「……おとこのこ?」

「イエス」

「ええー!! 嘘だー! こんなに可愛いのにー!」

「事実だ」


 信じられない、そうリルの顔に書いてあった。まぁ、気持ちはわからんでもない。でも、ユリィ。横でリルに同意するように首肯するんじゃない。


「……アカツキくん? …うう、違和感がすごい……」

「我慢してくれ。それで、リルさん。俺らになんか用か?」

「はっ! そうだった! アカツキくんショックで忘れてた!」


 なんだアカツキくんショックって。アメリカの株価でも暴落するのかよ。


「えっと、リルは、アカツキちゃ……くんの使ってた魔法について聞きたかったんだ」

「……呼びにくいなら、好きにしてくれ」

「そう? じゃあアカツキちゃん。それと、リルのことも、さん付けしなくてもいいよ。リルって呼んで」

「わかった、リル。それで、なんだ? 俺の使ってた魔法についてって言ったけど……」


 そう、リルに質問の内容を詳しく聞こうとした時だった。


「貴様! リル様を呼び捨てにするとは何事だ!」

「不敬にもほどがあるぞ!」

「我らが聖女様に敬意を持たんか!」


 どこからともなく現れた十数人の集団。その先頭にいた三人が、おっそろしい形相で、こちらをにらんでいた。


 ……うん、これが厄介ごとかぁ。

 

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