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不幸で幸福な仮想世界で 『神話世界オンライン』  作者: 原初
ゲームの始まりと白きメイド
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5 チュートリアル後編と魔法行使 最大火力は……ロマンだ!

今週は一日一話ずつ更新できそうです。

 錬金術工房から出た。どうやら工房の扉は一度出ると消えてしまうらしい。俺とユリィさんがドアをくぐって外に出たら、跡形もなく消えてしまった。


「しかし、外にドアだけぽつんとあったら、ものすごくシュールな光景になりそうなんだが……」

「ご安心を。中に人がいる状態では、ドアは透明になりますから」

「それなら安心か」

「はい。それでは、チュートリアル、後半戦と行きましょうか」


 ユリィさんはそういうと、毎度おなじみ万能指パッチンをした。普通じゃ出せないような高い音が鳴り響き、今度は地面に魔法陣が浮かび上がった。


 いきなりのファンタジーっぽい光景に俺が目を奪われていると、その魔法陣が光を放ちながらくるくると回転する。すると、魔法陣から人型を模した人形が表れた。案山子みたいなやつである。


「ユリィさん、それ何?」

「今から、チュートリアル後半戦を始めます。後半戦は戦闘行為のチュートリアルです。あなたの攻撃を一身に受けてくれる的が、この『ジョセフ』です」

「なぜジョセフ?」

「さぁ?開発者がそう言っていましたから」


 ジョセフ……。近づいてポスポスと触ってみる。布で包まれたのっぺらぼうさん。腕はない。服を着せていないマネキンってこんな感じだった気がする。


 まぁ、このジョセフくんがサンドバックになってくれるって言うのなら……。


「せやっ!」


 ドンッ!と右足で前蹴りを叩き込んでみる。ふむ、体の動きが現実よりもいいな。次は正拳で……。


「オラァッ!」


 ズンッ!


 うん、今のはなかなかの一撃だった。腰のひねりと突きのインパクトが一致した会心の一撃だ。


「へぇ、なかなか様になってますね。なにか格闘技の経験でも?」

「いや、アニメとか漫画で覚えた。しょーりゅーけん!」

「…………それでは、アーツの説明に入りますね」


 無視は悲しいなぁ……。


「アーツとは、近接戦闘スキルで使用することができる、MPを消費して発動させる攻撃のこと。いわば、必殺技ですね」

「へぇ、それって技名を叫ばないと行けなかったりするやつ?それはこっぱずかしいんだが」

「アーツ名を口に出して発動する方法もありますが……そんな中二病みたいな真似は恥ずかしいでしょうから、頭の中で唱えるという方法もあります。ちなみに、ステータスやメニューもこの方法で出したり消したりすることができますよ」

「そうだったのか、やってみよう」


 えっと、……メニュー………あ、本当にでた。じゃあ消えろっと。うん、消えた消えた。


 ステータスのほうでも試してみたが、無事成功した。いちいちステータスとかメニューとか口に出すのも何かなぁって思ってたんだよね。


「大丈夫そうだ」

「では、アーツのほうも試してみましょうか。格闘技スキルの初期アーツは、【剛拳】と【重蹴】です。それぞれ、発動した後の拳と蹴りの威力を上げるという効果ですね。この空間ではMPを消費しませんので、思う存分やっちゃってください」

「よぅし!覚悟しろよジョセフ!」


 ジョセフを前にして、拳を軽く握って構える。体に余計な力は込めない。半身になって、前の手を顔の前に、後ろの手は鳩尾のあたりに置く。足は軽く曲げて体を低くする。


 まずは……【剛拳】!


 後ろの足を踏みしめるようにして、強く地面をける。勢いよく飛び出してジョセフとの距離を詰める。そして、拳の届く位置まで踏み込み、足を止める。


 飛び出した勢いは、踏みしめた足を伝って上に。その力を拳にのせて……っ!


「セラッ!」


 いつの間にかオーラのようなものを纏っていた拳が、ジョセフに叩き付けられる。さっきの試しとは違う、重く低い音が響いた。


 このまま……【重蹴】!


 拳を突き出した勢いを回転に変え、背を向けるように一回転。そして繰り出すのは……後ろ廻し蹴りだ!


「せいッ!」


 ジョセフの首を、大鎌のような蹴り足が刈り取る。その蹴りにもオーラがまとわりついていたので、しっかりと両方発動したみたいだ。そして、ジョセフの首が宙を舞った。


 ドサッと音を立てて地面に落ちるジョセフの首。なんかぴくぴく動いてないか……?


「これはいったい何でできているんだ……って、おわっ!」


 細かく痙攣していたジョセフの首が、ガバッと起き上がると、うねうねとした動きでジョセフ体に近づいていった。そしてナメクジのような動きでジョセフ体をよじ登ったジョセフ首は、元の位置に何もなかったかのように収まった。気持ち悪……。


「アーツのほうは大丈夫そうですね。次は魔法を使ってみましょうか」

「ジョセフについてのツッコミは受け付けてないってことね。了解です」


 まぁ、精神衛生上、聞かないほうがいいと、頭の中で警報が鳴っている。それに、自分が殴ったり蹴ったりしたものが、得体のしれないものって言うのは……ねぇ?


「魔法というと……あれか、詠唱とかもあるのか?」

「はい、魔法の発動には詠唱が必要です。これは頭の中で唱えるというわけにもいきませんので。ああ、でも無詠唱や詠唱破棄のスキルがあれば詠唱は不必要となります」

「無詠唱に詠唱破棄……簡単には手に入らないんだろうね」

「そうですね。まぁ、今はそのことは置いておきましょうか。魔法は、ステータスの魔法スキルの説明から、使用可能な魔法の効果と詠唱を確認することができます。使用可能な魔法はスキルレベルが上がると増えていきます。では、確認してみてください」


 言われた通りにステータスを開き、確認。使える魔法は風魔法が【風刃】。土魔法が【石弾】。そして生命魔法が【癒光】だった。初期魔法ということもあって詠唱も短い。さっそく試してみましょうか。


 ジョセフから十メートルほど距離をとる。【風刃】は風の刃で相手を切り裂いてダメージを与える魔法。出る風の刃の数は変えられるが、消費MPは増やすごとに増えていくらしい。刃を一つ出すのに必要なMPは5。初期魔法らしい消費の良さだ。刃の数を増やすには……詠唱の一部を変えればいいのか。やってみよう。


「……『風よ、三十の刃となりて敵を切り裂け』、【風刃】!」


 体から何かがごっそりとなくなる感覚がして、俺の突き出した手のひらにその何かが集まっていく。


 その何かは限界までたまると、爆発するかのように飛び出し、風の刃となってジョセフに襲い掛かる。三十の刃に切り裂かれ、ずたずたになるジョセフ。


「ふっ……最大火力は……ロマンだ!」

「意味が分かりません。しかし、いきなり魔法の応用運用を成功させますか……。これって、一応中級者以上の技術のはずなんですが……」


 お、ユリィさんが驚いているじゃないか。この魔法を既存の使い方と違うやり方でやるのは、難しいことなのか?


 気になったのでユリィさんに聞いてみると、別にそんなことはないと、なぜか悔しそうに言われてしまった。何を悔しがっていたのだろうか?


 そのあと、土魔法と生命魔法も試してみた。そちらも問題なく発動することができた。【石弾】の魔法はMP量を増やすと打ち出す石の塊の大きさが大きくなった。【癒光】は、発動させたはいいが、HPが減っていなかったので手のひらをピカーっと光らせて終わった。


「ユリィさん!質問質問!」

「質問ですか……いいですよ、私の答えることのできる範囲でお教えします」

「ありがとう。で、さっそくなんだが…。魔法を使った後、体から何かが抜けていったような感じがしたんだ。それが魔力っていう認識でいいのか?」

「ま、魔力感知まで……ちなみに、その何かを自分で動かすことはできますか?」

「自分で?うーん………………お、動いた」


 体の中で、何かよくわからないものがうごめいていて、それに意識を向けると、自分の思った通りに動くことが分かった。体の中をぐるぐる回してみたり、手のひらのあたりに集めたりといろいろとやってみる。


「これが魔力?」

「………………」

「おーい、ユリィさん?ユリィさーん!」

「え、あ、は、ハイ!そうですね、いまアカツキ様が体内で動かしているのが魔力です。スキル、魔法、アーツはその魔力を消費して発動されます」

「へぇ~、そうなんだ」


 と、この時の俺は、魔力のことをさほど重要ではないものだと思っていた。こうやって動かせるのだって簡単にできたし、魔法を発動するときのMP量の調節もさらっとできた。俺ができるんだったら、ほかの人でも簡単にできるだろう、と軽く考えていたのだが……。


 このことが、大きな事件の引き金になるとは、全く持って考えていなかったのだった。


チュートリアル後編……。しかし、まだ続くんですよ……。



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