2-23 クロさん大興奮とアプデ前のひと時 お兄様がどんな非常識なことを見せてくれるか、楽しみですわ
すみません。昨日は突然ネットに接続できなくなり、更新ができませんでした。
騒動の種という扱いを受けた生命のポーション。他人の目に触れなければ問題ないだろうということで、俺とユリィ、そして夜桜のメンバー分だけ作っておいた。イベント間近だということもあり、皆からはかなり感謝された。
「と、言うわけで。ポーションを作る時に生命属性の魔力を注ぎ込んでみたってわけだ。レイカは生命魔法、習得してるか?」
「はい、けど、あまり使い勝手の良い魔法ではありませんわ。MP消費量が多いんですよね……」
「確かに攻撃魔法に比べると多いけど……。そこまでか?」
「……お兄様、もしかしてステータスを知に全振りしたりしてませんわよね?」
「ん? よくわかったな。その通り……って、どうした、そんな呆れたような顔して……」
「いえ……。なんだか、お兄様に驚かされるのに、慣れてしまったなーっと思いまして」
そんなに驚くことか? と首をかしげていたら、レイカの視線が呆れからジト目に変わっていった。うーん。
「まぁ、それは置いといて。始めるとしますか」
「……ごまかしましたわね」
レイカのつぶやきをまるっと無視して俺はアイテムボックスからあの大岩を取り出す。ドンっという音を立てながら、錬金魔法陣が刻まれた机の上に置かれる大岩。天井ぎりぎりに何とか収まっている。
……何にも考えずに乗せたけど、下手したら机とか壊れてたんじゃないか?
「……お、お兄様? これはいったい……」
「なんやかんやで拾った」
「意味が分かりませんわ」
「説明すると長くなるからな。とりあえずこれを……」
大岩の表面に手を当て、そこから魔力を流し込む。薬草の時のようにスムーズに魔力が浸透していかない。草よりも鉱物は魔力の通りが悪いのだろうか?
流し込む魔力をさらに細かくイメージする。この世界にあるかどうかはわからないが、分子の結合の一つ一つに浸透する。そんなイメージでやってみる。すると、さっきよりもだいぶスムーズになった。そのイメージを維持しながら大岩の内部を俺の魔力で満たしていく。
魔力が全体にいきわたれば準備は完了。あとは鍵言を唱えるだけ。
「―――【分離】」
錬金魔法陣が輝き、大岩を光が包み込む。MPがかなりのペースで吸われているが、まだまだ許容範囲だ。
やがて光が収まり、錬金魔法陣の上には、金属の球体と土の塊が置かれていた。さっそく【鑑定】してみる。
【素材アイテム】魔鋼の球体 品質A
【素材アイテム】魔力のこもった土 品質A
どっちも品質A。うん、うまくいった。
「よし、成功だ」
「今のは……素材の分離ですの? あの大岩を、金属と土に分けた……ということですわよね?」
「その通り。で、こっちの金属球はっと……。クロさーん」
工房を興味深く観察していたクロさんに声をかける。トテトテと近づいてくるクロさんに、金属球をはいと手渡す。
「……なに?」
「この金属球、装備の代金に追加しといて。たぶん武器に使えるんじゃないか?」
「……どれどれ。…………。……っ!」
じっと金属球を見つめていたクロさんは、しばらくしてがばっと顔を上げ、俺のほうに視線を向ける。いつもは眠たげな双眸が、今だけはキリッと吊り上がっている。職人としての顔ということだろうか?
「……アカツキ、これ、どうしたの?」
「偶然拾った」
「……魔鋼、初めて見る素材。でも、今までの金属より確実に上位の素材……。うん、私の[鍛冶]スキルでも扱える。……アカツキ、ここから出れる?」
「ああ、ドアから出れば外に行けるぞ?」
「……私は今から、この金属で武器を作りに町に戻る。アップデートぎりぎりまでこもるから、ここには戻ってこない。……じゃ、そういうことで」
言い終わるや否や工房から出ていったクロさん。いつもののんびりとした様子はどこに行ってしまったのかと首をひねるくらいの変わりようだ。
「かかかっ、クロのやつ、生産のことになるとホント熱くなるな。アカツキ、あたしもそろそろお暇するぜ。クロのやつについてやらなきゃならないからな」
「わかった。次はアップデートの後か? イベントがどんな内容になるかはわからないけど、一緒に遊べるといいな」
「ああ、そうだな。あたしも楽しみにしてるぜ。……っと、そうだ。ユリィ、また今度でいいから、手合わせをしちゃくれねぇか? まだお前さんから一本も取れてねぇからな。リベンジってことで」
「いいですよ。でも、まだそれを譲るわけにはいきませんよ?」
「かかっ、言うねぇ」
ケラケラと笑いながらシズカさんも工房を出ていく。それに付随するように、ミーナも帰っていった。この場に残ったのは、俺、ユリィ、サーヤ、レイカの四人。
「お兄ちゃんはこの後どうするの? アップデート開始までもう少ししか時間がないけど」
「そうだな……。ま、久しぶりに錬金術の研究でもするよ。最近あんまりできてなかったからな。二人はどうする?」
「私もアカツキ様の研究に付き合いますよ。当たり前です」
「わたくしもお兄様と一緒にいますわ! お兄様がどんな非常識なことを見せてくれるのか、楽しみですわ」
「非常識って……別に俺、非常識なことなんてしてないだろ?」
「「「え、自覚なかったの(ですか)?」」」
声をそろえてそういわれ、がっくりと肩を落とす。そんな俺を見て、クスクスと楽しそうに笑う三人。
こんな風に、誰かに囲まれながら何かをやるなんて、ずいぶんと久しぶりな気がするな。
笑顔を浮かべるユリィたちを見て、そう思った。
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