2-22 ご招待と生命のポーション お前さん、とんでもないモノを作っちまったな。
「……鍵、ですの? 美術品のようですわね」
レイカが首をかしげながら亜空工房の鍵を見つめ、その視線をこちらに向けた。
「この鍵でどうやって錬金術をするのですか?」
「いや、これはこうやって使うんだよ。……うん、見てる人はいないか」
ほかのプレイヤーに見られると厄介だからな。幸い、周りに人影はない。これなら大丈夫だろ。
俺はみんなに見えるようにしながら鍵を空中に突き刺し、軽くひねる。最初は俺の行動が理解できなかったのか、夜桜のメンバーは不思議そうな顔をしていたが、空間ににじみだすようにして扉が表れると、その顔を驚愕に染めた。
「え? え? なに? いきなりドアが出てきたよ!? お兄ちゃん、今度はいったい何をしたの!?」
「こりゃあ驚いた。一体どうなってやがるんだ?」
「うおおおおっ! ファンタジーーーーー!!」
「お兄様は、いちいちわたくしたちを驚かせないと気が済みませんの?」
「……ちょっとそのカギ見せて。デザインを参考にしたい」
クロさんは相変わらずのマイペースだったが、他の四人はちゃんと驚きをあらわにしてくれた。
「さ、どうぞ。五名様、ご案内です」
芝居かかった口調で扉を開け、夜桜のメンバーを中に招き入れる。全員が入ったのを確認してから、ユリィと一緒に中に入り、扉を閉める。これで外の扉は消えたはずだ。
中では、サーヤたちが思い思いに工房の中を物色していた。[錬金術]のレベルが上がったことによって、使える錬金器具が増えており、より一層カオスな空間になっている。
興味深そうに部屋を見て回っている夜桜をしり目に、俺は錬金術の準備に入る。まず何からやるかな……そういえば、夜桜にポーションを上げる約束だったよな。じゃ、そのポーションから作りましょうかね。
アイテムボックスから薬草を取り出し、机の上に並べる。[錬金術]のスキルのアーツ、【鑑定】で薬草を見ると、こう表示される。
【素材アイテム】薬草 品質A
名前の横に書かれている品質という表示は、素材アイテムのランクを示すものだ。これが高いアイテムほど、錬金術で加工した後のアイテムが高ランクになる。
取り出した薬草を、錬金魔法陣に置き、魔力を流し込む。この時、薬草の性質である回復を意識し、それを引き上げるようなイメージを思い浮かべる。
「【加工、粉砕】」
鍵言とともに錬金魔法陣が輝き、置いてあった薬草が緑色の粉になった。ポーションにするには、この状態にするのが一番適している。
薬草粉を壺からくみ取った水と一緒にビーカーに入れる。それを錬金魔法陣に置いてっと。
さて、ここで魔力を流し込み、【実行】とつぶやけばポーションになる。だが、ここはもう一段階上のモノを作りたい。
何かできることはないかとスキルやアイテムを見てみる。………うーん。
「お兄様、今は何をしているのですか? あとは錬金を実行するだけだと思うのですが……」
「その通り。でも、もう少し工夫してみようと思ってな。何かできることはないかと考えていたんだが……」
「さ、さすがですわお兄様。わたくしはまだ素材の加工まで行けず、魔力を流しては実行を繰り返しているだけですのに……」
あ、そうか。いまのレイカの言葉で、あることを思いついた。
「ありがとうレイカ。何とかなりそうだよ。さすがは俺の弟子だ」
「ふぇ? わ、わたくし何かしましたか?」
「ああ、すごく助かった」
お礼に頭をゆっくりと撫でる。いい子いい子。
俺の手の動きに合わせて、レイカの顔がふにゃっとなる。特訓の時もそうだったが、レイカをほめるときは、言葉を重ねるより、こうやって頭をなでてあげるほうがいいそうだ。ただ、犬をしつけている気分になるのはいただけない。レイカってなんか子犬っぽいというか……。
「……なぁ、レイカやつ、アカツキに懐くの早すぎじゃねぇか? あいつ、あたしたちに懐くの、もっと遅かったと思うんだがな……」
「レイカちゃん、人見知りですからねー。まぁ、お兄ちゃんのことはわたしがさんざん話してたから、初対面での警戒が薄れてたんじゃないですか?」
「……好感度がある程度たまった状態でスタートするギャルゲーみたい」
「アカツキ様が『兄』だということも関係しているんじゃないでしょうか? レイカさんは一人っ子のようですし。兄という存在に憧れていた……とも考えられます」
「お、ユリィ。なかなか鋭い推理じゃないか。それが一番近いかもしれねぇな」
……なんかいろいろ言われてる気がするけど、気にしない方向でいこう。相手にする方が大変そうだ。
「ふにゃぁ……。……はっ、わ、わたくしは何を……」
「お帰りレイカ。とりあえず、そろそろ錬金実行するから、離れてくれるか」
「わ、わかりましたわ」
レイカが離れたのを確認してから、錬金魔法陣に手を置く。初めての試みだから、どうなるかわからない。最悪、爆発とかするかも。
錬金魔法陣に意識を集中し、魔力を流し始める。変更するのはここ。流し込む魔力に生命属性を与えてみる。生命魔法は回復や治療の魔法。何かしらの変化があるかもしれない。
「……【実行】」
錬金魔法陣が普段とは違う緑色の光に輝いた。ほ、本当に爆発しないよな?
光が収まると、そこには試験管に入った、ポーションよりも濃い緑色をした液体があった。さっそくそれを【鑑定】で調べてみる。
【通常アイテム】生命のポーション HP回復+25%
生命のポーション、それが新しいポーションの名前だった。回復量は既存のポーションの二倍近い。
「よし、完成だ」
「お兄様、それは……?」
「ああ、たぶんポーションの上位互換みたいなものだと思う。ポーションの二倍くらいの効果があるのか?」
「……まて、アカツキよぉ」
俺の言葉を遮るようにして、シズカさんが話に割り込んでくる。なぜかシズカさんはひきつった顔をしていた。
「お前さん、とんでもないモノを作っちまったな。今、全プレイヤーの間でポーション不足なのを忘れたか? そんな状況で上位ポーションなんてもんを発表でもしようものなら……。それが他のプレイヤーの目に触れた瞬間、何が何でもそれを手に入れようって、暴動が起きるぞ?」
ため息交じりに告げられた言葉に、ぴしりと固まってしまった。いま、なんと? この思い付きでできたポーションが暴動の種になるとか聞こえたんだが……?
「……ほ、本当に?」
「残念ながら、な。で、どうするんだ、アカツキ」
シズカさんは呆れ交じりの視線を向けてくる。
俺はそれに対して、ひきつった笑みを浮かべることしかできなかった。
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