表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不幸で幸福な仮想世界で 『神話世界オンライン』  作者: 原初
魔導と初イベント
45/62

2-22 ご招待と生命のポーション  お前さん、とんでもないモノを作っちまったな。

「……鍵、ですの? 美術品のようですわね」


 レイカが首をかしげながら亜空工房の鍵を見つめ、その視線をこちらに向けた。


「この鍵でどうやって錬金術をするのですか?」

「いや、これはこうやって使うんだよ。……うん、見てる人はいないか」


 ほかのプレイヤーに見られると厄介だからな。幸い、周りに人影はない。これなら大丈夫だろ。


 俺はみんなに見えるようにしながら鍵を空中に突き刺し、軽くひねる。最初は俺の行動が理解できなかったのか、夜桜のメンバーは不思議そうな顔をしていたが、空間ににじみだすようにして扉が表れると、その顔を驚愕に染めた。


「え? え? なに? いきなりドアが出てきたよ!? お兄ちゃん、今度はいったい何をしたの!?」

「こりゃあ驚いた。一体どうなってやがるんだ?」

「うおおおおっ! ファンタジーーーーー!!」

「お兄様は、いちいちわたくしたちを驚かせないと気が済みませんの?」

「……ちょっとそのカギ見せて。デザインを参考にしたい」


 クロさんは相変わらずのマイペースだったが、他の四人はちゃんと驚きをあらわにしてくれた。


「さ、どうぞ。五名様、ご案内です」


 芝居かかった口調で扉を開け、夜桜のメンバーを中に招き入れる。全員が入ったのを確認してから、ユリィと一緒に中に入り、扉を閉める。これで外の扉は消えたはずだ。


 中では、サーヤたちが思い思いに工房の中を物色していた。[錬金術]のレベルが上がったことによって、使える錬金器具が増えており、より一層カオスな空間になっている。


 興味深そうに部屋を見て回っている夜桜をしり目に、俺は錬金術の準備に入る。まず何からやるかな……そういえば、夜桜にポーションを上げる約束だったよな。じゃ、そのポーションから作りましょうかね。


 アイテムボックスから薬草を取り出し、机の上に並べる。[錬金術]のスキルのアーツ、【鑑定】で薬草を見ると、こう表示される。



 【素材アイテム】薬草 品質A



 名前の横に書かれている品質という表示は、素材アイテムのランクを示すものだ。これが高いアイテムほど、錬金術で加工した後のアイテムが高ランクになる。


 取り出した薬草を、錬金魔法陣に置き、魔力を流し込む。この時、薬草の性質である回復を意識し、それを引き上げるようなイメージを思い浮かべる。


「【加工、粉砕】」


 鍵言とともに錬金魔法陣が輝き、置いてあった薬草が緑色の粉になった。ポーションにするには、この状態にするのが一番適している。


 薬草粉を壺からくみ取った水と一緒にビーカーに入れる。それを錬金魔法陣に置いてっと。


 さて、ここで魔力を流し込み、【実行】とつぶやけばポーションになる。だが、ここはもう一段階上のモノを作りたい。


 何かできることはないかとスキルやアイテムを見てみる。………うーん。


「お兄様、今は何をしているのですか? あとは錬金を実行するだけだと思うのですが……」

「その通り。でも、もう少し工夫してみようと思ってな。何かできることはないかと考えていたんだが……」

「さ、さすがですわお兄様。わたくしはまだ素材の加工まで行けず、魔力を流しては実行を繰り返しているだけですのに……」


 あ、そうか。いまのレイカの言葉で、あることを思いついた。


「ありがとうレイカ。何とかなりそうだよ。さすがは俺の弟子だ」

「ふぇ? わ、わたくし何かしましたか?」

「ああ、すごく助かった」


 お礼に頭をゆっくりと撫でる。いい子いい子。


 俺の手の動きに合わせて、レイカの顔がふにゃっとなる。特訓の時もそうだったが、レイカをほめるときは、言葉を重ねるより、こうやって頭をなでてあげるほうがいいそうだ。ただ、犬をしつけている気分になるのはいただけない。レイカってなんか子犬っぽいというか……。


「……なぁ、レイカやつ、アカツキに懐くの早すぎじゃねぇか? あいつ、あたしたちに懐くの、もっと遅かったと思うんだがな……」

「レイカちゃん、人見知りですからねー。まぁ、お兄ちゃんのことはわたしがさんざん話してたから、初対面での警戒が薄れてたんじゃないですか?」

「……好感度がある程度たまった状態でスタートするギャルゲーみたい」

「アカツキ様が『兄』だということも関係しているんじゃないでしょうか? レイカさんは一人っ子のようですし。兄という存在に憧れていた……とも考えられます」

「お、ユリィ。なかなか鋭い推理じゃないか。それが一番近いかもしれねぇな」


 ……なんかいろいろ言われてる気がするけど、気にしない方向でいこう。相手にする方が大変そうだ。


「ふにゃぁ……。……はっ、わ、わたくしは何を……」

「お帰りレイカ。とりあえず、そろそろ錬金実行するから、離れてくれるか」

「わ、わかりましたわ」


 レイカが離れたのを確認してから、錬金魔法陣に手を置く。初めての試みだから、どうなるかわからない。最悪、爆発とかするかも。


 錬金魔法陣に意識を集中し、魔力を流し始める。変更するのはここ。流し込む魔力に生命属性を与えてみる。生命魔法は回復や治療の魔法。何かしらの変化があるかもしれない。


「……【実行】」


 錬金魔法陣が普段とは違う緑色の光に輝いた。ほ、本当に爆発しないよな?


 光が収まると、そこには試験管に入った、ポーションよりも濃い緑色をした液体があった。さっそくそれを【鑑定】で調べてみる。



 【通常アイテム】生命のポーション HP回復+25% 



 生命のポーション、それが新しいポーションの名前だった。回復量は既存のポーションの二倍近い。


「よし、完成だ」

「お兄様、それは……?」

「ああ、たぶんポーションの上位互換みたいなものだと思う。ポーションの二倍くらいの効果があるのか?」

「……まて、アカツキよぉ」


 俺の言葉を遮るようにして、シズカさんが話に割り込んでくる。なぜかシズカさんはひきつった顔をしていた。


「お前さん、とんでもないモノを作っちまったな。今、全プレイヤーの間でポーション不足なのを忘れたか? そんな状況で上位ポーションなんてもんを発表でもしようものなら……。それが他のプレイヤーの目に触れた瞬間、何が何でもそれを手に入れようって、暴動が起きるぞ?」


 ため息交じりに告げられた言葉に、ぴしりと固まってしまった。いま、なんと? この思い付きでできたポーションが暴動の種になるとか聞こえたんだが……?


「……ほ、本当に?」

「残念ながら、な。で、どうするんだ、アカツキ」


 シズカさんは呆れ交じりの視線を向けてくる。


 俺はそれに対して、ひきつった笑みを浮かべることしかできなかった。


感想や評価、質問ツッコミ大歓迎です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ