2-20 謝罪と新装備 ……いい。それより、装備
「……本当に、どうしようもないな、俺は。ユリィは何も悪くないってのに、ユリィをこんなに不安にさせて。なぁ、ユリィ。こんな馬鹿なやつのそばにいるのなんて嫌だろ?」
「そ、そんなことはありません!」
「そうか? 俺は嫌だぞ? ……ユリィを悲しませてしまう俺が、嫌だ」
ユリィは、どうして俺についてきてくれるんだろうと、考えたことがある。俺なんかを支えてくれる彼女の存在が不思議で……それ以上に、うれしかった。いつも、「メイドですから」といって俺を守ってくれるユリィ。そんなユリィに、俺は何ができていた?
「もう一度言うぞ、ユリィ。俺はユリィが必要ないなんて考えたことは一度もない」
この仮想世界で俺がしてきたこと。そのほとんどが、ユリィがいたからこそできたことだ。ユリィがいなくちゃできないことだらけだった。俺だけなら、もうこの世界で過ごすことをあきらめてたかもしれないのに。
「ユリィがいなくていいなんてことは絶対にない。ユリィは、お前を傷つける俺なんて、いない方がいいか?」
「……ッ! い……嫌です! アカツキ様がいないなんて、嫌です!」
「俺だって、嫌だ。ユリィがいないなんて、絶対に嫌だ。……ごめんな、ユリィ。不安にさせて。メイドを悲しませるなんて、主人失格だな」
「私も……ごめんなさい。アカツキ様のことを疑うようなことをして。……メイド、失格ですね」
そういって、ユリィと瞳を合わせる。そして、ほぼ同時に噴き出した。
「ふふっ」
「ははっ」
小さく口元を笑みの形にするユリィ。ユリィがこういう顔を俺のそばで見せてくれている間は、何があってもユリィを悲しませないようにしよう。そう、心に誓った。
「……そういえば、アカツキ様。たしか黒の神にキスをされていましたよね?」
「え、ああ、うん……。なんか場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して消えるとか、いい迷惑だったな」
「……キスされて、うれしかったですか?」
「いや、まぁ……。突然だったとはいえ、嫌ではなかったというか……。って、どうしたんだ?」
「アカツキ様、正座」
「……え?」
「正座」
「……はい」
「いいですかアカツキ様? アカツキ様は少し無防備すぎます。アカツキ様は可愛いんですから、油断しているとどこかにさらわてしまいますよ? アカツキ様の魅力に目がくらんだ輩に汚されてしまったらどうするのですか! 黒の神がアカツキ様を見る目は獲物を狩る獣のそれでした! もう少しで食べられてたかもしれないんですよ!」
「オッケイわかった! わかったから! 俺が悪かった! てか、可愛いって言うな!」
「いえ、わかっていません! そもそもアカツキ様は……」
◇
扉を開けると、そこはうっそうと茂った森の中でした。思わず、そんなフレーズが頭を横切った。
ユリィの説教が終わり、亜空工房から出てみると、そこは黒の神殿ではなく、緑の森の一角だった。一体どうなっているのだろうか?
「これは……ナトがやったのか?」
「でしょうね。あんなふざけた態度をとっていても、最高位の魔導神です。このくらいなら造作もないかと」
「まぁ、帰り道どうしようか考えてたから、ありがたいか」
時間を見ると、あと十時間ほどでアップデートが始まるという時間だった。アップデート中は全プレイヤーがログインできなくなるので、やれることはやっておこう。
「そういえば……ユリィ、目標は達成できてるか?」
「目標……。ああ、そういえばレベル上げが目的でしたね。ほかのことに気を取られ過ぎていて忘れていました」
「え、じゃあまだランクアップできるレベルになってないのか?」
「いえ、アカツキ様が試練で倒したモンスターの経験値が私にも入っていましたので、ちゃんと35レベルになっていますよ」
「ノルマは達成か。じゃあファストの近くまで戻って……と、サーヤからだ」
ピロリン、と頭に音が響く。メッセージの受信音だ。
メッセージを開くと、サーヤらしい明るい文章が飛び出してきた。ササッと内容を読むと、どうやらクロさんの作った装備が完成したらしい。ファストの周辺で待っているとのことだった。
「だってさ。さっさと戻らないとな」
「はい。あ、急ぐのでしたら、私がアカツキ様を抱えて……」
「却下。理由は恥ずかしいから。ほら、とっとと走るぞー」
【風衣】を俺とユリィにかけ、さらに闇属性魔法の【懐枷】を発動。重力を軽減して行動のスピードを上げる魔法だ。デメリットは攻撃力が下がること。まぁ、今そのデメリットは関係ないか。
これではユリィに置いていかれてしまうので、火魔法【灼身】も使っておこう。身体能力を向上させる魔法を重ねることで、貧弱な俺のステータスでもユリィより少し遅いくらいまで底上げできる。
森を駆け抜け、草原を突っ走ること三十分。ファストの近く、夜桜のみんなと初めて会った場所に到着した。
そこにいたのは、クロさんとレイカの二人だけ。残りのメンバーは狩りだろうか?
「……来た」
「お兄様! こっちですわー」
「待っててくれたのか、悪いな」
「……いい。それより、装備」
クロさんがさっそくとばかりにメニュー画面を可視化して開いた。俺もそれにならう。他のプレイヤーとアイテムのやり取りをするときは、トレードという機能使うそうだ。
「……はい、これ」
クロさんがメニューを操作すると、俺のほうにいくつかのアイテムが送られてくる。どんな装備なのだろう。アイテムの転送が終わったのを見て、送られてきたアイテムを確認する。
【防具アイテム】魔狐のローブ 知+15 物防+7 魔法威力上昇
【防具アイテム】鉄蜘蛛糸のシャツ 物防+5 魔法威力上昇
【防具アイテム】鉄蜘蛛糸のズボン 物防+6 魔法範囲上昇
【防具アイテム】魔法使いの靴 知+4 速+4 魔法範囲上昇
【防具アイテム】マジックグローブ 知+6 MP回復速度上昇
【アクセサリー】蒼玉の腕輪 知+5 器用+4 MP回復速度上昇
【武器アイテム】対剣・比翼 力+25 速+12 対剣・連理と同時使用でアーツ威力補正
【武器アイテム】対剣・連理 力+25 速+12 対剣・比翼と同時使用でMP消費量減少
【アクセサリー】紫紺の腕輪 力+5 器用+4 MP回復速度上昇
な、なんか予想以上にすごそうなんだが……。
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