2-17 満身創痍と謎の少女 サテ、ボクはいったい何者でしょう?
新キャラ、登場!
メタルゴーレムを自爆技で倒した後、俺は死んだように床に倒れ伏していた。体中がめちゃくちゃいてぇです。MPが回復するたびに[生命魔法]を自分にかけまくる。スキルレベルをほとんど上げてこなかった[生命魔法]は効果が低いので、何度も何度もかける必要があった。
まぁ、それ以上に俺が満身創痍だったというのもある。
【堕天之崩撃】は炎属性の魔力で身体能力を強化、土属性で全身の強度を上げ、闇属性の重力操作と【重脚】で跳躍。今回は天井があったのでそれを利用したが、本当なら土属性魔法で足場を作る一工程が追加される。その足場を両足の【重脚】で蹴るとともに重力操作で今度は重力を強くし、馬鹿みたいに加速。最後は【剛拳】を叩き込んでフィニッシュだ。たぶんHPがミリ単位だろうと残ったのは、土属性で体の強度を上げておいたおかげだろう。拳だけ硬化とかやらなくてよかった。手首砕けてたよ、絶対。
決まれば一撃必殺なこの魔闘技だが、その分代償はすさまじい。今も《裂傷》《骨折》《打身》《全身打撲》《脳震盪》などなどの状態異常にかかっている。体は動ないし、じわじわとHPが減る。[生命魔法]で延命しなければあっという間に死に戻りだ。ここまでやってそれは勘弁願いたい。
こんなことなら、もう一つの方法を先に試すべきだっただろうか?
この【堕天之崩撃】を使う方法は、一言でいえば『足りない打撃力を魔法で補う』という方法だ。魔法の力で俺の低い物理攻撃力を限界まで引き上げる作戦。【堕天之崩撃】に使われている魔法は、すべてが俺に作用する魔法。これなら『魔力霧散結界』で魔法を無効化されることもない。あくまで魔法は補助。物理攻撃だからな。
で、俺が考えていたもう一つの方法。それはあの大岩を使う方法。魔鋼とかいうものでできたあの大岩を魔法でぶっ飛ばしてメタルゴーレムにぶち当てるというもの。まぁ、これを実践しなかったのは、単純に威力が足りないと思ったからだ。自分の魔力の総量やらなんやらを考慮した結果だ。
闇魔法で軽くして、風魔法でぶっ飛ばす。メタルボディに効果があったのか、はなはだ疑問である。上からおとして押しつぶすという手段もあったが、魔力が足りないんだよなぁ……。【黒座】で運べればよかったんだけど、あの魔法、上に乗るものが重ければ重いほど消費魔力が増える。トン単位の大岩を運べるとは思えなかった。飛ばす力も足りなかったし、大岩を軽くした分、威力も落ちる。
総合すれば、まだまだ未熟だったってことだろう。精進あるのみ。
ふと、ステータスを見ると、[生命魔法]のスキルレベルがおっそろしい勢いで上昇していた。まぁ、意識のほとんどを[生命魔法]の詠唱に使うくらいは連続行使してるし。重症を直そうとする方がレベルの上りがいいのだろうか? 嫌なレベリング方法だ。
さて、ステータスから状態異常の表記が消えるまで、頑張るとしましょうか。
◇
何とか頭の痛くなるような状態異常群を《打撲》まで減らした時には、[生命魔法]のレベルは43まで上がっていた。新しい魔法もいろいろと覚えていたが、それを確認するのはまた後だ。体を起こして[瞑想]でMPを回復しつつ、いろいろと思考を巡らせる。
「試練って結局、どうなったんだ?」
それが一番疑問である。試練を達成したというアナウンスは確かに聞いた。だが、その後音沙汰が全くない。これだけいろいろとやって無茶したのだから、このまま何もないとかやめてほしい。本気で泣きたくなる。
「あーあ、耐久値が設定されてない初期装備がこんなにボロボロに……。治るのか、これ? というか、今まで初期装備でやってきたのが異常なんだよなぁ」
ゲームが始まってからもうすぐ現実世界で一週間。こっちの時間では一月が立とうとしている。そんな中で初期装備の俺はかなり異質の存在だろう。クロさんに早いところ新しい装備を作ってもらわないと。……[錬金術]で装備って作れないのか? 確かレベルが上がって素材の変形ができるようになってたはず。そう言うのを使って作れないか………。うーん、武器なら何とかなりそうだけど、さすがに防具は無理かな。
錬金術で作る武器……魔剣とか作れるのかね? ユリィに魔剣二刀流をさせるのもいいな。両の手に魔剣を持ち、戦場を舞う白きメイド。うん、なかなか絵になるんじゃないか?
「……って、そうだ。ユリィのこと忘れてた」
ユリィはまだ亜空工房で寝ているはずだ。いや、起きてるかな? どっちにしろ、ここで起きたことを説明しないといけないな。
もう一度体に[生命魔法]をかけてから、アイテムボックスからカギを取り出し、空間に差し込む。空間からにじみ出るように姿を現す扉。なんだか扉に装飾が増えている気がするのは、[錬金術]のレベルが上がったからだろうか?
この扉、意識することで工房ではなく和室に移動することもできる。いちいち工房を経由するのめんどいなーって思ってたらできた。
ユリィはもう起きてるかな? と、考えつつ、扉を開け……。
「ユリィ、起きて――――」
バタン。
全力で閉じた。
………………いや、別に中でユリィが着替えていたとか、そういうラブコメ的な理由じゃない。そもそもこのゲームは全年齢対象。インナーは脱げないし、そのインナーだってスポーツウェアみたいなやつだ。
じゃあなんで中に入らないかって? ………見ればわかると思うよ?
とはいえ、入らないわけにもいかないので、恐る恐る扉を開ける。途端に体に威圧感のようなものが叩き付けられた。
一瞬身構えながらも、和室に入る。そこにいたのは……。
「……どうして一度扉を閉めたのですか? アカツキ様」
全身から不機嫌オーラを噴出しているユリィ。
「クフフ、お疲れサマ。よく頑張ったネ、アカツキちゃん」
そして、見覚えのない、少女が一人。畳に足をなげだすようにして座っていた。
……うん、どういう状況? てか、誰?
ユリィが普通に受け入れていることから、敵とかじゃないんだろうけど……。
「ン? どうかしたノ?」
無邪気に笑う謎の少女。黒髪ツインテに褐色の肌。黒を基調としたミニスカの改造着物を着ている。シズカさんのように着崩しているが、体の凹凸がなだらかなので、色気のようなものは感じない。瞳の色はアメジストのような紫。
ユリィとは正反対に、黒い少女だった。ユリィに負けず劣らず美少女だが、その性質は真逆だろう。ユリィを深窓の令嬢とするなら、この少女はアイドル。美しさと可愛さの違いとでも言うのだろうか?
というか、この亜空工房は、俺とユリィしか入れないはずなのだが……。
いや、いるな。入れそうなやつ。
もう一度謎の少女を見やる。ユリィは純白。この少女は漆黒。そして、和室に入った時から感じていた、威圧感。ユリィの不機嫌オーラに気圧されているのかと思ったが、違う。
この威圧感は、覚えがある。キャラメイキングの時、黒鉄竜に感じたものと同じ……いや、それよりも強い。
黒、そしてこの威圧感。そして、侵入不可能なはずの亜空工房に入ってこれる存在。
そんなめちゃくちゃな存在に、俺は心当たりがあった。
「えっと……。とりあえず、どちら様?」
「クフフ、白々しいゾ? マァ、いっか」
少女は軽やかに立ち上がると、人差し指をピンっと立てた。
「でも、普通に教えるのも面白くなイ。ということで、クイズダヨ」
愉しくて仕方がないという表情をしながら、少女は告げる。
「サテ、ボクはいったい何物でしょう?」
黒き謎の少女……。さて、いったい誰なんでしょうねー? ワカンナイナー。
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